お湯へのラブレター

お湯さま

いつも近くにいるのに、こうして手紙を書くのはなんだか気恥ずかしさがありますね。
あなたに会うと、私はいつも「あぁ〜お湯〜!」と言ってしまい、その言葉に含まれた様々な気持ちを表現できぬままになっています。
普段は興奮して言葉にできない想いを改めてしたためようと、こうして文字にしております。
あなたの好きなところを書くなんて無粋なことかもしれませんがお許しください。

なんと言っても、あなたに包まれると心から安心します。
200ℓほどのあなたに生まれたままの姿の私。
足の指先からゆっくりとあなたの中に入っていきます。私の身体にぴったりと沿うあなた。鳥肌が立つ心地になります。
肩まであなたの中へ入ると「あ゛〜〜〜!お湯〜〜〜♡」といつも言ってしまいます。お恥ずかしい限りです。少し落ち着いた頃、私は歯を磨いたり、歌を歌ったり(“トロピカ〜ル恋して〜る“を歌ってるときは絶好調です。)しますね。その間、あなたは私をずっと包み込んでくださっています。42度のあなた。

あなたが私に入ってくる時もありますね。
特にこの寒い時期の朝、私は起きて身繕いをし、まだ冷たいあなたを温めます。100度になったあなたにマグカップへ入って頂きますが、とても熱くて触れられません。悲しい想いを抱きつつ、煙草を一本吸います。吸っている間は、あなたの湯気にふわふわと触れます。煙草を吸い終え歯を磨き終えた頃、50度のあなたを迎え入れるべく、マグカップを手に取ります。あたたかいあなたが冷えた体の中心に入ってきます。素晴らしすぎて「はぁ〜お湯〜…」とため息が出ます。
まれにありますが、外出までの時間が迫ってきて、三口程度しか触れ合えないとき。あのときはお互いに離れ難いですね。

あなたはあなただけでも素敵なのに、仲間とのコラボレーションにも成功していますよね。
今、茶葉や珈琲豆は戸棚の中でじっと動きませんが、あなたと一緒になった途端に茶葉は踊りだし、挽かれた珈琲豆は膨らみだし、どちらも美味しい飲み物になります。茶葉農家さんや珈琲農家さんもあなたのことが大好きでしょう。

お米を食べられるように柔らかくしたり、容器に入れられて布団を被せられ足元を暖めたり、汚れを綺麗に落としたり。
あなたの素晴らしさは筆舌に尽くし難いです。

いつも本当にありがとう。
愛しています。


───ここまで読んでくれたあなたに追伸───
人間の7割は水だ、とはよく言います。
人間の体温は平熱で36.5度程度。これはもはやお湯ではないでしょうか。
お湯はお湯なだけで素晴らしい。
あなたも、生きているだけで素晴らしいです。

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