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還暦不行届 第三回 コンクール入賞

監督のあまり知られていない趣味として
焼き物がある。

だいぶ昔にどこかの観光客向けの窯で
小さなお鉢を作った。
そう言う体験で作った物は私もいくつかあるけれど
素人の作るものだからやはり使いにくくて
いつのまにか戸棚の奥にしまったきりになる。

一方監督の作ったお鉢は未だに納豆を出す時使う。
釉薬の色が少しきつくて最近使用頻度はおちているが、形は手に馴染むというかとても使いやすいのだ。

教室に入ったり習うと言うことはしいてない。
時々体験陶芸みたいなところに行って
作るというだけなのだが監督自身は陶芸がとても好きで、
よく「秋になったら陶芸行きたい」とか
「あたたかくなったら陶芸行きたい」とか
言っている。
監督の言う「陶芸」とは
鎌倉の「たからの庭」と言う
元は大正時代の女性陶芸家のアトリエだった施設のことだ。

北鎌倉の奥深い場所で建物も趣があるので、地元のアーティストがイベントをしたり
和菓子屋さんがお菓子作り教室などを催したり
今も静かに活躍している。

そこで「オチビサン」の原画展とグッズの販売イベントをやることになったので挨拶しに行ったのだがせっかくだから陶芸をやらせてもらおうと言うことになった。

日常的に体験型陶芸教室をやっているので
私とスタッフの珠ちゃんはそこに入れてもらった。

他の人と一緒に手ごねでお皿を作り庭でとってきた草花を乗せて釉薬を塗る、と言うセットになったコースだが、それでも充分に楽しい。

しかし監督はろくろを回したい、と言って
特別に土も用意してもらい
大学で陶芸科だったスタッフ菊ちゃんと一緒に
猛然と皿や小鉢を作り始めた。

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