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なんでもない旅行が大好きなドラマの聖地巡礼になった

ゴールデンウィークが終わり人の流れが落ち着いたころ、私は函館にいた。羽田から飛行機で1時間半。たまっていたマイルをようやく使うことができた。

初めての北海道。まだ上着が必要なほど寒かったけど都心よりも空気はずっと澄んでいた。空港からバスで向かったのは湯の川温泉。ホテルにチェックインし、早めの夕食と函館山までの観光タクシーをお願いした。

このときはまだ聖地巡礼になるとは思いもしなかった。ホテルの豪華な夕食に舌鼓をうち、函館の誰もが知る有名な夜景を見て、あとは寝るつもりだった。

すべては函館山の展望台からホテルに帰るタクシーの運転手さんの会話から始まった。ホテルまでの送迎のついでに街の観光スポットを案内してくれたのだ。

函館の朝市の美味しいお店、赤レンガ倉庫、地元の人しか知らない絶景スポットを巡り、最後に綺麗に整備された石畳の坂にタクシーは行き着いた。

「ここは有名なロケ地なんだよ。映画やCMでよく撮影されるんです」

教会が多く集まる地域にあるその坂は、計算し尽くされた構図と塵ひとつない夜空をバックにひとつの芸術作品だった。都会にはない幻想的な「絵力」に私は完全に吸い込まれた。

 ◇  ◇  ◇

ホテルに戻ってさっきの場所について調べると驚いた。私の好きなドラマのロケ地として使われていたのだ。

2002年放送「ランチの女王」。最終回に函館を旅するシーンがあり北海道ロケが行われていた。

偶然訪れた地で思い出の作品に再会できる。緊張と歓喜のあいだでこの夜はほとんど眠れなかった。

翌朝、私は函館の路面電車にのりこんだ。この小さな街は路面電車でほとんどの観光地を巡ることができる。電子マネーも使えて利便性も抜群だった。

道路の真上にある路面電車用の電線も「街のインテリア」として存在感を出していた。湯の川温泉駅から約40分。末広町駅で降りると昨日タクシーで来た坂の下に到着する。坂を登り海の方面を振り返った。

ここは八幡坂(はちまんざか)。坂の下は函館湾につながっていて、青い空との連携で開放感は抜群だった。見る人を釘付けにする魅力が石畳や街路樹からも伝わってきた。「ランチの女王」ではこの坂を主役の竹内結子さん一行が歩いて登るシーンとして使われていた。

そしてこの旅のクライマックスはこのお店。

八幡坂とは別の坂の入口にブティックのお店がある。ここはドラマの中でみんなでランチを食べるレストランとして登場していた。

私は何度もそのお店を眺め、何枚も写真を撮った。素敵な外観はオシャレなレストランさながらだった。竹内さんもここに来たんだ。

 ◇  ◇  ◇

大好きなドラマだった。

竹内結子さんの笑顔がハイライトだった「ランチの女王」は当時ドラマを見始めた私にとって青春のバイブルだった。彼女を失ったときは単純に可哀想だと思った。少し年上のお姉さんが遠くに行った日は記憶から抜けない。でもこの日、憧れの人と少しだけ時間を共有できた。

函館は素晴らしい街だった。五稜郭も赤レンガも最高のビュースポットだった。人が多すぎることも少なすぎることもないボリュームの街並みに私はすっかり溶け込んだ。

感傷に浸る私を冷たい風が駆け抜けた。名残惜しい北風を背にわたしは函館とお別れした。


ありがとう函館。ありがとう竹内さん。

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