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クリスマス企画! プレゼント小説 前編

 旅は慣れると楽しいものです。色々な人々とも交流できるし、景色に心奪われるのも素晴らしい。
 まあ、さすがに一週間の野宿は堪えますが。
 「んもう、神父様のせいだからね。はあぁ~、ゆっくり部屋でくつろぎた~い」
 「はいはい、悪かったですよ。まさかここで盗みに遭うなんて思ってもみませんでしたから」
 近頃平和が続いていて、うっかり油断して荷物から目を離してしまいまして。いやはや、近くに町があると分かったときには救われた気持ちになりました。やはり、日頃から神に対して感謝してるからでしょう。
 おっと失礼しました。私はとある教会の神しがない神父です。各地を回りながら平和に貢献してるのですよ。ふふ。
 「見えてきましたね。これでようやく安心して眠れます」
 「全くよお、もうっ」
 と、隣で騒ぐ女の子。歳は十七で髪が長く、少年顔負けの行動力が魅力の子です。
 え、私のですか? 秘密です、ふふふ。
 「クイン、あと数時間で行くことにしましょう」
 「へ。あー、うん。わかった」
 どうやら長いこと一緒ですからすぐに伝わったようです。旅をしてると色々なことが起こりますからね。
 退屈なぐらい予定通りに街へと到着しました。綺麗な建物が並ぶ割には人通りが少ないようです。
 それとも、何かの行事でしょうか。
 まあ、入口付近で突っ立っていてもわかりません。少し早い食事がてら情報収集といきますか。
 開いた扉は、まるでこの町を象徴しているように頼りなく寂しいのが気になりました。この音だけなら全体的に貧しいところのように感じますが、そのような報告は受けていませんし、立ち並ぶ木造の建物はよく手入れされてます。
 あるいは、ここは首都から離れた位置にあるためなのかもしれません。
 それにしても妙なこともあるものです。
 「久しぶりのご飯だねっ。いっぱい食べちゃおっと」
 「そうですね。しばらく野宿が続きましたから、ちゃんと栄養をとっておきましょう」
 さすがに育ち盛りの子に食べさせない訳にはいきません。私は元々少食なので問題ないですが、思春期の体に薬草と木の実が中心の食事ではお腹にたまらないのでしょう。必死に狩りをしてましたから。
 お陰様で今後の旅の食料も楽に調達できそうですよ、ふふ。
 もってこられたおしぼりで手を拭くクインは、どうしてか周囲を気にして落ち着かない様子。私たち以外にお客さんはいないのですがね。食事が待ち遠しくて、という動きでもないようです。
 「神父様~」
 「しっ。気がつかないフリをして下さい。その為にきたのですから」
 「はぁい。これでご飯マズかったらタダじゃおかないし」
 半ば本気のようで。
 そのうちいい香りが漂ってきました。ふむ、毒物を使ってる感じはないですね。
 何故わかるのかって? ああ、私は個人的に薬草類に興味がありましてね、植物が好きなんですよ。鼻は生まれつきよくて、嗅いでるうちに薬草のにおいを何となく覚えられたんです。もちろん犬には敵いませんが、強い毒ならそれとなくわかります。
 まあ、洗剤とかならお手上げですけど。
 それに弱めの毒とかしびれ薬なら、クインは寝かしておけばいいことですし。死にませんからね。
 「お待ちどう様。久々のお客さんだから、これサービスするよ」
 「ありがとうございます。頂きます」
 「いっただきまーすっ」
 無用なサービスは受けたくないのですが、いかつい店主さんの頑張った笑みに負けてしまいました。一見炭鉱員かと思うぐらい盛り上がった筋肉ですが、中身は意外に繊細なのかもしれません。
 「んー、おいしいっ。今までの疲れがふっとぶわあっ」
 「食べれる分だけ頼んでいいですよ。決して残さないように」
 財布は数箇所にわけてますので。ちゃんとお代払えます、勘違いしないように。
 追加料理を持ってきてくれた店主は、優しくテーブルに置いていく。
 「しかしお客さん、よくこの町にたどり着けたな。最近はゴロツキ共がうろついてるって話を聞いたが」
 「神のご加護でしょう。私たちの荷物も盗まれましたから」
 「うげ。神官様に対して酷い仕打ちを」
 「ならず者ですからね。それに、この辺りは植物に恵まれていたのが幸いでした。お陰で飢えをしのげましたし」
 「にしてもよく襲われなかったな。命が無事でなによりだが」
 「我々を襲う馬鹿なんていませんからね」
 「へ」
 「いえ、何でもありません。奪われた荷物に多額の寄付金がはいっていたからでしょう。それで満足したのかと」
 危ない危ない、つい口が滑りそうになりましたよ。
 「ふぅ~、ごちそう様でしたっ」
 「よ、よく食ったな。正直、持ち帰るって言うかと思ったぜ」
 座っているとはいえ、座高を超えた皿の高さを見ればそう思うでしょうね。私から見たらいつものことなのですが。
 「見かけによらず大食いでしてね。食材大丈夫ですかね」
 「あ、ああ。それは畑があるからいいんだが。いやぁ、イイ食いっぷりだった。作りがいがあるってモンよ」
 「えへへ。おじさん、見た目は強面だけど料理は繊細だね。グルメじゃないけど、めちゃくちゃおいしかったよっ」
 「おお、舌も確かじゃないか。嬉しいこと言ってくれて」
 ちょっとしたドラマになりそうでしたが、そろそろお暇しなければなりません。宿を探さなくてはならないので。
 「御馳走様でした。ええっと」
 伝票を確認し、必要な額を渡すと、領収書をもらいます。もう一枚ついてきましたが、それは教会に行ってから読むことにしましょう。
 はあ、これだから余計なサービスは受けたくないんですよ。内容なんて長年旅をしていれば状況から読みとれますのでね。
 心の中で少々悪態をつきながらも、目的地の場所を教えてもらうことができました。飲食店としてのサービスはとても素晴らしかったため、素直にお礼をいえてよかったですよ。
 とはいっても、この町の異変から察するに、致し方ないでしょう。体は鍛えることはできても戦うことはできないでしょうから、ね。旅人に助けを求めたくなる気持ちもわからなくはありません。
 個人的には賢明な判断だと思います。ただ、私じゃなく他の人にしてほしかったのが本音です、はあ。
 店をでてから三十分ほど歩いた先にある教会は、入口から真逆の位置にありました。周囲は小さな森で覆われており、途中の道も整備されてお年寄りにも歩きやすくなっています。もちろん、身を隠して待ち伏せできるような植えかたもしていません。
 教会に到着した我々は、管理の行き届いた建物周辺に感心しながら扉を開けました。掃除はきちんとされていましたが、肝心な修道女や信徒はいませんね。
 コツコツ、と響き渡る靴音は、来訪者をあまり歓迎しませんよ、といわれてるように感じます。
 さすがに誰かがきたと気づいたのか、修道女が奥から走ってきました。
 「申し訳ありません、ようこそ教会へ」
 「お邪魔します。私はフィンリーという旅の神父です。こちらはクイン」
 「どうもでーす、お姉さん」
 と、これは放っておくとして、彼女にあるブローチをお見せしました。これは私しか持っていないタイプの、変わったものです。まあ、身分証明物でもありますね。
 ちなみに、我々の教会では階級によって専門のブローチが持たされています。
 「ま、あ。白と黒が半分ずつの。宜しいでしょうか」
 「もちろん。お確かめ下さい」
 一礼をした修道女は、ブローチに手をかざし、なにやら唱え始めます。これは当教会独自の魔法でして、施設を預かる管理者が必ず会得しているものです。初級系が使えれば誰でも会得できる簡単な魔法ですが、ブローチが偽物でないことを証明するとても大切なものなのですよ。加工も特殊な技術を要するそうですから、二重セキュリティになるわけです。
 「はい、確かに本物ですね。ありがとうございます。ご案内致しますわ」
 やれやれ、ようやくゆっくり本が読めそうですね。クインもようやくひと安心といった表情です。
 「助かります。ところで、教会には貴女一人ですか」
 「え、ええ。まあ。本当は交代できるようにして欲しいのですけど」
 「それはお困りでしょう。本部に通達しておきますよ」
 「ありがとうございます。こちらです」
 「案内ありがとうございました」
 「ど、どうぞ、ごゆっくり」
 一礼をした修道女は話すのが苦手なのでしょうか。ずいぶんとあたふたしていましたが。
 部屋に入り久しぶりのベッドにダイブしたクインは、少しごろごろして身を起こすと、
 「とりま様子見ながら体力戻すって感じでイイ」
 「ええ。今回はそう急ぐこともなさそうなので」
 「了の解っ。今回は楽勝なんじゃない」
 「どうでしょう。油断はしないことです。また大変な目に遭いますよ」
 「あれはもうイヤ。死ぬかと思ったもん」
 「ふふ。少し肝が冷えましたよ、さすがに」
 「んま、その分オレイはたっぷりとしたからいいけどさ」
 確かに。あれは中々見ものでしたからね。
 荷物整理をしながら予定を確認し、さっそく明日から行動を開始します。やりたいことがあるので、仕事はとっとと終わらせる主義なんですよ。ただ単に旅をしているわけじゃないのです。理由は大きくふたつありまして、ね。
 とりあえず今日は今までの疲れをとることにしましょう。
 翌朝、修道女が作ってくれた食事をいただき、町を散策することに。数日はかかると思っていた体力の戻りも、思いのほか早く既に元通りです。
 「それにしても神父様の体力がすぐ回復したのは驚いたわ」
 「人を年寄り扱いしないでもらえますかね」
 「いやいや、そーじゃなくってさ。道中肉ほとんど食べなかったじゃん」
 「あー、そうでしたね。干し肉を少しぐらいでしたか。代わりにコレを飲んでたので」
 「え、いつの間に。気がつかなかったよ」
 そりゃ体力落ちないわけだ、とクイン。これは特別製の飲み物でしてね。ある意味非常食みたいなものです。
 はてさて。この街の奇妙なことが何点か見えてきました。
 まずは町の入口にある建物は周囲に比べて立派だということ。昨日気がついたことで、木造建築物が多いのに、まるで小さな見張り塔のような堅固な造りになっています。この町の規模には不要でしょう。魔物も頻繁に出没するわけではありませんし。
 次に日が昇ってるにも関わらず、人通りがないのです。普通なら仕事をしてる人々や遊ぶ子供、そのお守りなどが外で活動してるはず。それなのに、私たちの会話が響きそうなぐらいシンとしています。廃村寸前なら理解できるのですが。これでは商売上がったりでしょうね。
 あとはよくある話なのですが、キナ臭いが漂ってます。これは荷物を盗まれる前から感じていたことなのですけど。
 ええ、犯罪者共が蠢く気配、感覚、とでもいいましょうかね。ふふふ。
 「神父様、楽しそーだね」
 「もちろんですよ。こんな愉快なことはありません」
 「うっわぁ、不謹慎っ。腐れ神父もイイトコ」
 「現実的といってください。世の浄化を願う純粋な神父の心持ちなのに」
 「その口がいうのっ。むしろ神様に対する冒とくな気がする」
 「失礼な。どういう意味ですか」
 「言葉のまんまでーす」
 余計失礼でしょう。まったく。
 まあ何がいいたいのかはわかりますがね、ふふ。勝手知ったる、とやらです。
 道中、怪しい箇所はなく、表面上はいたって普通の町。これで表に人がいれば誰も疑いをもたずに暮らしていたでしょう。観光業を営んだほうが町全体が活性化されるのではと思いますが、そこは管轄外なのでおいておきます。
 先日訪れた食事処の近くは商業区域になってるようで、様々な店が露天として並んでいます。入口から少し入ったところにある辺り、領主か誰かが配置しなのかもしれません。
 閑古鳥が鳴くお店に駆けよったクインは持ち前の好奇心から物色し始めました。ウィンドショッピングが好きなようで、何かを見つけてはいつも走っていってしまうので少し困りますが。女の子ですから妙なモノに絡まれるんですよね。相手はすぐに宙を舞いますけど。
 まあ、今回は大丈夫でしょう。
 「わー、キレイなお皿」
 「昨日来た人たちだね。お家用ならオススメだ」
 「そっかぁ。固定しなきゃ割れちゃうもんね。木製とかパリンっていかないものってどれ」
 「そうだねぇ」
 「コレとかどう、お姉ちゃん」
 スッ、とクインの隣に並んだ男の子。こら、といわれている辺り、店主の子供でしょうか。手には木製の皿があります。
 「おっ。頑丈ならいいな」
 「よっぽど乱暴に落とさないかぎり平気だよ」
 「失礼。貸してください」
 子供から皿を取り上げた私は、魔法をかけてクインに渡しました。彼女は手にとって手首を回したり、コンコン、と叩いたりします。
 「大丈夫そう。これいくら?」
 「ええっとね」
 子供が札を覗きこみ、十八リュークと伝えます。値段だけ見たらずいぶんなボッタクリです。
 「この辺りは人が少なくて収入がないんだよ。すまないね」
 「特産の木材でも使ってるのですか」
 「いや、そういう訳でもない。特産品のはこれだよ」
 と指さした大皿に視線を移すと、二〇〇リュークになっています。特産品なら安いと思いますが、日用品がえらく高額になってるのが気になりますね。足元を見ているのでしょうか。
 「いつもこの値段で売ってるのですかね」
 「い、いや、それは。最近、収入が少なくて」
 「いつからこの値段に?」
 「半年前、から、だよ」
 店主は視線を泳がしながら話します。正直者ですねえ、きっと仕入れではなく自ら作っているのでしょう。
 「うーん、これほしいなぁ。何枚か買うからまけてよ」
 「セセ、セット売りはやってなくって、ね」
 「え~っ。じゃあ今やってよ」
 「それは、その。かみさんに相談しないと」
 子供の表情がみるみるうちに曇っていきます。それに、頑固職人とは少々勝手が違うようで。
 「クーリングオフが利くなら買いましょう。もちろん未使用品でです」
 「えーっ。神父様、太っ腹~っ」
 「この木目は美しいと思いますよ。見ているだけでも楽しめるでしょう」
 「はい?」
 きょとんとする相棒に視線を送りました。
 「そ、そうだねっ。さっすが神父様、色々と旅してるから博識だもんねっ」
 相変わらずものすごい大根ですね。
 「ま、毎度っ。今包むから少し待っててくれ」
 久々に売れたのが嬉しいのでしょうか。親子で梱包している姿は微笑ましい限り。
 親子にお礼をいいその場を後にすると、次々に露天へと回っていきます。どの店も皿売りの店主と同じ質問をしたのですが、しどろもどろの返答ばかり。王都にいったら詐欺師のいいカモになりそうなほど、素直でした。
 こちらとしては助かるのですが、ね。

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