なんしょんな_俺

『なんしょんな!俺』(8) 不祥事と責任の範囲 / 川人憲治郎

※全て無料で読めますが、今後の活動費に当てさせて頂きますのでよろしければご購入も頂けますと嬉しいです。

 3/13(水)、ミュージシャンでマルチタレントのピエール瀧が逮捕されました。
 彼が20代から逮捕される今日までドラッグをやっていたのは日本の法律を犯していて、完全アウトで罪人です。でも彼や彼のチームが生み出した音楽や出演していた映画・ドラマに罪はありません。それをネット配信停止、音楽ソフト・映像ソフトの在庫回収等の自粛をやって何になるのでしょうか。だって音楽や映像に罪はありませんよ。
 そんな中、東映は「麻雀放浪記2020」をピエール瀧が出演しているシーンをカットせずに、ノーカットで公開するそうです。(「ノーカットで成人映画!」のピンク的売り文句じゃないんだからとツッコミたくはなりますが)東映の英断に拍手でございます!パチパチパチ!

 話は変わりますが、ポール・マッカートニーが1975年来日時に海外での薬物所持でビザが無効とされ中止になり、1980年来日時は日本の土は踏んだけれど大麻所持で拘留されて強制送還になりました(ちなみに、同年の12月にはジョン・レノンの死亡と、ビートルズファンには踏んだり蹴ったりの年でした)。
 でもこの時にポールやビートルズのレコードが店頭から消えたりはしていませんし、ラジオやテレビでも流れていましたからね。ソロとしての初来日が中止となった翌1976年にはLP三枚組「ウイングスU.S.A.ライブ!」が、来日記念盤の帯付き!(来日していないけど)で発売されていたので、まったくもってあの時代は自粛なんか全くやっていません。
 40年前と今を比べるなと言われるかもしれませんが、時代が変わっても人が法を破ること自体に変わりはなくても、その後の各所の対応が違っているのです。
あれ?ひょっとしてポールは海外アーティストだから国内には影響が及ばなかったとの判断だったのか…。

 坂本(龍一)教授がツイッターで「なんのための自粛ですか?電グルの音楽が売られていて困る人がいますか?ドラッグを使用した人間が作った音楽は聴きたくないという人は、ただ聴かなければいいん(原文ママ)だけなんだから、音楽に罪はない。」と意見表明をしていましたが、その通りだと思います。

 今回のピエール瀧関連の自粛に関しては各社の事情があるのは分かりますが、何かピエール瀧とその周辺を葬り去ろうとしているようにも感じて気持ち悪いですね。
 昨年、アニメ業界でもTBSのアニメプロデューサーが少女誘拐で逮捕される不祥事が起こりました。彼が後半話数から関わったタイトルを私が所属するディオメデイアで制作していました。
 ただ、そのタイトルは幸いにも彼が逮捕される二年も前に放送が終わっていたので全く影響はありませんでしたが、昨年発売された「全話通し見ブルーレイ」では彼の名前をエンディングクレジットから消してソフト化されました。
もしかすると制作中、放送中の作品であれば即刻制作中止や放送打ち切りという判断が下ったかもしれません。それでも映像作品に罪はありません。不祥事を起こした本人は罰せられるべきですが、彼またはそのチームが作り出した映像作品に罪はないのです。 
 最終的にその映像を世に出す、出さない、制作途中で止める、止めないの決定を下すのは、私を含めて制作する側の人間です。製作委員会のなかにもいろいろな意見を持っている方がいますが、もし私がそういった局面にたたされた時には、「映像作品に罪はありません」と言えるアニメーションプロデューサーでありたいですね。

【 川人憲治郎(かわんど けんじろう) プロフィール 】
 1961年4月1日生まれ。香川県丸亀市出身。
 株式会社グループ・タック、株式会社サテライトなどでアニメーションプロデューサーを歴任。
 ふしぎの海のナディア(1990年 - 1991年)、ヤダモン(1992年 - 1993年)、グラップラー刃牙(2001年1月 - 12月)、FAIRY TAIL(2009年 - 2013年)など、プロデュース作品多数。
 現在は、株式会社ディオメディア(http://www.diomedea.co.jp)にて制作部本部長を務める。無類の愛犬家。

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