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『夜が明ける』を読んだ勢いの感想


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 読了した勢いで感想を綴る。


 この本は今、あなたがもし、社会的な、もしくは精神的、身体的な意味で、太陽のキラキラした光を浴びながら外を出歩くことが困難な人にはとても、とても、痛くて、苦しくて、とても心に負荷を与える物語になるかもしれない。

 特に、読みはじめて、物語の流れの中に紛れる、自分と重なる不幸な、もしくは経験したことのある状況や精神状態を読むたびにその負荷は高まり、まるで暴露療法のようなことをしている感覚になるかもしれない。読み終わった今も私は胸が痛くて、だけど、読み終わった頃には最高潮に高まっていた負荷を乗り越えることができているのも事実だ。それは、最後まで読まないとわからない。強くてまっすぐな、おそらく西さんにとって読んでくださっている人に伝えたい、わかってもらいたい思いが何ページにもわたって一気に描かれている。そこを読んでいるうちに心の昂りは徐々におさまっていった。

 『苦しかったら、助けを求めろ。』

 本当にそうなんだと思った。その一文を読んだときに心拍のドクン、という音が耳の中で聞こえた気がした。


 本の感想を述べるにあたって、本文を引用することもできるのだけれど、この本はそれができないと思った。どこをどう切り取っても伝わるのかもしれないけれど、なんでだろう、できない。今、こうして感情の赴くままに書いているのだけれど、5年越しの長編のこの厚みと重みに詰まっていることを細々と引用して、「ここがよかった」「ここが感動した」、というのができない。

 一気に読んで、一気に昂って、一気に希望のような何かを見つけた。乱れる感情の勢いの中にしか感じ取れないものを感じ取った以上、読んだ人にしかわからない気持ちを大事にしたいと思ったので、あくまで私の感想を書き留めることにした。いいよね。(インフルエンサーでもないのだし、読書好きの誰がこの記事を読むか読まないかもわからないし。)

 もし、これから読もう、読んでみよう、とする人がいるのであれば、ぜひ読んで!!とも言いたいけれども、読んだことでもしかしたら受ける心の負荷に関しては自己責任で、と言いたい。私が変に感情移入しすぎたせいもあるし、そこは個人の裁量に任せればいいのだけれど、私の周りの本好きの人たちには、繊細な人が多いように思うので、(私も含め)読めばきっとそれなりの衝撃を受けるとは思うし、もしかしたらなんてことなくさらっと読めるのかもしれないし、わからないけれど、この一冊の本んの熱量に私は圧倒されてしまったから。考慮していただければ。

 西さんは今回の作品を刊行するにあたって、伝えたいいろんなことを詰め込みすぎちゃった、みたいなことを仰っていた。

 でもそれは、伝えたいこと、伝えるべきことがたくさんあるからで、しかも、その詰め込まれている混沌こそが現実で、本当にあることばかりで、社会はそれでも動いていて、光があれば闇は絶対にあって、とてもじゃないけれど、心に傷を負っていたり、今、前向きに社会への復帰を望めない人たちにとっての地面そのものであって、でも実は誰にでも起こりうることでもあって、一人きりではどうしようもないことばかりがそこらじゅうにあるのだと気付かされるし、気づいていたことを改めて認識させられる。

 そんな世の中だからこそ、『苦しかったら、助けを求めろ。』という言葉が救いであって、逃げなくてもいいから、とにかく前を向いて、誰かの助けを求めて。公的な機関での援助を求めて。一人きりで生きていこうとしないで。どうにもならないなんて絶望しないで。生きて。壊れてしまわないで、という願いが込められていると思う。


 あまりにも感情を本に預けすぎて、息を吸うために顔を上げていた。でも、他のことを考える余裕もなかったし、早く読まなければとも思った。 

 たった一度でも閉じてしまったら、もう多分、開くことに勇気を使ってしまって、明日の朝になんて引き伸ばしてしまったら二度と開かないかもしれないとすら思った。なぜなら私の境遇に似ているところがある彼の精神状態に身に覚えがありすぎたから、自分の感情ごとなぞってしまっていたから。もう傷つきたくないのに、傷口に塩を塗るどころかベリベリと無理やりこじ開けているような感覚だったのだ。荒治療だと思った。でも、もちろんこれは文句でもなんでもなくって、「本当に物語」なのに、「本当にリアル」だったから、もう、凄すぎた、という感じ。

 今も痛いよ胸の真ん中。私の夜もいつか明けるのだろうか。目を逸らしてはいけないことばかりが詰まっている。これが現実。そして、私の身にも重なる部分がある現実。

 私は今を生きることで精一杯だけれど、この本を読んだから、もう、前に向いていける気がする。自分のペースではあるけれど、絶望し切らずに、自分をこれ以上責めることもせずに、やっていける気がする。

 そして同じく、人間関係、仕事、病気、お金(とくにお金は本当に、生きていく上で絶対に必要なものだからこそ全てに絡んでいて、苦しむよね)などについて悩んでいる人にも、この本を読んだときに、「見えない何か」と戦っている(戦わされている)自分を見つけるのかもしれない。助けを求めてもいいということ、それは誰にでもある権利だということ。


 私はこの本を読んで良かったと思った。読み切った自分を褒めたし、読み初めの私より今の私の方が明らかに強くなっている気がする。自分にとって影響を与えた本。今年のベスト本にランクインしました。


 そうしてやっと寝る。まだ落ち着かない興奮をなだめながら。

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