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離島医療会議セッション1「離島と医療の現在地」

本レポートは、2022年7月2日に開催した『離島医療会議』セッション1のダイジェストレポートです。

▼『離島医療会議』開催済み
https://ritouiryoukaigi.studio.site/

開会の挨拶

島根県隠岐郡海士町 町長の大江和彦氏※無断転載を禁じます

開会の挨拶は、島根県隠岐郡海士町 町長の大江和彦氏よりいただきました。
イベントは島根県からの支援も受けて開催されたこと、また、ご協力いただいた皆様へのお礼のご挨拶をいただくとともに、海士町とアンター株式会社が強い協力関係にあることもご紹介いただきました。

そのことに触れつつ大江町長は地域の衰退における臨界点についてこう語りました。

「学校がなくなると子育て世代が出ていき、病院がなくなると全世帯が出て行ってしまう」

医療人材の不足は住民の生活不安に関わり、人口減少に大きな影響を与えます。しかし技術の進化により遠隔医療やオンライン診療が発展し、日本や世界で数々の医療ベンチャー・医療スタートアップ企業が解決策を提案し始めています。

これらを踏まえ、「地域や離島はその地域やその中だけで解決せず、外とつながることで解決できることがある」と希望のあるお言葉をいただきました。

また大江町長は医療従事者にも呼びかけました。
離島医療は「患者の顔が見えて生活が見える」ものであること、離島での医療経験が医療者のキャリアにどのような意味を持つのか、ぜひ考えていただきたいと語りました。

セッション1「離島と医療の現在地」


イベントより※無断転載を禁じます

人口減少が進む離島の現状と医師偏在問題の交差点として、離島医療について議論することが、全国の地域や医療の未来にどういう意味を持つのかを考えます。

モデレーターに株式会社風と土と 代表取締役の阿部 裕志氏、登壇者には公益財団法人 日本離島センター 調査研究部長 三木 剛志氏、島根大学医学部環境保健医学講座 教授 医師の名越 究氏をお迎えしました。

阿部 裕志氏
株式会社風と土と 代表取締役
1978年愛媛県生まれ。大学院修了後、トヨタ自動車の生産技術エンジニアとして働くが、現代社会のあり方に疑問を抱き、持続可能な社会のモデルを目指す2300人の島・海士町に2008年移住、株式会社巡の環(めぐりのわ)を仲間と創業。2018年に株式会社 風と土とへ社名を変更。地域づくり事業・人材育成事業・出版事業(海士の風)を行っている。著書『僕たちは島で、未来を見ることにした(木楽舎)』

離島医療会議公式Webサイトおよびご本人によるご確認

三木 剛志氏
公益財団法人 日本離島センター 調査研究部長
1967年兵庫県生まれ。大学院修士課程(地理学専修)修了後、1992年より全国離島振興協議会・(公財)日本離島センターで調査研究や広報などを担当、各種調査事業をはじめ、日本の島ガイド『SHIMADAS』や季刊『しま』などの編集に携わる。2020年より現職。

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名越 究氏
島根大学医学部環境保健医学講座 教授 医師
岡山県出身 熊本大学医学部を卒業後、厚生省(当時)に入省。医系技官として25年間勤務。厚生労働省の他、環境省、防衛省、島根県、山口県、栃木県にも在籍。2020年8月から現職。

離島医療会議公式Webサイトおよびご本人によるご確認

離島と医療の現在地ー課題先進地としての離島ー


イベントより※無断転載を禁じます

公益財団法人日本離島センターの公式ウェブサイトであるしましまネットと、北海道から沖縄県まで全国1,750の島々を紹介する日本の島総合ガイド『SHIMADAS(シマダス)』のご紹介から始まりました。

◆数字でみる、日本の離島

離島が全国に対して占める割合は、面積は2.0%、海岸線延長は23.3%、人口は0.5%です。

面積最大の法指定離島は新潟県佐渡島で、面積は東京23区の約1.5倍です。面積最小の法指定離島は長崎県五島市の蕨小島(わらびこじま)で、面積は0.03平方キロメートル、住民全員が同姓の方々です。海岸線が最長の法指定離島は長崎県対馬市の対馬島であり、50km先には韓国の釜山が見えることもあります。海岸線が最短の法指定離島は北海道厚岸町の小島で、0.8kmです。

人口最大の法指定離島は鹿児島県奄美市ほかから構成される奄美大島であり、約6万人です。人口最小の法指定離島の一つは長崎県五島市黒島であり、1人です。

湖沼中唯一の法指定離島は滋賀県近江八幡市の沖島であり、医療は週に1回2時間半ほど内科と小児科の先生が巡回診療にいらっしゃいます。

◆日本の海域は離島の存在により、本土のみに比べて約2倍になっている

島に人が住み、経済活動がなされることが国土や海域を守ることにもつながります。日本では戦後、今日までに約60の島々が無人化しており、その中には無人化後に海外から不法上陸を受けた島もあります。
生物生態系保全と生物多様性の視点、魅力ある環境の提供や文化の保存継承の観点でも、島々の存在は重要なものです。

◆離島は、日本や先進国のこれから歩む未来

国勢調査による人口推移では、離島の人口は一貫して減少し、60年間で約半減以下になりました。高度経済成長期に人口が急減したのです。

高齢化率の推移では、離島は全国(離島以外)を約15年先取りしています。年齢別・男女別人口構成でも、離島は若年層が少なく高齢層が多いことがわかっています。

◆離島の医療ー現状と課題

3分の2の島が医療施設を有しています。医師の勤務形態は、約40%の島にしか常勤の医師がおらず、医師のいない離島は約40%であり、残りの島は非常勤医師のみです。

本イベントの主催である島根県隠岐郡海士町は人口2,353人、病院数0、診療所2カ所、常勤医師2名、看護師11名です。対して、最も人口の多い新潟県佐渡島は、人口57,255人、病院数6、診療所38カ所、常勤医師82名、看護師459名です。

また、合計特殊出生率の高い自治体もご紹介いただきました。全国平均の1.43に対し、上位20の自治体のうち13が離島の自治体であることがわかっています。全国2位は鹿児島県伊仙町(徳之島)であり、町長は徳之島徳洲会病院長も務めた大久保明氏です。大久保氏は「子供は地域全体で育てる」と語っています。

三木さんは最後に、「地域力を高めていくことが必要です」と語りました。

へき地における医療確保

イベントより※無断転載を禁じます

名越先生は厚生労働省、環境省、防衛省、またいくつかの自治体での勤務を経て「自分の残された現役の時間を島根県へ。自分の力をどこまで島根県に役立てることができるだろうか」と、島根県に戻られました。掲げたのは、島根県への医療福祉への貢献です。

「島根県は、超高齢化社会が加速する日本の2040年の姿です。島根県での試みが今後、全国での参考として今後役立てていけるのではと考えました」。

◆過疎地域、へき地、無医地区、準無医地区

日本における過疎地域は国土面積の約60%であり、約1100万人が居住、高齢化が進展しています。へき地とは「交通条件及び自然的、経済的、社会的条件に恵まれない山間地、離島その他の地域のうち医療の確保が困難であって無医地区及び無医地区に準じる地区の要件に該当する地域(厚生労働省)」です。

無医地区、準無医地区についても、厚生労働省が定義をしています。これらの地区を擁する都道府県は、千葉県・東京都・神奈川県・大阪府を除く43道府県です。無医地区は全国で590カ所、住民数は約12万人にのぼります。

◆へき地医療の課題とは

医療の質の確保、人手不足への対応の点でハンディキャップがある上に、派遣されている医療従事者の日常とライフプランの支えやバックアップにも配慮が必要です。派遣される医療従事者も、ある程度覚悟を決めているとはいえ、生涯にわたっての勤務を強いることは出来ず、職業選択の自由も確保されるべきでしょう。

◆へき地の医療体制構築は「システムと制度で医療を守る」

医療の確保は医師確保計画を策定している都道府県の責務です。各都道府県にへき地医療支援機構があり、その上でへき地医療拠点病院とへき地診療所が存在します。へき地医療拠点病院は都道府県が指定するもので、過疎地域の中核病院であることが多いです。へき地診療所は2021年時点で1,108カ所です。

◆自治医科大学とは

へき地医療に従事する医師を確保する目的で設立された、自治医科大学。全国の都道府県が共同で設立しました。修学経費は全額貸与であり、卒業後は出身都道府県の指定医療機関に配属され、大学在学期間の1.5倍(通常の場合は9年)の勤務をすることで、修学経費の返還が免除されます。10年以降の判断は本人に任されます。

また、同様の仕組みで、各大学が都道府県と共同で設定する「地域枠」が存在します。

◆島根県の実例

人口は、東京の足立区よりも少ない島根県。同県の人口ピラミッドは平成2年の時点で人口の先細りが見えていました。

高齢化率は35%であり、秋田と高知に次いで全国3位です。「島根は日本の20年先をいっている」と名越先生。島根県の医師数は全国平均よりも多いですが、都市部に集中している実情があります。山間部には無医地区、準無医地区がうまれてしまい、島根県としても医師を増やすための取り組みを進め「医師を呼ぶ、働く医師を助ける、働く医師を育てる」を掲げています。

へき地代診医派遣制度や地域医療支援ブロック制度を設けています。これは常勤医の確保ではなく、スポットで勤務できる医師を確保するための制度です。また、広域患者搬送にドクターヘリ・ドクターカー・防災ヘリ・海上保安庁・自衛隊の協力を得ています。

「島根県は遠隔診療、地域医療情報連携ネットワークも整備しています。複数の診療所や病院で、患者の診療記録を確認できるシステムです。これにより生涯1カルテの実現も近いと考えています」。

名越先生は最後にこう語りました。「制度の話ばかりしましたが、へき地や離島は課題先進地です。医療は住民や患者の話です。ぜひ多くの方に考えていただきたいです」。

質疑応答

質疑応答の内容を一部、ご紹介します。

1.
三木さんへのご質問「無人島になることは何が問題なのでしょうか?」

三木さんのご回答「国土や海域の管理の面で、定住住民がいることが重要です。行政機関の活動だけでは守りきれない部分があります」

2.
三木さんへのコメント「離島への観光客が減っていることに驚きました」

三木さんからのご回答「とくに夏季の観光客が減少しています。競合観光地が出てきたこと、海外に安く行けるようになったことなども影響している可能性があると考えています」

3.
名越先生へのご質問「地域枠の学生は島根県にどの程度残っていますか?」

名越先生のご回答「残っている医師が多いです。流出が続いた時期もありましたが、卒後医師のためのキャリア相談などにも力を入れています」