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僕は、どうしても、洋書が読みたい(2)

いくら海外ドラマを観てだいたい何が起こってるか把握できるようになっていても、いくら海外のyoutuberの動画がだいたい聞き取れても、それでもまだ洋書の文章が難しいというのは、そういう現代の私生活で使用される語彙と全く異なる語彙に常に出くわして、その度に唸ってしまうからかもしれない。
それは、今僕がこんな風に、朝旦那さんと会話する時に使わないような語彙でnoteで雄弁につらつら言っているのに似ているのだろう。
それなら簡単な語彙を使用した児童向け書籍を読めばいい、語彙量や文法が読みやすく調整されたGraded Readersを読めばいいという方法もあるけれど、それだと僕の動機に反している。読みやすいようにハードルを下げてくれる親切さに仇で返すようかもしれないけど、僕は結局、効率よく読みたいのではなくて、著者が魂から引きずり出した言葉の羅列を、その状態のまま吸い込みたいと思っているのだ。

例えば日本の小説で言うと森見登美彦の作品が好きで、金魚やお酒、趣深い街並みといった情景描写やその他味わいある表現で埋め尽くされていて、読んでいると架空の京都の町をきままに散歩しているかのような楽しい気持ちにしてくれる。洋書を読む時、ジョージ・R・R・マーティンが表現する文章を読む時、少し褪せた金属の甲冑の鈍い輝きなんかを書き表す単語が紙面に並んでいる時、日本語で丁寧に編まれた文章を読んでいるのと同じようで全く別の世界に吸い込まれたような感じがして、そんな感覚をまた味わいたくなるのだ。難しい難しいと唸りながらそれをまたどうせ求めるので、僕はジョージ・R・R・マーティンの氷と炎の歌の原作を読むのをついに諦められないと思う。

僕は、Game Of Thronesという海外ドラマを全シーズン鑑賞した。最初は少しとっつきにくく、ドラマの世界にすぐには入っていけないように感じていたが、実際はほどなく夢中になった。特にティリオンというキャラクターが大好きだし(彼の話をすると長くなりそうなので、また別の機会に)、最初はぱっとしなかったキャラクターも物語が進んでいくうちに存在感が増していったりする場合もあって、たくさんの魅力が詰まったドラマだった。中世ヨーロッパ的な世界観や景色が素敵で、衣装も含めて精巧に制作されたドラマだった。人気絶好調だったので予算に余裕があったことも一因だったのかもしれない。
ただ、「だった」と意味深に言った理由は、ドラマの最終シーズンが僕たちファンにとってほとんど裏切られた形で幕を閉じたからだ。

多くの登場人物は、物語の中でいくつもの不運に見舞われ厳しい試練の中生き抜いていくのだけれど、待ちに待った最終シーズンではやはりある種の大団円、あるいは、幾多の悪事を働いてきたものには残酷な報いが、苦難を強いられてきた者たちにささやかな安堵や成功が待っていて欲しかったと、僕を含めてファンは思っていると思う。実際に僕らを待っていたのは、期待はずれの幕引きだったのだ。直前まで丁寧に構築されたプロットを見せてくれた物語が、なんだか安っぽいメロドラマみたいに締めくくられていくのを、僕たちファンはなんともいえない気持ちで見守る形になってしまった。

原作者のジョージ・R・R・マーティンはこの結果に対して、「ドラマが原作を追い抜いてしまったからだ」と溢したという。それを聞いてなんとなく腑に落ちたし、納得できた。最終シーズンの内容は、今まであんなに巧妙に構築された物語を描く人が作ったようには全く思えなかったからだ。商業的に成功したことが良くも悪くも聴衆をあまり長く待たせられない状況に追い込んでしまったかもしれないし、そこで番組ディレクターたちは多少原作と違っても自分たちなら素晴らしいエンディングを撮れるのではないかと、よく言えば自信を持って、悪くいえば奢ってしまったんじゃないか。

以上のような悔やんでも悔やみ切れないGame Of Thronesへの思いを唯一晴らすことができる方法が、その原作「A Song of Ice and Fire」の読破なのである。(現時点で未完だが、完結まで共にする意味も含めて。)
そこでどんな結末が待っていたとしても、それがジョージ・R・R・マーティン自身によって紡がれた物語なのであればそれが真の結末なのだから、きっと受け止められる。

僕は別に読書が得意でもなんでもない上にむしろ苦手で、学生時代もそこまで読んでこなかった。活字が並んでいればいるほど僕には向かないものとして、読書感想文の題材も毎回図鑑を選ぶほど徹底していた。だけどある日、家にあったミヒャエル・エンデの「はてしない物語」のハードカバーの本をなんとなく手に取り、2年もかけて最後まで読み切った。この体験をした時に、どこまでも並んでいる活字をどこまでも追いかける行為に、自分にとっての何かしらの価値が見いだせたのだと思う。それ以来読みたいかもしれないと思った本は読もうと努力するようになった。
あれから何年もたった今、「星を継ぐもの」や、「プロジェクト・ヘイルメアリー」を読了することが出来たのは、あの日の自分のおかげだと思う。両方とも死ぬまでに読んでおいてよかったと思える傑作だ。(「星を継ぐもの」は実はまだ3巻までしか読めていないけど、今年全巻の新装版が出る予定なので、順次読もうと予定している。)

という訳で、どのくらいかかるか分からないけど、「A Song of Ice and Fire」への挑戦を続けていこうと思う。
実際は、ドラマを見たおかげで登場人物や設定がほぼ頭に入っているから、世界観を全く知らない本よりよっぽどとっつきやすさがあるのだけど、いざこの大作を前にしてその分厚さを目の当たりにするとちょっと腰が引けていたりしていただけなのかもしれない、思ったより低い障壁なのかもかもしれない。そんな風に認識を正しながら、続きを読んでいこう。



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