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新年早々「うちの畑は何農法になるんだろ?」と考えてたら、大根1本1万円になった話

前回のつづき。
 現在、日本の農業には大きく分けて「慣行農法」「有機農法」「自然栽培」「自然農法」があるそうです。じゃ、私が畑でやっているのはどれに当てはまるんだろ?と考えてみたのですが、エエ加減すぎてどれにも当てはまらないということがわかりました。www

慣行農法
化学肥料と農薬を使って栽培する従来の農業の総称
有機農法
堆肥を投入し、天然由来の農薬を使用して作物を育てる農法
自然栽培
地力を上げ、生態系の多様性を効果的に利用しながら環境を変えることによって無肥料・無農薬で作物を栽培する農法
自然農法
自然栽培をさらに徹底し、耕起、除草、施肥、農薬散布を一切行わない農法

あくまでザックリと。厳密に言うと少しちがうかも。(^^;)

 さて、このところの世の中の風潮を見ていると、従来の「慣行農法」以外の農法がずいぶん注目されている気がします。昨年大きな話題になった原料不足からの「肥料の値上げ」も逆風になっているようですが、慣行農法の農家さんはかなり肩身が狭い思いをされてるんじゃないでしょうか。
 でもね、実は慣行農法は古代からずっと培ってきた人間の経験に、20世紀に発展した科学の粋を組み合わせた効率的で大変素晴らしい農法です。最近はさらに進んで自動運転の大型機械なども導入され、AIやロボットによる完全管理の野菜工場までできていますもんね。
 実際のところ、慣行農法で化生肥料と農薬を使って手間暇をかけずに大量に栽培しなけりゃ、スーパーで売ってる大根1本98円のあの値段が実現するはずはありません。売値が98円だったら生産している農家さんは一体1本いくらで出荷しておられるのかと想像すると、何とも言えない暗澹とした気持ちになりますけど…。
 ちなみに我が家で作った大根で試算すると、仮に1本1万円で売っても私の時給すら出ません。そう考えると大根1本98円はまさにマジック。安くてきれいな野菜をスーパーの棚に大量に並べることは、慣行農法にしかできない芸当なんですよね。もし、慣行農法をストップしたら野菜は確実に高騰しますし、何より絶対量が不足します。

 一方でこれは消費者の問題ですが、日本のスーパーでは形が悪かったり傷んだりしている野菜は売れ残ります。ましてや虫食いの跡のある野菜はまず売れません。もし、買ったキャベツに1匹でもアオムシがついてたら、確実にクレーム案件でしょう。
 それなのに多くの方が
  「スーパーの野菜は農薬まみれで健康に悪い。」
  「化成肥料で育てた野菜はおいしくない。」
などと、根拠なく全くの先入観だけでおっしゃるわけです。それがわかっているから、農家さんはものすごく気を遣って、如何に低農薬で効率よくきれいな野菜を作るかに心血をそそいでおられるんですよね。
 ま、そうは言っても野菜を食べて健康被害が出るのは論外ですし、慣行農法以外のやり方で作られた野菜の方が、たぶん身体にはいいのでしょう。でも、そういう野菜は膨大な手間暇がかかって大量生産できないうえに、かと言ってそんなに値段を上げるわけに行きませんから、慣行農法じゃない農家さんは今の日本じゃ大変です。実際のところ、山の中の畑を開墾して自然栽培で生計を立てようとチャレンジしている私の知り合いは、契約販売で販路を確保して何とかがんばってますが、安い野菜に押されて経済的にかなり苦労しておられます。

 たぶんですが、日本の消費者は世界一辛口で厳しいのです。

「農薬と化成肥料を使ってなくて、見た目が立派で虫食いなしの、美味しくて健康にいい野菜やお米をたくさん食べたいの!だけどね、できるだけ安くないとダメよ。そうじゃなかったら私たち買わないんだからねっ!」

 「消費者のニーズ」というフレーズはどの業界でもよく耳にします。でもね、慣行農法の農家さんも、他の農法の農家さんも実際のところ、この消費者のわがままな?ニーズに苦しんでおられるんじゃないでしょうか。(^^;)
 先日、うちの近所で大規模に慣行農業を営んでおられるオッサンとこの話をしていましたら、
「農薬と化成肥料使わんと、見た目が立派で虫食いなしの、美味しくて健康にいい野菜や米を、安く大量に作れってか?なあ、そんな神わざみたいなこと誰にもできんやろ?たぶん神様でも無理やわっ!例えばな、無農薬でどうやって田んぼでいもち病と闘うんや?あっという間にそこいら中に蔓延して丸ごと全滅やぞ。化成肥料使わんと米の食味と収量キープしろってか?あのな、それがどんだけ難しいことかわかってるんか?人間かて病気にかかったら病院で薬もらうやん?作物も病気になったら薬やろ?その薬がイメージ悪いけど農薬っちゅう名前なんや。人間は栄養失調になったらとりあえず点滴打ってもらうやん?作物の場合はそれが即効性の化成肥料やったりするわけや。人間はエエけど、作物は薬飲まんと点滴も打たんと自然治癒せなアカンってか?それってホンマにおかしな話やないか?」
と憤慨されてました。www

 以前、農薬を製造しておられる会社の動画をYouTubeで観ましたが、新しい薬を開発して国から認可を受けるまでの苦労は並大抵ではありません。ちなみに残留農薬基準は厚生労働省、農薬取締法による散布回数などの規定は農水省の管轄ですが、いずれも大変厳しい基準です。彼らが自国民の健康を害するような甘い基準を作るわけがありませんから、クリアするのに10年ほどの年月と100億円くらいの費用がかかるそうです。

 如何でしょうか?効能もさることながら、まず第一は安全性。健康被害・環境被害を出さないためにものすごく腐心されている姿(特に35分過ぎから)を見て、私の農薬に対するそれまでのイメージは大きく変わりました。農薬の使用においては、定められた方法と量が守られている限り、安全性に影響するということはまず考えにくいですね。先入観だけで物事を判断しちゃいけないんです。

 ま、これだけ有機農法や自然栽培、自然農法が注目されているのは、たぶんあまりに行き過ぎた慣行農法の揺り戻し、原点回帰。もっと言うなら農業のルネサンス(復興)なのでしょう。このまま効率を追い求める慣行農法を続けて行っていいのか?という意識の高まりと将来への不安。それもよーくわかりますし、それぞれの農法の良さも私なりに理解できます。
 フラットな立場で、あらためて農業とは何だ?って考えると、そもそも人間が農耕を行うこと自体が自然なことじゃないんですよね。単一の植物を大量に植えることはもちろん、厳密に言えばたとえ一本でもそこにもとから生えていなかった作物を植えることすら不自然なことなんですよね。私がやってる雑草堆肥を作って畑に入れるという行為も、本来何年もかかって腐植になるべきところを力技でやってるわけですから、自然界にとってはありえないことです。
 でも、その不自然な行為があってこそ我々の食料は何とかなってるんです。そう考えると何農法でやったとしても所詮はさじ加減だけのことなんじゃないのかと思えてくるんですよね。

 きっと今の日本の農業を取り巻く問題は余りに多すぎて、あちらを立てればこちらが立たずの状態なのでしょうね。
 多様性の時代です。だからこそいろんな農業のやり方があっていいんじゃないか?と私は思うのです。その上で何が正解かわからない時代だからこそ、守りの姿勢ではなく果敢に挑戦していく姿勢が大切。

 慣行農法、有機農法、自然栽培、自然農法のそれぞれが「こうであらねばならない」というこだわりを一旦脇に置いて、垣根を越えて柔らかな思考で歩み寄れば、きっと新しいスタイルが生まれるんじゃないでしょうか。行政もJAも生産者も消費者もみんなが手を携えて、日本の農業のよりよい未来のために、「今」できることをともに考えたいものです。

あんまり目くじら立てずにお互いのいいとこ取り農法
とりあえず、私は今年もこだわらずにこれでやっていこうと考えてまーす。(^^)


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