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本のための灯台があるならば



 日記が二日前で止まっていることに気づいた今。かといって非生産な日常を送っていたので特筆することがなかった、と思う、だけど内面は結構もろもろになってしまっていた。猫を撫でただけで涙が出るくらいにはきてました、いろいろ。

 やっと少し霧が晴れてきたので、また霞んでしまう前に書く。昨日、たま子さんがわたしの最推し本の『灯台守の話』を読了したとの報告をツイートで見かけて、しかもとてもいい感想を書いてくれていて、嬉しかったのだった。自分にとって大好きな本が同じく褒められるのってとっても嬉しい。わたしという欠片をわけたような気持ちにすらなる。(わたしの作品ではないのだけれど。)本当にいい小説なんです。嬉しくなってまた読み返してしまった。やっぱいい。本当にいい。

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 孤児となった少女シルバーは、不思議な盲人の老人ピューにひきとられ、灯台守の見習いとなる。夜ごとピューが語る、数奇な二重生活を送った牧師の物語に導かれ、やがてシルバーは真実の愛を求めて独り旅立つ…二つの孤独な魂の遍歴を描いた傑作長編               本書裏面あらすじより


  ピューがいうに、灯台そのものが物語であるという。灯台守のピューは、バベル・ダークの話をシルバーに話してあげる。シルバーもまた、いつか灯台守としてやっていくには、物語が話せるようにならなければならないという。ピューが知っているのも、彼が知らないのも。

 

ピューはきびしい顔になって、遠い船のような目をしてしばらく黙った。「器械の使い方だったら、わしはーわしでなくとも誰だってーいくらでもお前さんに教えてやれる。灯は今と変わらずきっかり四秒に一回光るだろう。だがな、お前さんに本当に教えてやらねばならんのは、光を絶やさないようにすることだ。どういう意味か、わかるか?」わたしはかぶりを振った。「物語だ。それをお前さんは覚えなきゃならん。わしが知っているのも、わしが知らないのも」「ピューが知らないものを、どうやって覚えればいいの?」「自分で話すのさ」 (50頁より引用)


 そうして少女とピューの生活が始まるのだけど、ピューの話すバベル・ダークの物語はとても数奇なものであったし、読んでいるうちにどんどん引き込まれていって、最終的には泣いているのだった。


 それはわたしだって知っている。でもわたしは他のことも知っている。なぜならわたしは灯台守として育てられたのだから。日々の雑音のスイッチを切れば、まず安らかな静寂がやってくる。そしてつぎに、とても静かに、光のように静かに、意味が戻ってくる。言葉とは、語ることのできる静寂の一部分なのだ。(151頁より引用)

 灯台が無人化されることが決まってしまい、シルバーとピューは離れ離れになる。シルバーは再び独りぼっちの世界に取り残されてしまうのだけれど、ピューが物語を通して教えてくれた真実の愛を求めて旅に出る。シルバーの勇敢さと心の強さ。胸がギュッとなる。そして、ピューが語ってくれたバベル・ダークという聖職者の人生もまた、百年の時を隔てて彼女と響き合っていく。 

 物語はいつまでも語り継がれていく。灯台守から船乗り、船乗りから新たな灯台守といった、人から人へと繋がる。そこに終わりはなく、こうして、わたしがこの『灯台守の話』がよかったんだよ、と言うことをたま子さんに教えて、そしてたま子さんがこの本を読んで良かったと思ってくれて、またその喜びが他の誰かに伝わっていくっていう、わたしとたま子さんの繋がりもまた似ているのだと思う。わたしは灯台守ではないけれど、もし本のための灯台があるならば、わたしは迷わず灯台守となって、この本をみんなに語ると思う。

 

 心が沈んでいる時に、こうした喜びがあることをありがたく思う。今夜もまた冷えるし、まるで乱視のせいで月が二重に見えるように、自分もまた一つになってはいないけれど、穏やかに過ごしたい。


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 今日描いた季節の変わり目がめっちゃ辛い話、結構共感してくれる人が多くて、やっぱりみんなそれぞれ大なり小なり、抱えているものも辛いこともたくさんあるのだとわかった。みんな一緒。だからって我慢はいらないけれど、せめて、楽になれる方法があればいいのにと思う。

 

 明日はもう少し、楽に息ができるといい。でないと本が読めない。


 おやすみなさい。

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