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8月3日 文具はさみの日

    いつの間にこんなに器用にはさみを使うようになったのだろう。

「ママ、見て。雪の結晶みたいなのできた!」

 リノはそう言うと、キュッと小さく畳まれた折り紙を慎重に広げ始めた。それにはいくつかの切れ込みがあり、その部分が切れてしまわないよう。

「ほら、大成功!」

 ゆっくりと広げきると、それは見事な雪のような模様を作っている。彼女は早速食卓の透明なカバーの下にそれを潜り込ませた。

「あら、素敵な食卓になるわね」

「うん!今日はこれをいっぱい作って机に模様をつけるんだよ」

 嬉しそうに、そして得意そうに笑い、はさみを手に取った。見ればまだまだ小さな手である。もう大人のようにはさみを使うのだなぁと思ったその手は、やっぱりまだ子供なのだと、どこか安心した。

 小学一年生になり、いろんなことを学び始めたからだろうか、とても楽しそうな毎日を送っている。それまで通っていた保育園では、『遊び』の一環ではさみを使っていたが、小学生になると、『授業』の一環ではさみを使うと言う微妙な違いがある。勉強をして覚えたのだと思うと彼女も誇らしいようで、はさみやのりなど、これまでも使ってきたいろんな文具の使い方をよく教えてくれた。特にはさみでは折り紙でいろんなものを作って私に見せてくれる。

 私はなんだかそれが成長記録のようで面白いのだ。

「ママ!これレベル5だって!難しそうだよ、ママやってよ」

「何言っているの、あなたもう出来るでしょ。やってごらん、教わった通りにはさみを持って、そうそう」

 難しい作り方に若干ひるんだ様子だが、頑張れと一声掛ければ、よし!と自らはさみを持った。なんと頼もしい。

「あ、でもこれ本当に難しいね。切れちゃいそう」

「切れてもいいんだよ、また作ればいいし、また切ればいい」

 私はそう言って、折り紙を折り始める。

 黙々と、2人で作業する。まだ夏の午前も早い時間だからか、鳥のさえずりがさわやかに聞こえる。風が吹けば涼しくも感じるが、そろそろじわり汗が浮く。

「いっぱい作ろう」

 ふと、彼女が言うので私は小さく笑った。きっと、はさみで切っている間に『楽しい』が頭の中いっぱいになり、もっとやりたいと思ったのだろう。それが十分に伝わる。

「そうだね、一緒にたくさん作ろう」

 私も折る手を休めずに作る。


 どのくらいの時間、作っていただろう。こんなに集中して何かに取り組むことも久々である。折り紙を折る私とはさみでそれを切る娘。集中しすぎたのか、耳に入る音は『じゃきん』『しゃきしゃき』『ちょきん』と言うはさみの音と、『かさかさ』と言う折り紙のそれだけだ。まるでそう言う工場のように私も娘も黙々と作業していた。

「そろそろいいかな」

 娘が言い、折り紙を手に取った。一つずつ、ゆっくりと広げていく。次から次にきれいな模様の切り紙。いろいろな花と結晶が透明のテーブルカバーの下を彩っていく。それは全面に広げられ、あっという間にカラフルできれいな模様のテーブルが出来た。

「最後にこれを挟んで完成!」

 見ると、両手がつながっている人型が4人の切り絵。パパとママ、リノと妹のリナだろうか。

「見て、空いっぱいの花火を見ているみたいでしょう」

 いつの間にかはさみの使い方が上手になったと喜んでいたが、 想像力もこんなに育っているのかとまたも驚く。

 夏の思い出は、切って作れる。

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【今日の記念日】

8月3日 文具はさみの日

オフィス家具、文具、事務用品などの製造販売を手がけるプラス株式会社が制定。文具はさみのトップメーカーとして、文房具のはさみをより多くの人に親しんでもらい、目的に合った安全な商品を選び、役立ててほしいとの同社の願いが込められている。日付はこの時期は夏休みの工作で文具はさみを使う子供が増えることと、はさみを横に置いたときのハンドルと刃の形が数字の83に似ていること、数字の8を真ん中で切ると右側が3になること、8と3で「は(8)さ(3)み」と読む語呂合わせなどから8月3日に。

記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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