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「よいこのanon press award 2023」授賞式&座談会

 9月中旬に、東京大学本郷キャンパスにて「よいこのanon press award 2023」の授賞式を開催いたしました。本記事ではその模様をお届けいたします。

 授賞式には、大賞受賞者の南桐弥(みなみとうや)さん、優秀賞受賞者の枝元悠大(えだもとゆうた)さん、そして渡邉英徳、青木竜太、渡邉英徳、樋口恭介、森竜太郎の審査員4名が参加(青木さんのみオンライン)。受賞者各位には賞状とトロフィーが授与されたほか、審査員との座談会や渡邉先生による研究室案内などさまざまな催しが行われました。
 なお、南さんには副賞として100万円が、枝元さんには3,000円相当の図書カードが後日贈呈される予定です。
 また、受賞2作品は編集作業などを経たのち、anon pressで公開する予定です。


1 大賞および優秀賞作品

・大賞(1作品) 副賞:100万円相当の賞金
「きまぐれドーム」 南桐弥

〈あらすじ〉
天候などの事象を操作できる巨大なドームで生活する〈僕〉は、終業式を迎えた日、友人の井伊からとある提案をされる。それは「ドームから出ろ」というものであり……。

・優秀賞(1作品) 副賞:3,000円分相当の図書カード
「オリガミの街」 枝元悠大

〈あらすじ〉
「オリガミ」という有機皮膜を折り畳んで、あらゆるものを自由に創成できるようになった近未来。依頼主からの要請を受けて〈私〉は、ある街を訪れる……。


2 授賞式の様子

大賞受賞者 南桐弥 さん
優秀賞受賞者 枝元悠大 さん
受賞者と審査員の記念撮影
賞状授与の様子
受賞者に授与された特製のトロフィー

〈トロフィー制作コンセプト〉(解説・永良新)
南さんの作品は、「きまぐれドーム」ということで、フラードームの展開図をイメージした意匠で作成しました。
枝元さんの場合は、「オリガミの街」ということから、難易度の高い折り紙の代表として知られる「悪魔」の折り方を意匠としました。


3 座談会

 表彰式の後に、渡邉先生の研究内容・施設などを見学し、座談会を開催しました。進行は、anon press編集長の青山新が担当しました。

渡邉先生による研究内容・施設などの紹介

〈審査員プロフィール〉

青木竜太 Ryuta Aoki
芸術監督、社会彫刻家。「ありうる社会」の探求をテーマに芸術と科学技術の中間領域で、展覧会の企画運営やインスタレーション作品の制作を行う。2021年に千葉市初の芸術祭で「生態系へのジャックイン」展の芸術監督を担当。《Bio Sculpture》で、第25回文化庁メディア芸術祭アート部門ソーシャル・インパクト賞(文部科学大臣賞)を日本人グループとして初受賞。

渡邉英徳 Hidenori Watanave
1974年生まれ。東京大学大学院教授。博士(工学)。「ヒロシマ・アーカイブ」「震災犠牲者の行動記録」「ウクライナ衛星画像マップ」などを制作。著書に「データを紡いで社会につなぐ」「AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争」(共著)など。グッドデザイン賞、アルスエレクトロニカ、文化庁メディア芸術祭などで受賞・入選。岩手日報社との共同研究成果は日本新聞協会賞を受賞。

樋口恭介 Kyosuke Higuchi
作家、編集者、コンサルタント、東京大学大学院客員准教授。「構造素子」で第5回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞。「未来は予測するものではなく創造するものである」で第4回八重洲本大賞を受賞。編著「異常論文」が2022年国内SF第1位。他に「すべて名もなき未来」「眼を開けたまま夢を見る」生活の印象」。webzine「anon press」編集。

森竜太郎 Ryutaro Mori
1990年生まれ。UCLA卒業。グロースハッカーとして、Uber含む複数サービスの成長に貢献。その後、空飛ぶ車を開発する株式会社SkyDriveの前身である非営利組織と、培養食肉を開発するIntegriculture株式会社において、事業開発及び資金調達を牽引。2019年よりアノン株式会社代表取締役就任。SFの社会実装をミッションに掲げ、大企業の大胆な新規事業創出や日本の想像力の拡張に注力。

青山新(以下、青山):それではこれより、受賞者と審査員による座談会を始めたいと思います。まず、今回のアワードの主催である森さんに、座談会への意気込みを伺いましょうか。

森竜太郎(以下、森):若いお二人と一緒に、未来について考えていける時間にできればと思います。私は特に普段ビジネスのことを考える機会が多いため、そういった視点でのお話にもつなげたいです。あとは、審査に関わったちょっとブッ飛んだおじさんたちが、普段どういったことを考えているかも知ってもらえたらと。

青山:では、それぞれ審査員から作品の講評をお願いします。

樋口恭介(以下、樋口):大賞の「きまぐれドーム」は初めて読んだときから候補になるだろうな、とは予感していました。ただ、事前審査の時点では「オリガミの街」よりも点数が低かったんです。これは「自分が知っているSF」という観点で採点してしまったところがあったと思います。そのため「よくわかんないな」と感じるところが多くあったんですが、いざ審査会を開催してみたら、全員同じような咀嚼しきれなさを感じていたことがわかり、議論が盛り上がったんですね。本作には時代設定やSF的な説明などから漏れ出ていく部分が多くあるのですが、その具合が妙に心地よく、印象に残りました。狙って出しているのかわからないところもありましたけど。
 優秀賞の「オリガミの街」については、形式と内容が一致している作品だなと思い、事前審査では満点をつけていました。理論的な説明や設定の展開が重ねられる一方で、大胆にジャンルが転換するようなしかけがあり、折り紙を折り畳んでいく時の数理性とダイナミックなかたちの変化という特徴がそのまま作品へと反映され、次々とエピソードが生まれていくところがよかったです。ガジェットやモチーフが物語のレベルで親和しているというか。オーソドックスなSFでもあり、技巧的でもあり、すごい作品だなと思いました。

渡邉英徳(以下、渡邊):「きまぐれドーム」は、審査員全員「どこか不穏な感じがする」と言っていました。読み解こうとして追いかけていけばいくほどつかめない作品で、審査員たちの理解を超えたその存在感に、未来のSFを拡げる端緒があるのではないか、という印象を強く抱きました。
 「オリガミの街」は出てくる設定自体が魅力的でしたね。自分も十代の頃には、こういうSFを書いてみたいなとか、こんなガジェットがあったらいいなとか、考えていたことを思い出しました。多分、数学などが好きな方が書いたんだろうな、と。
 今日、お二人に初めてお会いして、本当にティーンエイジャーだったんだと改めて驚きました。余談ですが、私には息子がいるんですけど、彼も中学生になってからどこか不穏なんです笑 これまで好きだと思っていたものに急に興味を無くしたり、昨日までと全然別のことに熱中し始めたり。まさにきまぐれというか。そうした、日々アイデンティティが移り変わっていく少年のリアルのようなものが「きまぐれドーム」には込められているのかもしれないな、と今日ご本人にお会いして改めて感じました。

青木竜太(以下、青木):僕はふだんアート作品をつくったりディレクションしたりしているのですが、作品づくりにおいては「相手の記憶に残る」ということが重要だと思っています。ですので今回は、そうした視点も交えつつ講評させていただきます。
 「きまぐれドーム」は当初そこまで点数は高くなかったんですが、みなさんと議論していく中でおもしろさが際立ってきました。今仕事の関係で欧州を周っているのですが、先日、リトアニアで開催されたバルティック・トリエンナーレであるパフォーマンスを観た際に、本作のことを思い出しました。そのパフォーマンスは演者が40分の間ずっと「意味をつくり出さず」に踊りや喋りを披露する、というものでした。私たちはある事象に対してどうしても意味や意図を見出したくなってしまうものですから、そうした人の想像を常に外し続ける構造をつくるのは非常に難しいことだなと実感しました。そういう意味での凄みが「きまぐれドーム」にはありましたね。
 「オリガミの街」は対照的に、折り紙というモチーフとそこからつくりあげられるガジェットをしっかりイメージしながら物語を追っていくことができましたし、読み終わった後には、実際につくってみたいと思わされるような魅力がありました。
 私は最初に述べた「相手の記憶に残る」という点において、物理的な作品は強いと思っているのですが、今回お二人の小説を読んで、改めて小説というものの素晴らしさや可能性を感じることができました。いい刺激をいただいたと思います。ありがとうございました。

:私は実業家として、「社会を動かす」という観点から作品を拝読しました。「きまぐれドーム」は、作者がふだん感じている「迷い」や「好奇心」といった、人間の本質のようなものを表現しているのかなと思ったのですが、それ以上に「闇」を感じられ、それが魅力的に映りました。社会や人間の「闇」に対する感性が高い人は、たまに差し込む「光」に対する反応も強いと思っており、それが社会を変えるきっかけへと繋がることも多いと思います。「きまぐれドーム」からは、そういった期待のようなものも感じることができました。
 「オリガミの街」は、折り紙という既存の、しかも伝統的な概念から新しいアプリケーションを生み出しており、SFプロトタイピング的な発想を非常に強く感じる作品でした。実際に折り紙の技術や考え方は、DNA折り紙などの先進的な研究にも活かされていますし、そうした発展可能性を感じることができました。

青山:それでは受賞者のお二人から、受賞のご感想を伺いましょう。

南桐弥(以下、南):賞を獲りたいなとは思っていたのですが、現実にこういった状況になると、驚いています。

枝元悠大(以下、枝元):実感はなかったです。三時間くらいでダーッと書いちゃったものでなので。

青山:小説は自分で書こうと思った以上のことが含まれ、読み取られてしまうものなので、お二人が感じた意外さや驚きというのはとてもいいことのように思います。審査員のみなさん、もっとお二人に聞いてみたいことはありますか?

:お二人の年齢は?

:現在、一四歳で、応募時は一三歳でした。

枝元:私は一六歳です。応募時は一五歳でした。

:枝元さんは「オリガミの街」を制作するにあたって、過去の原体験などはあったのでしょうか?

枝元:はい。そもそも折り紙がとても好きで、幼稚園から小学五年生の頃まで熱中していました。特に幼稚園生の頃は、九時間ぶっ通しで折り紙を折り続けていたりして、家族にも心配されました......。そんなわけで、好きだった折り紙から着想を得ました。
 あと、高校生になって化学部に入ったのですが、周りの人たちの知識がすごくて驚くことが多いんです。Fusionを使ってモデリングしたものを3Dプリンタで出力したり、JavaやC言語でプログラムを組んだりとか……。自分もプログラミングなどは勉強しているのですが、モノを実際に生み出すことは大変だなと思いまして。
 こういった自身の経験から、折り紙のように自分の脳内と手元で自由に操作できるガジェットがあればいいのにな、と考えて、有機薄膜を折り畳んでいくことでさまざまなモノがつくれる未来という発想に至りました。

:南さんはどういった動機で「きまぐれドーム」を書かれたんでしょう?

:大賞を獲りたいなーと思ってですね。

:正直、大賞を狙って書かれるタイプの作品とは思えなかったんですが......笑 その辺はどうでしょう?

:いやー、優秀賞くらいならイケるかなと。

:副賞の賞金100万円について、使い道は決まってますか?

:まだあまり考えていないので、貯金になっちゃうかなと思います。

:貯金よりも、投資信託のほうがリターンがいいですよ、というのはアドバイスです。
 枝元さんは?

枝元:好きなラノベ買ったらなくなっちゃうかなーと思います。

:あとぜひ伺いたいのは「お二人はこの世界を将来、どういったものにしていきたいと思っているのか」ということなのですが、いかがでしょう?

枝元:人工知能に対して強く興味があります。今はChatGPTなどが話題ですが、将来、量子コンピュータなどが実装されていくなかで、やはり人間を越えた超知能も生まれてくるのではないかと思っています。ディストピア的な観点にもなっちゃいますが、完全なAIを作って、人間社会をもう少しマシなものにしたいですね。
 今の時代、SNSで感情のままに人を叩くとか不快なことがありますけど、それ以外にもテロや貧困など、そういったムダなことを減らしたいとは考えています。いまの人間社会ではどうしようもないことでも、科学技術で解決できるんじゃないかと思っています。

:私もブレイン・マシン・インターフェースなどには興味があって、人間の脳を再現するような未来が来るんじゃないかなとは思っています。脳内に膨大な数のナノマシンを入れてニューロンの発火をモニタリングしたり。そうすると人の思考などもコントロールできるようになるかもしれない。もちろん、それが本当にいいのかどうかは、まだ判断できませんけど。
 南さんはいかがですか?

:そうですね、僕は、お金を稼ぎたいなと思います。年収が億を超えるとお金持ちだと思いますが、趣味のゲームなどに使えれば。

:それだと年収億もいらなそうですね笑 漠然と「お金が欲しい!」ということだけでなく、「お金持ちになったらどうしようか?」ということまで考えてもらいたいですね。
 逆に審査員のみなさんに聞いてみたいことはありますか?

:えーと、勉強方法とか教えてほしいですね。

樋口:僕は問題を解くのが嫌いなので、教科書とか読みまくってましたね。一日一周、一年で三六五周読む。そうするといつのまにかできるようになってます。今でもそうですね。本を読むのが好きなので。

青木:僕の場合は、自分のつくりたいものとかやりたいことのために何が必要か? というところから出発することで、自分の中に定着しやすくなるという実感があります。漠然と全部勉強するのではなく、必要な知識をリサーチを通じて得ていく、ということですね。

:頭のいいパートナーを作る、というのが私からのアドバイスですね。

樋口:何を言っているんですか?

:頭のいいパートナーがいると、勉強しますよ! 普段のコミュニケーションから勉強になる。素晴らしいですよ。

樋口:わからないでもないですが笑。渡邊先生、いかがですか?

渡邉:高校や大学の受験などに向けた勉強だと、二つあると思います。
 ひとつは、樋口さんもおっしゃったように、教科書を読みこんで基礎知識を固めていくこと。教科書は必要十分な知識を万人にわかりやすく説明するために工夫が重ねられ続けているので、これをきちんと読めるようになるというのが、スタンダードでお行儀のいいやり方だと思います。
 もうひとつは、青木さんのように、自分の好きなことを通じて知識を得ていくこと。高瀬志帆の『二月の勝者 ー絶対合格の教室ー』という、中学受験塾を舞台にした漫画があるのですが、作中にどうしても授業に集中できない子が出てくるんです。
 で、講師が話を聞いてみると、この子が実は鉄道が大好きだということが判明します。そこで講師が鉄道研究会のある中学を勧めると、やる気になって勉強を始めるんです。すると、鉄道への情熱や知識が勉強にも活きてくる。
 世の中にはジェネラルな勉強が得意な人と、好きなことだけを突き詰めるのが得意な人がいますが、私の所感としては、好きなことを突き詰めて得られた専門的で深い知識のほうが、後々役に立つことも多いんじゃないかと思います。やはり、いい大学に入ることだけがゴールだとその後が大変だと思うので、今のうちから夢中になれることをつくっておくのは大切ですね。

枝元:みなさんは学生時代はどんなふうに過ごしてたんでしょうか?

渡邉:大学生の頃は建築学科にいたのですがちょっとひねくれていて、架空の建築などを設計していました。大学院でもその延長で、ソニーのゲーム制作部でゲームの背景美術をつくったりしていました。
 その後はイラストの仕事なんかもしていて、早川書房の『SFマガジン』の表紙をデザインしていました。マガジンに掲載されたテッド・チャン「あなたの人生の物語」の扉絵を、編集者の塩澤快浩さんからの依頼で描きました。

樋口:僕は本が好きだったので、めっちゃ本は読んでました。あと、フツーに友達とかと遊んでました。すみません、あんまり普通過ぎて参考にならないかもですけど。

:私も中学や高校は、ほぼ行っていなかったんですけど。家にいることが多かったので、家事をやってました。あと、目立つという意味では、バンドをやったりしていましたね。それでいろいろあって一念発起して、アメリカの大学であるUCLAに進学しました。
 UCLAに在籍しているときは、彼女づくりに精を出してました。日本語クラスの終わり際に廊下に立って日本語で電話するフリをすることで、日本語好きの子に話しかけられるのを待っていましたね。それで彼女を作っていました。あと面白いのがxxxxxをxxxxxするとxxxxxってなってマジでxxxxxなんですよね。当時はよくxxxxxxxxxxしてました。もっと言うとxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx

樋口:マジで何?

枝元:凄い話ですね。森さんは自伝とか書いているんですか?

:書いてないですね。誰かに書いてもらえれば……。

青山:ちなみに小説を書くのは、お二人とも初めてですか?

:そうですね。

枝元:「小説家になろう」とかでは書いたことありますが、ちゃんと発表したのは今回が初めてですね。
 最初に書いたネット小説は、ひどかったですね。なんの知識もないまま異世界や呪術の小説を書く、みたいな。途中でキャラがいなくなっているとか、とにかくめちゃくちゃでした。

樋口:登場人物とか、途中で消えてもいいですけどね。
 小川哲の『ゲームの王国』は上下巻にわたる長い小説で、カンボジアを舞台に謎なことが起こりまくる非常に面白い物語なのですが、下巻の冒頭でそれまで全く語られてこなかったNPOに所属する日本人の話が始まるんですよ。で、その章はNPOの活動の話が中心で謎なんかも振りまきつつ、「この人たちどうなるんだ!」という感じで終わっていくんだけど、そのあと一切出てこない。あれどうなったんだろうって読み終わってからふと思うんだけど、読んでるときはあまり気にならない。伏線が回収されてるかどうかとか、読者はあまり気にしないんじゃないですかね。
 奥浩哉の『GANTZ』とかもそうですよね。伏線っぽいものが張られまくる過程がおもしろければもういいじゃんみたいな風に思うし、SFはそういうのを許容しているジャンルなフシがある。あとね、トマス・ピンチョンの『重力の虹』ね! あれはやばいですよ。V2ロケットの秘密をめぐる旅の過程で、特攻隊員のタケシとイチゾウはカミカゼスクールで二週間特攻教育を受けたのちに、海ボタルの死骸を探すのに人生を費やしていきます。あの小説マジでなんなの? あと、このあいだアリ・アスターの『ボーはおそれている』を観たんだけどあれも、

:樋口さん、落ち着いて。

渡邉:小説がどうあるべきか、という議論は、今回の審査でも大切な視点の一つだとは思いました。論文のような文章では首尾一貫性が重要ですが、小説だと破綻していてもいいんじゃないかと思いますね。
 「きまぐれドーム」については、作品の退廃的な雰囲気が、狙ったものか、それとも偶発的だったのか、が議論になったんですけど、南さん、いかがですか?

:そうですね。狙ったものではあります。

樋口:なんか安心しました。お二人は今後も小説を書いていきたいですか?

:今後も、思いついたら書く、という感じで続けていきたいですね。

枝元:書いていきたいですね。

青山:SF以外のジャンルはいかがですか? 例えば枝元さんはエンタメ系のミステリーとかもいけそうな気がしますが。

枝元:ミステリーですか。自分には、本格ミステリーは難しいかもしれないです。ラノベ系のキャラ立ちしたミステリーも難しいですね。社会派も自分の人生経験を考えると、厳しいですし。だから自分が狙うとなると、SF的なファンタジーとか、SF寄りの純文学とか、やっぱりいずれにしてもSF系統ですね。
 そうだ、行きの新幹線で書いたSFを読んでもらいたくて。まだ冒頭だけなんですけど、インターネットの海で海洋冒険ものをやるっていうテーマの作品です。全部がインターネットに繋がったあとの世界で、そのインターネットが壊れて人間が締め出されちゃったという世界観で。その中で主人公は情報を収集しながら、もう一度DNSサーバーを再構築しようと奮闘するっていう......

樋口:すごいですね、ソフトウェアエンジニアリングの知識も相当あるし、新人SEとかでもこんなに語れないんじゃないかな。

枝元:その辺に詳しい科学部の友人から聞いた話を、もう一度調べ直して書いてます。でもだんだんコマンドを書くのが辛くなってきて、どうしようかなって笑

樋口:anon pressは随時原稿を募集していますので、ぜひ。

青山:今後は、お二人の作品に編集部からフィードバックをお送りし、適宜改稿していただいたのちに発表したいと思っています。お楽しみに!

樋口:編集部として意見は述べますが、フィードバックとか無視してもらってもいいですよ。
 ほかにも小説では、いろいろコンテストもありますしどんどん挑戦してほしいですね。『ハヤカワSFコンテスト』とかは、SF度というより熱量が大事な気がしています。知らんけど。どうなのかな。でも熱量は大事です。

青山:では最後に、樋口さんから挨拶をもらって終わりにしましょうか。

樋口:今回のアワードは森さんやanon pressのみんなと一緒に「子どもという未来を担うものたちに対して、自分たちができることはなんだろう」と考える中で始まった取り組みでした。そんな中で、渡邉先生や青木さんとの出会いがあって審査員の方々や会場が決まっていき、最終的にこうした素晴らしい作品たちと出会うことができました。始めから決められた仕事があってそれをやっているのではなく、やりたいことをやる中で目の前のことひとつひとつに最大出力で取り組み、いいものにするにはどうするべきかを考えていく。その積み重ねによる、いわば手づくりのアワードだったのだと思います。お二人には、そんな場の主役になったということを誇りに思ってもらえれば嬉しいです。
 あらゆる歴史には始まりがあり、 第一回がある。誰の人生も一回で、すべての瞬間は一度しかない。だからすべての出来事が特別だと思うし、それを一つずついいものにしていくことで、自分にとってのいい未来というのができていくのだと思います。お二人も今後、人生を振り返る場面がいろいろあると思いますが、その時に今回のことがいい思い出になっていたらいいなと思いますし、それを未来の糧として利用してもらえたら嬉しいです。
 やりたいことをただやる、目の前のことに対して全力でやってみる。その過程でいろんな出会いがあって、自分で思っていたよりも大きいことができる。これは今回に限らず、人生ではよくあることです。お二人が今後、自分の限界にぶち当たったときに、そんなことを話す男たちがいたということを思い出して、奮い立ってもらえれば嬉しいなと思います。本当に、非常にいい機会になって感激しています。今日はありがとうございました。

青山:以上で「よいこの anon press award 2023」授賞式の全行程を終了いたします。ありがとうございました。

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