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初海外はバリ島で。スミニャック編

なぜ当時もっと動画を撮っておかなかったのかと、今になってひどく後悔している。私の貴重な新婚旅行はしがない写真しか残っていない。

ていうか、観光もインドネシア人に全てお任せしていたせいで、どこに行ったのかをてんでわかっていないまま今に至る。
撮った写真の背景や、写真データに残っているGPSを頼りに場所を特定しながら私はこれを書いているという、なんとも情けない話である。

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さて、さぁ観光するぞと意気込んでいた私たちは、午前中にホテルロビーでガイドと落ち合った。その人は夫が知り合いを通じてSNSで連絡を取った人で、どうも少し日本語を話すことが出来るらしい。
「Mr 〇〇?」
中年のインドネシア人に声を掛けられて、普通に「はい」と返事をしながら私たちは立ち上がった。声の主はこんがり日焼けした中年男性で、観光案内をするにしては派手な民族衣装のようなものを着ている。

―なんだ、わざわざ民族衣装を着てのご案内か。

厚かましい日本人はそう思った。
促されるがままに、白いワンボックスに乗り込む。そもそもツアー会社でもなんでもないので、ごく普通のオンボロ車だ。
なんだか怖いけど大丈夫か、とスマホを握っていた私の手に自然に力が入る。
民族衣装男と、手下らしき運転手の男もいた。日本人と違って、「いやぁ、絶好の観光日和ですね」なんていう枕話はないのである。

「ドコイキタイ」
「んー。ケチャック見たい。あとスミニャックでショッピング」
「オーケイ」

本当にオーケイなのか。本当に大丈夫か。だいぶおおざっぱだな。

心配をよそに車は昼間のジンバランを抜け北上し、まずはスミニャックを目指した。

「ココ、メチャコミマス」
ガイドが言うように、メインは追い越しが出来ない1本道で、しかもグネグネしているものだからなかなかスムーズに進まない。
夜中と同様に2~3人乗りの原付バイクが道路を埋め尽くし、ワンボックスカーは急発進と急停止を繰り返しているせいで身体が常に大きく揺れた。日本にいてはあまり使うことのない、アシストグリップを握る。
アシストグリップってそもそも御存知か。車窓の上にあるあのグリップだ。私自身、この日記を書くために「車 手すり」と検索したほどだ。

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行きかうバイクや車を眺めていて昨夜と違っているのは、原付バイクに乗っているのが西洋人が多いという点であった。どうやら彼らはバイクをレンタルして街中をめぐっているようだ。左側通行で、かつこんなにバイクがはびこっていない日本でしか運転してことがない私からすると、こんな異国の地でバイクに乗ろうなんざほぼ自殺行為に近い。そういうサガも日本人と西洋人の違いなのかもしれない。
(単に私が心配&不安症なだけなのか)

時々スマホでGooglemapを開き、私はきちんとスミニャックに向かっているのだろうかと確認していた。

「ジャアココデマッテル」
車はなにやらポップな配色の通りに停車した。
「ついたの?」
「ぽいね」
日本人夫婦はひそひそと会話をする。
観光客しか歩いていない様子からしてここがスミニャックなのだろう。ブティックのような店構えをしている並びに私たちは降りた。
スミニャックは観光誌に必ず載るほど有名なショッピング街で、私たちはここでアタ製品を買おうと考えていたのだ。

2時間後に集合ということで、私たちは車を離れた。

さっそくアタ製品が買えるというアシタバのスミニャック店へ足を運んだ。アタ製品というのは、ツルを編み込んだバリの東部トゥガナン村発祥の伝統工芸品らしく、バッグや小物入れを中心に人気らしい。
アシタバの店内はそれほど大きくなくこじんまりとしていてバッグをメインに販売してあった。
価格はものによりけりだが、バッグは日本円にして1500~5000円、雑貨は1000円もしないほどである。ちなみに同じものを日本のネットで買うと何倍も価格が跳ね上がる。

ここでなぜか私はバッグを購入しなかったのである。あとになって考えると本当に意味が分からない。しかし、不思議なもので「買うぞ!」と意気込んで行ってもいざその時になると「うーん…欲しいのないなぁ」となってしまうのである。

結果、義母にアタバッグを、家用にコースターを購入してアシタバの店を後にした。

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出発前から夫が「スーパーに行きたい」と何度も言っていたので、スミニャックで有名なスーパーにも足を運んだ。

スーパーで何買うん。生鮮食品なんか買えんし。
当初はそう思っていたが、いざ行ってみるといい意味で裏切られた。

空港やホテル、観光スポットで売っている全く同じものが半額近い値段で売っているのだ。
お土産用の固形ソープ、チョコレートなどの菓子類、お香など雑貨類……。

それこそスーパーの価格で販売してるため、日本で言うなら抹茶味のチョコレートが空港なら1000円、でもスーパーなら実は398円くらいで買える―極端な話そんな感じだ。
お菓子やご当地ラーメンならぬ、インドネシアのインスタント麺やビンタンビールをここぞとばかりに買い占める。安いわ、安い。
夫はこういう時にA型を存分に発揮する。
興味のあることはとにかく損しないようにとことん調べ上げるのだ。
興味がないことは病的に適当人間なのでそこは十分注意が必要であるが。

…というわけで、小分けにして配るようなお土産類はスーパーで買うと随分と割安になることがわかった。しかも、スーパーで色々見るのも結構国柄が出ていて面白いものだ。

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スーパーの脇にあったトイレ。観光スポットや空港、ホテルは日本と同じようなトイレだが、基本はこのスタイルだ。トイレットペーパーなんてないない。

バリではもうここで大半のお土産を買わないと、あとはもうホテルか空港しか寄るのが日程的にも難しかったので、家用のソープやお香も山盛り買った。大盛りのカゴをカートに積んでレジに並ぶと、地元の人に「爆買いしてんな……」という視線をもれなく頂戴し、私たちは2時間後集合場所へと戻った。


いやいやすみません、買っちゃいましたわーとホクホクしながら約束の場所に行くと、私たちに気がついたガイドの運転手がにこやかに車のドアを開けてくれた。しかし、あの男はいない。

あれ?あの民族衣装男は?

かわりに民族衣装男と張り合うほど日焼けをした同じく中年男性がニコニコしながら助手席に乗り込んできた。

誰?

そう思っていると夫にSNSのDMが入った。送り主はあの民族衣装男だ。

『地元の祭りがあるんで行けません。ガイドは知り合いに頼んでますんで』

へー。そうなんだ。じゃあ何も言わず助手席に乗り込んできたあの人がその「知り合い」ってやつか。


いやいや。なんで約束の仕事早退して地元の祭りに行くんや。


初めに抱いた一抹の不安は決してきのせいではなかったのである。




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