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=LOVE『あの子コンプレックス』、不安定な恋愛感情が楽譜でも表現

指原莉乃さんプロデュースのアイドルグループ、=LOVEが2022年に11thシングル『あの子コンプレックス』を発売している。センターは佐々木舞香さん。「コンプレックス」とあることから、人と自分とを比べてしまうことが曲のテーマである。アイドルの劣等感を研究する上でこの曲を取り上げるべきなのだが、曲の主体はアイドルに限定されない。

この曲のピアノ譜をウェブサイト「mucome」(TM Musicさん)で見てみよう。調はシの音にフラットが付くだけのF dur(ヘ長調)で始まり、「こっちを見て」の直後と「バカなふり」の直後から最後まではファにシャープが付くG dur(ト長調)なので2つ。どちらも憂いを表現するのにぴったりの調だ。

『あの子コンプレックス』の歌詞には、過去に想いが通じ合っていた2人のうち片方が他の人に気移りしていることが描写されている。相手に大事にしてもらっているが、私はあなたの宝物ではなくなったという切ない失恋を、言葉ではなく雰囲気で経験している。

失恋を味わっている女の子は好きな人が他の人ばかり考えているのに気が付いていて、でも気付かないふりをする。

その不安定な情緒が作曲や楽譜にも表れている。歌詞のある部分では単なる四分音符や八分音符が極端に少なく、各歌い出しは3か所を除いて毎回アウフタクトや裏拍から入る。

3か所とは「沈む船は戻らない」「星も消えたこの夜に」「あの子に触れているのでしょうか?」の歌い出しをいう。

アウフタクトで始まるのは1番歌詞の冒頭「冬までの粉雪は」「あなたに映ってる私は知らないふりをした」など。

裏拍もかなり多い。拍の頭から歌えれば歌手として楽なのだが、そうするとまっすぐな気持ちや明るさが出てしまい、歌詞にそぐわなくなってしまう。

歌手にとってこの曲は♩=89のテンポで全く速くはないのに、ほとんどの入りがアウフタクトや裏拍から始まるため入り遅れることが許されないし、ゆったり歌えない。歌う人は急ピッチで進む楽譜を感性豊かに読み取る必要がある。

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