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アンソニー・ホロヴィッツ「メインテーマは殺人」を読んで(※ネタバレあり)

私がこの本を読んで1番感じたことは、なぜ名探偵はみんな性格が悪いのだろう、ということです。

これは、自らの葬儀を手配したその日に自宅で絞殺された老婦人の死の真相を探る元刑事のホーソーンと、そのホーソーンに事件のことを本にしないかと誘われた売れっ子小説家のアンソニー・ホロヴィッツの話です。

いわずもがな、ホーソーンがホームズでアンソニーがワトソンです。

そしてこの小説に出てくる名探偵ホーソーンは、なかなかのいやなやつです。どの辺がいやなやつなのか簡単に言うと、それが人間のすることか?と思われるようなことをたくさんするのです。

アンソニーの重要な会議中に突然押しかけてきて事件の捜査に無理やり連れて行ったり、そのくせ捜査に口を出すと怒り出したり、殺人現場の靴を平気で盗んで行ったり、他人のことには何でも気づいて指摘してくるくせに自分のことを話すのは嫌がったり、禁煙のタクシー車内でタバコを吸って運転手に咎められると「おれは警察官だぞ」と言ってのけたりと、枚挙にいとまがありません。読めばわかります。

たぶん、名探偵にとって1番重要なのは事件の真相を探ることや目の前の真実であって、それ以外はどうでもいいのでしょう。スピルバーグが同席する会議の重要性も、死人とはいえ他人の靴を盗んでいくことも。ホーソーンにとっては当たり前の事でも普通の人には気付かないことがたくさんある分、普通の人が他人を慮って取る行動はホーソーンにとっては重要ではないのだろうなと思います。

警察に捜査を頼まれるだけあって、探偵としての必須能力である観察力や洞察力がとても優れています。私とアンソニーはホーソーンと同じ景色を見て同じ会話を聞いているのに、ホーソーンが答えを明かすまで真相にたどり着くことが出来ないのですから。たぶん私もまんまと薬を盛られてメスで刺されていたことでしょう。いや、そこまで無謀なことはしないかな…

さて、物語の感想を書いて行きます。

葬儀屋に行った資産家のクーパー夫人が殺された事件の捜査をしていくわけですが、初めは殺される動機が見当たらないと思われています。しかし、捜査をしていくとこれが動機なのでは?と思われる過去が出て来ます。読者を騙す別のストーリーが用意されているというか。

それが、クーパー夫人にはある兄弟を車でひいた過去があるということ。この事故では1人を死なせた上にもう1人の子どもに重い障害を負わせてしまっており、その復讐を何者かがしているという説。私もすっかり騙されて、本当は息子のダミアンが運転していたのに庇うために自分が運転してたって言ったんじゃないの?と妄想をしまいました。

しかもクーパー夫人の葬儀ではその事故で死んだ子どもが好きだった曲が流れ、葬儀の後には息子であるダミアンまでもが殺されました。やはり過去の事故ではダミアンが運転していて、それを庇ったクーパー夫人も憎んでいた犯人が殺したんだろうと思ってました。

ですが事件は思っていたのとは違う方向へ向かって行きます。葬儀屋が犯人とはねぇ。

最後にまぬけなワトソン君がまんまと犯人のアジトに攻め込んで行ってしまってホームズが助けに来る展開は、定番だけど私は好きでしたね。犯人がいたって自己中心的で、ダミアンを誘い出すためにクーパー夫人を殺してたと言うのはもう素晴らしいですよね。あの1人で語る定番の件も良かったです。ミステリー小説の本人ってみんな最後には自分で何から何まで教えてくれて偉いなぁ。

クーパー夫人が殺されたのは何故か、殺したいほど彼女を恨んでいた人物がいたのか、という視点で犯人を探してしまっていたけど、犯人が本当に殺したかったのはダミアンだった訳ですから、私には永遠に犯人を見つけることは出来なかったでしょう。クーパー夫人は巻き込まれたみたいな印象も受けました。

最後の謎解きを読むと、確かにクーパー夫人とその身辺に何かが起きたのは葬儀屋に行った後だから、その葬儀屋が何かのきっかけになったのだろうと思うのは当然のことなのですが、流石に葬儀屋が犯人とは思いませんよね。だってそれはさすがにストレートすぎる。だけどそれが真相なんですね。

こういう騙される感じがたまらないので、ミステリー小説はやめられません。

まとめ

私はこの話あんまり好きじゃなかったです。もちろん、面白いとは思いました。交通事故の方へミスリードして、ダミアンが殺され、RADAで徐々に謎が解けていき、犯人のアジトへ行って殺されかけて助けてもらって、という展開もわくわくしながら読んでいました。関係者らしき人たちに片っ端から話を聞きに行って、それっぽい情報やどうでもよさそうな話を引き出してくれて、私の妄想は広がりました。

まぁなんといっても、ホーソーンをあんまり好きになれなかったということにつきます。小説の序盤で、アンソニーが書いた文章にいちいち苦言を呈すところとかもう読みながら嫌になっちゃって。それも思う壺なんだろうなと思いますけどね。あそこでホーソーンという人物の人間性を表していると思うので。細かくてめんどくさくてめざとくて、だけど自分のことは話したがらない。

あと印象的なのは、誰もが知る実際の人物や作品の名前がたくさん出てくること。スピルバーグとかナルニア国物語とか。この作家自体が本当に他の小説や脚本を書いていたりするみたいなので、その裏話っぽいところとかは、読んでいて楽しかったです。

あと今見返していてたまたま気付いたんだけど、ダミアンが殺されるのってちょうど小説の半分くらいのところなんですね。この辺りで新たな殺人を起こすのも手法の一つなのかな?

この作家は前の作品が相当流行ったみたいなので、そっちもちょっと読んでみようかなと思ってます。その前に読みたいのがいくつかあるのでそっち読んでからになりそうですが。



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