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U-15 SF作品コンテスト「よいこのanon press award 2023」座談会

9月から募集を開始している「よいこのanon press award 2023」について、審査員による座談会を2023年10月3日に、ウェブ形式にて開催しました。本アワードの創設趣旨や、審査員がどんな作品を求めているかを議論しました。本アワードへの応募をご検討されているみなさんは、ぜひお読みください。


審査員(座談会参加者)紹介

青木竜太 Ryuta Aoki
芸術監督、社会彫刻家。「ありうる社会」の探求をテーマに芸術と科学技術の中間領域で、展覧会の企画運営やインスタレーション作品の制作を行う。2021年に千葉市初の芸術祭で「生態系へのジャックイン」展の芸術監督を担当。《Bio Sculpture》で、第25回文化庁メディア芸術祭アート部門ソーシャル・インパクト賞(文部科学大臣賞)を日本人グループとして初受賞。

渡邉英徳 Hidenori Watanave
1974年生まれ。東京大学大学院教授。博士(工学)。「ヒロシマ・アーカイブ」「震災犠牲者の行動記録」「ウクライナ衛星画像マップ」などを制作。著書に「データを紡いで社会につなぐ」「AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争」(共著)など。グッドデザイン賞、アルスエレクトロニカ、文化庁メディア芸術祭などで受賞・入選。岩手日報社との共同研究成果は日本新聞協会賞を受賞。

樋口恭介 Kyosuke Higuchi
作家、編集者、コンサルタント、東京大学大学院客員准教授。「構造素子」で第5回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞。「未来は予測するものではなく創造するものである」で第4回八重洲本大賞を受賞。編著「異常論文」が2022年国内SF第1位。他に「すべて名もなき未来」「眼を開けたまま夢を見る」「生活の印象」。webzine「anon press」編集。

森竜太郎 Ryutaro Mori
1990年生まれ。UCLA卒業。グロースハッカーとして、Uber含む複数サービスの成長に貢献。その後、空飛ぶ車を開発する株式会社SkyDriveの前身である非営利組織と、培養食肉を開発するIntegriculture株式会社において、事業開発及び資金調達を牽引。2019年よりアノン株式会社代表取締役就任。SFの社会実装をミッションに掲げ、大企業の大胆な新規事業創出や日本の想像力の拡張に注力。


――みなさんのご経歴や活動などをご紹介ください。

青木竜太(以下、青木):私は社会彫刻家や芸術監督として活動していまして、アートプロジェクトの実践や展覧会の開催、そしてコレクティブとしてインスタレーション作品を制作しています。これまでには、《Bio Sculpture》という、人間以外の生命に向けた技術のあり方を探求するアートプロジェクトの成果を結晶化させた土の作品や、《New Rousseau Machine》という民意の「シュレディンガーの猫」的現象を可視化し、工事現場の素材で構成した作品などがあります。

Bio Sculpture (Scene of a Future Boutique), 2022

渡邉英徳(以下、渡邉):私は東京大学大学院にて教授という立場で研究をしています。主な研究分野は、映像や画像を使ったデジタルアーカイブなどの製作です。最近では、ウクライナの状況などについて衛星解析やフォトグラメトリなどの技術を駆使して、建物などをマッピングしたものを世界に向けて発信しています。
 過去のモノクロ写真などをカラー化するプロジェクトも実施しています。AIや当時の方のインタビューなどをもとに昔のモノクロの写真に色を与えているのですが、こういった作業を経ることで、当時の社会状況などがより鮮明に理解できるようになります。

渡邉:SF関連ですと、実は早川書房のSFマガジンでイラストを描いています。テッド・チャンの『Story Of Your Life』(和題:『あなたの人生の物語』)という作品のWikipedia(英語版)のイラストをよく見てもらうと、私の名前が入っています。

樋口:え! すごいですね。SF関連のWikipediaの英語版に日本人で出てくる方って、数えるほどしかいないでしょうから。

渡邉:いま講談社やメディアドゥと一緒に東京大学大学院情報学環「講談社・メディアドゥ新しい本寄付講座」を運営しているんですけど、去年SFプロトタイピングの講師として樋口さんに参加していただいたというご縁もあります。

森竜太郎(以下、森):私は本アワードの主催であるアノン株式会社の代表取締役です。以前は、培養食肉といったSF関連の社会実装にも関わってきました。

アノン株式会社。居心地のいい場所。

樋口恭介(以下、樋口):私は小説家をしており、アノン株式会社が運営するanon pressに編集としても参加しています。anon pressでは週に一回、国内外の作家の小説などの作品を発表しています。普段はコンサルティング会社でシニアマネージャーという中間管理職を務めています。
 ところで、最近、『ジパング』という中間管理職が大活躍するかわぐちかいじの漫画作品を読み終わったんですけど、もう、あまりに面白すぎて、それで頭がいっぱいなんで、今日はかわぐちかいじ作品の話ばかりなっちゃうんじゃないかとちょっと不安です……。

未来は予測するものではなく創造するものである ――考える自由を取り戻すための〈SF思考〉,2021,筑摩書房

平(司会):樋口さんのことはほっときましょう。

渡邉:先ほどご紹介した講座の関連で、樋口さんには東京大学大学院情報学環の客員准教授に10月から就任していただいていますね。

樋口:非常に重い職責をいただいてしまいました(笑)。

――森さんに質問ですが、どのような趣旨や目的で本アワードを開設しましたか?

森:私は小さいころから『世界平和』について考えてきたのですが、大学の卒業論文で『テクノロジーがアフリカ経済をどう変えていくか』というテーマを設定して以降、科学技術に対して強い関心を抱くようになりました。
 なんでこんなに科学技術に強くひかれるのだろうかと自分で振り返ってみると、小さいころに星新一の小説を読んでいた、ということが大きいのかなーと思っています。私は正直SFの分野には明るくない部分もあるのですが、星新一の著書の数々から、夢を描く、未来を描く、ということを学びました。
 こういった経験をふまえまして、我々大人ではもう描けないような自由でやわらかい発想から生まれる若い世代のみなさんの作品を見てみたい、そして若い方たちの可能性を拡張したい、という思いが強くあり、今回の賞を創設しました。

――賞金を100万円に設定した意図はなんですか?

森:今回のアワードでは、大賞賞金を100万円にしています。
 これは素晴らしい発想を持つ児童の方に、そのお金を使って、どのように世界や社会を変えていく行動をとるのか、もしくは自分の好きなように活動するか、をぜひ試行錯誤をしてもらいたい、という意図があります。このような活動を若いうちから経験することで、さまざまな偉人のように、今後の未来を描き作っていく方が出てくるのでは、と期待しています。
 100万円については、児童のみなさんには大きな額かもしれませんが、責任をもって使っていただけるのだろうと思っています。
 また、賞金を与えるだけでなく、科学技術で事業活動を行う企業へのスタートアップツアーも企画しております。これによって、思考を拡張していただく狙いがあります。本アワードから輩出された方がどういった活躍をしていくのかを非常に期待しています。

――樋口さんは小説家ですが、作品を製作することはどういった経験になると思いますか?

樋口:作品を製作するとき、小説の場合は、想像したことを文章に変換するため、自分の思考や想像を客体化し、客体化したことを観察するという再帰的な作業を強いられます。これによって否応なく、今後の自分の行動さえも規定してしまう部分があると思います。しかしながら『自分の経験や考えていることについて、『物語』を通じて言語化する』というトレーニングを幼いうちから行っておくことは、自由な発想力を培う、また実行することにつながるとも思っています。
 冒頭も申し上げたとおり、最近、『ジパング』などのかわぐちかいじが描いた漫画作品を読んでいたんですが、複数の未来がシミュレートされていて、しかもそれぞれに確からしさがあって、すごく面白いな、これこそがSFの力だなと思いました。あれって要するに三体問題なんですよね。未来を知ってしまった三人の男が、それぞれの思い描く、並行世界として存在する三つの日本の可能性を追い求めるという、そういう不確定性の話で……子供たちにも、そういう「世界はつねに可塑的であって、未来は自分の力で変えることができる、あるいは、自分の力によって未来を変えることができてしまう」というような気持ちで、フィクションを体験してほしいなと思っています。

――どんな作品を期待していますか?

渡邉: 応募作品に対する期待としては、子どもたちが示してくれる世界観が、我々の想像を超えてくるものであってほしいと思っています。よくがんばったね、よくイメージしたね、という作品よりも、我々が想定している未来よりもその先のビジョンを示してほしいと思っています。
 大学教授という指導者の立場としては、自由で既存の考え方の枠組みに捉われない子どもたちがしっかりと活躍ができるような社会にしていきたい、という思いもあります。『こんなすごいビジョンを持つ児童の方であれば、ぜひ応援していきたい!』という作品を待っています。

青木:私は小さいころ、MTVとディスカバリーチャンネルしか観ていなかったんですよ。あるとき、いつもどおりTVを見ていたら、背後に何か気配を感じたので、振り返ったらそこにあるはずのないピンク色のピアノが天井を通り抜けていく幻覚を見たんですね。TVのイメージが脳に焼き付いたのかも知れませんが(笑)その時、この世の中にはよくわからないものがあるな、と驚いてとても感動したんです。
 こういった驚きの経験を得られるような小説を楽しみにしています。また、既存の作品とは構造そのものからまったく違う独創性に優れた作品を期待しています。これは小説なのか? インストラクション・アートなのか? もしくは読んでいたら催眠にかかってしまう、そんな不思議な作品に出会ってみたいです。

樋口:私が期待しているのは、未来を追い求めるような作品ですね。制作を通じて、自分自身で世界を構築することを経験してほしいなと思います。

森:個人的には、『宇宙をいかに平和にできるか』というSF作品を読んでみたいですね。小さいころからラブ&ピース的な活動をしていたのですけど、ある時、地球平和から宇宙平和に目標が拡大しまして……。『宇宙平和』は私にとってのキーワードであるのですが、子どもたちがまだ未知の領域でもある宇宙全体をいかに平和にできるかと考えたときに、どんな発想やアプローチを思いつくのかなと期待しています。
 宇宙平和以外でも、さまざまな角度からのアプローチで、自由に想像している作品の応募を待っていますね。

青木:過去にもTED×Kidsという活動をしていたのですけど、問題意識として、今の社会は、子どもたちが頭の中で描いていることをなにかに落とし込むことを抑え込まれているではないか、と思っています。
 友人関係や家族の方などのネットワークがあり、そこからのフィードバックが創造性を発揮する機会を抑え込んでいたりする気もするのです。そういう創造性格差という問題があるのかなと思ってます。この格差が、自分で考えて、仲間を集めて実行できるかの差に繋がっているのではと思ってます。そういうことを開放するには、自分の好きなことを共有できるコミュニティにリーチすることだと私は考えていて、このアワードがそれになると良いなと思っています。

樋口:私も青木さんと類似した問題意識があるのですが、創造性格差という単語は興味深いです。抽象的な思考を『物語』として言語化するトレーニングを積んだ方たちがいっぱい出てきたら、未来はどうなってしまうのかな、どういったことが起こるのかな、という期待も大きいです。

青木:今回のアワードを通じてどんな作品が出てくるのかを非常に期待しています。子どもたちにとってもいい機会になってほしいですし、新しい仲間を見つけてほしいですね。

森:スタートアップなどでの自分の経験ですが、自由に発想して話をすると、けっこう叩かれやすくて……。私はへこたれないタイプだったのでやってこれた部分もありますが、へこたれないとか根性がある、というマインドを持っている人だけが成功するような社会もよくないなと思っています。

樋口:いまの社会だと、ファーストペンギンが大事だとよく言われますけど、実はセカンドペンギンとかサードペンギンとか、追随する多数派こそが僕は大事だと思ってるんです。もちろん最初の一人が一番やばいんですけど、実際に行動するとなかなかうまくいかないこともあります。それで周りから馬鹿にされて、もういいやってなって終わって、多数派としてもそれみたことか、となって、結局すでに評価の定まった前例踏襲が一番いいということになってしまいがちです。でもそれは、自由な発想や新しい未来の可能性を抑制することになってしまってよくないことだと感じています。
 年齢などに関わらず、『もっと自由に発想していいんだ!』という流れを生み出していくことが必要だと思っていますが、今回のアワードもそういった活動の一つという位置づけになると思っています。

渡邉:『』という漫画作品があります。この作品の主人公は、小説を書いているんですけど、同時に好き勝手な助言をしてくる大人が出てくるのです。主人公は才能だけで、そういった大人たちを蹴散らしていきます。『響』の主人公のような型破りな方からの応募も期待しています。教科書的によくできている作品よりも、もっと自由なアイディアがある作品です。
 自分もそうですけど、あまり他人のいうことを聞く子どもじゃなかった気もしますから(笑)。同人誌などで執筆経験がある方はもちろんどんどん応募してほしいですが、逆に小説を読んだことないという方でも気軽に応募してほしいですね。

樋口:受賞した方が大活躍したとき、その方の経歴の最初に本アワードの受賞歴がちょこっと記載されていた、ということになっていたらうれしいです。

――みなさん、ありがとうございました。


作品のつくりかたなどについては、以下のページやマガジンも参照してください。多くの方からのご応募をお待ちしています!


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