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にげれるものなら にげてみよう|『にげて さがして』ヨシタケシンスケ を読んで

〜卒業と不登校と居場所について〜
『にげて さがして』(赤ちゃんとママ社)ヨシタケシンスケ・さくを読んで

にげるを肯定する

卒業、入学の季節ですね。
 卒業式に出席できない。そんなことがあるなんて、信じられなかったのですがそういうことってあるんです。実は私の子供がそうだったんです。
 私の子供は、不登校をしていたので、中学も高校も卒業式に出席しませんでした。記念だから、けじめだから、卒業式だけは行ってほしいという気持ちも親の私達にはどこかにありました。でも、ずっと長い期間学校に行ってなかったので、卒業式だけ行くなんて無理な話なんですよね。
 そもそも、学校では苦しくても乗り越える!という教育が刷り込まれすぎと思うところはあります。特に、体育の授業や部活などで、楽しいよりも先に苦しいがある。苦しさを乗り越えた先の達成感を味わえ!みたいな。でも、昔からそれはなんか変だし嫌だなと思っていたのです。
 そこで出会ったのがこのヨシタケシンスケさんの『にげて さがして』です。
 逃げるというと、ネガティブな印象かもしれません。親や先生は逃げなよとは絶対言わないですよね。立ち向かえ、乗り越えろ!というんですよ必ず。「苦しい」の先に「楽しい」「好き」がある場合もあります。でも「苦しい→楽しい→好き」が循環していないとダメです。「苦しい→つまらない→嫌だ」場合は精神的にダメージを受けます。それで逃ちゃう時もあります。それを肯定してくれるのがこの本なのです。

にげてさがすはストライダー

 この感覚は何かに似ていると思ったのがストライダーです。
 ストライダーって知ってますか?子供が自転車に乗る前の練習的な感じで乗る二輪車。あれで練習すると自転車はあっという間に乗れるようになるんですが、それに似ている気がするんです。
 私が子供の頃は、自転車に乗るためには親と一緒に泣きながら練習したものです。自転車のサドルを親に手で持って支えてもらいながら勢いをつけてバランスが取れるようにペダルをこぐんです。でも、できるようになるまでには何度も転んで膝をすりむきました。親も低い姿勢で腰が痛いもんだからだんだんイライラしてくるし。親子で、それこそ泣きながら立ち向かって、自転車が乗れるまで、苦労を乗り越えました。
 でも今はストライダーに乗れば、そんな事をしなくてもバランスが取れるようになるんですよね。あの苦労は何だったんだと思うのですが、違うやり方で楽しくできるならそっちのやり方がいいって事なんですよね。目的の自転車に乗ることが達成できればいいのですから。その別の楽しいやり方を示してくれるのがこの絵本のような気がしました。


 「にげる」ことについていろいろな角度から描いているのですが“きみのあしは「やばいもの」からにげるためについているんだ”という一文が目から鱗でした。最初はちょっとびっくりしました。え、逃げていいの?だって「逃げる=負け」「逃げる=ダメなこと」と私なんかは小さい頃から頭に刷り込まれちゃってるんですから。180度真逆の考え方に戸惑いました。でも、この言葉に心が癒される人がたくさんいると思います。とくに子供は学校以外の逃げ場が無い。子供は学校が合わないとそれ以外の場所がなかなか考えられず、そうとうダメージを受けます。家族も世間も、学校は行くものだと固定観念があるんですよね。
 学校に行かなきゃ行けないという固定観念はそうとうに頑丈にみんなの頭の中に根付いています。なのでそうは簡単には、じゃあ学校に行かなくてもいいよ他の道を探ろう、とはならないのが難しいところ。いじめから逃げたら負けだから学校に行き続けたなんてエピソードや、「置かれた場所で咲きなさい」なんてその場をどうしても乗り越えなくちゃいけない気持ちになっちゃうんですよね。子供が不登校をしていた当時を思い返すと「学校=絶対行くところ」という固定観念と戦っていた部分も大きかった気がします。

逃げちゃダメだ 逃げちゃダメだってホント?

 でも、子供が不登校というのは、何かしらの困り事を抱えている証拠なんです。それはいじめかもしれないし、教師のパワハラかもしれないし、子供に何かしらの発達的な問題があるかもしれない。だったら今の環境を変えた方がいいってことですよね。
 そんな時はにげちゃえばって、そっとこの本は言ってくれるのです。自分の居心地のいいところ、合う場所、一緒に笑える人がいる所に行けばいい。にげることは恥ずかしくも、悪いことでもない。すごいですよね。そんな事誰も言ってくれませんでしたよ。碇シンジじゃないですが「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ」って言われ続けて育ってきましたから。どうしてもその場所が合わない人や、人生でそういう時期ってあるんですよね。そこに、立ち向かってボロボロになくらいなら、元気が残っているうちに、その場所を離れた方がいいという事なんですよね。
 目的は社会に役立つための学力をつける事なんですから。それこそ、昔は公立の近隣の学校しか無かったら、泣きながらその学校に行くしかなかったけど、今は新しい選択肢がたくさんあります。転校もありだし、通信制の学校もありだし、フリースクールでもいいし、合う場所に逃げればいいんです。
 卒業はお祝いするものです。普通に卒業する人だけでなく、勇気をもって自分に合ったそれぞれの居場所を「にげて」「さがした」人にも大きな拍手と賞賛を送りたいと思います。続けるよりも逃げる時の方が何十倍も勇気いります。その勇気が自分自身を助けました。「苦しみは乗り越えるものという固定観念」からの卒業おめでとう!自分の道をさがせてよかったね!


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