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伊島糸雨「微睡む塔のエフィジー」

◆作品紹介

描かれなかった「先生」についての幻惑的な回想の群れ。「先生」は煙を纏い、塔の上に立ち、生命の本質らしきものを知るという。それは先生であり、建築家であり、女王でもあるという。言葉を費やせば費やすほどに像は拡散し、我々は自分がどこにいるのかも、何を見ているのかもわからなくなる。しかしそれでもやめられない。やめるわけにはいかない。なぜなら我々は、語りの力によって“今ここ”から放逐された漂流者のみが行くことのできる国があることを知っているのだから。空に伸ばされた絵筆は決して画布キャンバスへと辿り着くことはなく、それゆえに永遠へと到達する。朽ちることのない絵画などというものがありうるとすれば、それは描かれなかったものに他ならない。それでも——それでも我々は何かを描こうとせずにはいられない。いずれ朽ちる絵を、いずれ頽れる塔を、いずれ滅ぶ王国を、いずれ醒める夢を。(編・青山新)

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