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シリーズ「ヤル気を伸ばす」(その1):専門分野と社会的役割の違い

今から20年以上前になります。
当時私はビジネスパートナーとともに組織の人事改革の仕事に取り組んでいました。
私が主に追究したテーマは仕事に対するモチベーションの問題でした。
単純な話、能力もヤル気もある人は、仕事へのモチベーションが下がることはありません。それでもモチベーションが下がるとしたら、外的な阻害要因が働いているからです。
阻害要因には様々ありますが、そのひとつを挙げるなら「自分の得意でないことをやらされている」ということです。では、「得意なこと」とは何でしょう?
意外に皆さん「得意」とは、ある仕事をする上での知識や経験やスキルのことだと思い込んでいないでしょうか。
実は、知識や経験やスキルは、モチベーションがあれば後からいくらでも身につけることができます。つまり、これらはモチベーションに先立ってあるわけではない、ということです。
あることに「モチベート(動機づけ)されている」とは、そのことが得意か否かに関係なく、そのことに興味があり、人に言われなくても自主的にそれをやり続けることであり、それは傍目には「そんなことよくやるよ」と思える何かであり、「やめろと言われてもやめられない」何かです。

ここで、いわゆる「専門分野」と「社会的役割」の違いについて触れておきます。
ここに、AさんとBさんという二人の弁護士がいるとします。もちろんこの二人の「専門分野」は「法律」です。しかし、Aさんは法律について人に話す(法律を社会に浸透・普及させる)ことにモチベートされており、Bさんは現行法の内容を吟味し、問題点を洗い出して改革案を提示することにモチベートされているとします。つまり、この二人の専門家はそれぞれ異なる法律とのかかわり方でモチベートされているわけです。これは、「Aさんが刑事訴訟法の専門家で、Bさんが商業法の専門家だ」といった問題とは本質的に異なるのです。
もしAさんが現行法の問題点の洗い出しを命じられ、Bさんが現行法の浸透・普及を命じられたら、とたんに二人のモチベーションは下がるでしょう。反対にもしBさんが洗い出した問題点とその改革案について、Aさんにその普及を任せたとしたらどうなるでしょう。
こうした「役割分担」こそが、「得意なこと」であり「社会的役割」なのです。
また、もしAさんタイプの弁護士ばかりがチームを組んだら、あるいはBさんタイプの弁護士ばかりがチームを組んだら、物事はうまく進行するでしょうか?

これは単純な理屈ですが、企業活動においては、理屈に合わないことがまかり通っている場合があります。たとえば「ある商品を売る」というプロジェクト(ないし部門)で、営業職ばかりを集めてチームを組んだら、途端にチーム内競争が始まり、全員がライバルとなり、メンバー同士足の引っ張り合いに終始したりします。役割が被ってしまうからです。時間と人材の使い方として、これほどもったいないことはありません。

私の考えでは、次の4つの「社会的役割」を得意とする人が揃うと、このチームはうまく機能します。なぜなら、ひとつのタスクをめぐり、メンバー間で自然な「循環」が生まれるからです。
○クリエイター
ゼロから何かを発想したり、生み出したり、物事のスタートを切ったりすることが得意。
○コーディネーター
クリエイターが生み出したものを人に広めたり、そういう場を設定したりすることが得意。
○プラクティサー
クリエイターが生み出し、コーディネーターが広めたものを現実に定着させたり、様々なツールを使って改善したりするのが得意。
○セオライザー
クリエイターが生み出し、コーディネーターが広め、プラクティサーが現実化したものを吟味し、評価し、理論化して、再びクリエイターに返すのが得意。

この4人一組のチームにあるタスクを任せると、自然発生的にタスクをバトンにしたリレーが始まるため、このチームにリーダーは不要となり、時間ばかりかかる不毛な会議もなくなっていきます。こうした自然な「循環」が起きない役割分担は、チームビルディングの観点からすると、あまり意味がありません。
この循環は、順番に起きる場合もあるし、4人が各々の役割で同時に機能する場合もあります。もちろん、同時機能の方が効率はよくなります。
このような役割のバランスがとれたチームでは、自分の得意なことでチームに貢献でき、苦手なことは他のメンバーに任せることができるため、チーム内の競争・ライバル意識・足の引っ張り合いを退け、メンバー同士に自然な信頼感が生まれ、チームへの貢献が喜びや生き甲斐になっていきます。

さて、あなたは上記の4つの役割のどれに当てはまるでしょう。
それを導き出すために、私は「社会的役割自己診断テスト」を開発しました。
このテストでは、本来の自分の「得意な役割」だけでなく、これから身につける可能性のある潜在的な役割や、得意な人に任せた方がいい役割なども確認できます。
また、チーム全体にこのテストを導入すれば、役割の偏りや欠け、理想的なチームの組み方などが確認できます。
私は、この4つの役割分担をもとにしたチーム作りのセオリーを「循環型人間関係論」と呼んでいます。この4人一組のチームの運営方法には、いろいろ細かいノウハウがありますが、ここでは省略します。

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