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ゆうがたのそら(H.Kちゃん)

この記事は2020年8月9日にホームページにて掲載したものです。

「なにか絵が描きたいんだけど…」
久しぶり(約1年ぶり!)に来てくれたHちゃんが、僕に向かって言った。

教室に入ってからは、しばらくマーブリングで色遊びをしたり、画用紙を切って模様作りをしていた。30分ほどそれに熱中したあとに、ふと、肩の力が抜けた様子で僕にそう言った。
「描きたいんだけど…」の続きの言葉をしばらく待ってみたけど、そう言ったきりHちゃんは僕の目をじっと見ているままだった。
「だけど、なんだろう?」と僕が笑いながら切り返すと、「わかんない」と笑うHちゃん。
なんだか困っているようだった。


ひとまず僕は心の中で、全国の小学校に怨念を飛ばした。「課題ばかり与えて、想像力を奪う小学校の図画工作め!」って。
まあいい。そんなことはいい。(笑)
描きたいという気持ちが大切。
Hちゃんの心を少しずつほぐしていく。

「景色? 動物? 人? それとも模様?」との僕の質問に、「空が描きたい」とHちゃん。
僕はエスコートを続ける。「いいね。空。どんな空だろう。いつの時間でどんな天気かな。」Hちゃんはじっと考えている。その後で、「夕方の空がいい。きれいな空。建物がならんでるところ。」どうやら頭の中に下書きができたみたいだった。
それから一緒に、紙の色や大きさ、使う画材を選んだ。
Hちゃんは「これいいかも」だなんて言いながら、使ったことのない画材にも手を伸ばしている。楽しそうだ。

建物はオイルペンシルで鮮やかに描いたよ。
まだ明るい空には星をたくさんちりばめた。
「月を描きたんだけど…、どうやったらいいの?」
Hちゃんが僕に訊いてくれた。
いいぞ。「だけど…」の後に言葉が続いている。心がほぐれているしるし。
僕はありとあらゆる月の表現の仕方を描いて見せた。Hちゃんはその中で気に入った月の描き方を真似て、作品の中に描き入れた。次からはもう、月の描き方で悩むことはなさそうだね。


一番の工夫が、空の表現。ステンドグラスをイメージしてるんだよ。一本一本色鉛筆で丁寧に引いた。きれいだね。

時間いっぱいまで集中して描き上げた絵を見て、Hちゃんはとても満足そうだった。
裏に日付とサインも入れたよ。


少しずつでいい。決して焦らなくていいから、Hちゃんが自分の好きなことに気づいて、それに向き合う時間が増えてくれるといいな、と思っています。


P.S.
実はHちゃん、去年の夏にも同じようなモチーフで絵を描いている。本人は覚えているのかな。
心の中に強く残っている映像は誰にでもある。僕らはきっとそういうモチーフを繰り返して、自分の表現を見つけていくんだと思うな。(しみじみ)

>>ほしぞら(H.Kちゃん)

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