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はじめまして、もしくはお久しぶりです。 「あにぃ」と申します。 イイ歳をした小説家志望です。 ★2024年1月1日より、超掌編小説の毎日18時投稿を開始致します。 どうぞ末永くよろしくお願い致します。 ------------------------------------------------------------ 以下、私の略歴と自己紹介です。 中学生で小説家に憧れ 高校生でがっつり反抗期に入り 短大生で不器用に遊び 社会人になって大人になることを知り
朝、昨日より早く起きることが出来たので1点。ため息つきながらも何とか会社に行くことが出来たので1点。隣の上司が苦手すぎてまだ何もしていないのに席にいるだけで泣いてしまいそうだったけど、泣かなかったので1点。さらにさらに、勇気を振り絞って聞かなくてはならないことを聞けたから3点あげちゃう。 で、聞いたはいいけど、「で?どうすんの?」と言われて一瞬にして固まった。 積み上げた6点はなんとキレイに砕け散った。 「いや、悩んでって言ってるんじゃなくて、聞いてるだけなんだけ
あともう少しなのに。 河津はそう思い、唇をぎゅっと結んだ。わずかに鉄の味がする。 あともう少しで、頭の中のモヤが晴れそうに思うのだった。何がきっかけなわけでもない。何がそう思わせるのかも分からない。ただ、最近ずっとモヤがかかっている。頭の中だったり、心の中だったり、時には視界も。 原因がわからないのに、それでもモヤが晴れそうだと思うのには理由があった。河津は学生時代にもこんなふうに気づくとモヤの中を歩いていることが度々あった。そしてその都度、理由も解決策もわからない
「お腹すいた?」 「うん、少し」 「パン、分けてあげるよ」 「ありがとう」 「······あ」 ころころころと、小さなロールパンが転がっていく。私はそれを見続けているが、ソウくんは追いかけ始めた。待って、待ってと言いながら、坂でもないのに、転がり続けるロールパンを追う。 私もそれに付いていくことにした。 私は、トコトコとのんびりついていく。ソウくんはドタドタと足がもつれそうになりながらパンに続く。それなのに、私もソウくんも同じ速度でパンを追っている。トコトコもドタドタ
気づけば時間はどんどん進むのだった。 カチカチともコチコチとも、秒針の音さえ鳴らず、ただなにもなかったようにして時は進む。いいことがあった時も、悪いことが重なるときも、同じ早さで同じ強さで時が進み、私が進む。 「私はまだこんなところにいるのか」 愕然と呟いてみるが、私が今いるのは本屋である。町の小さな駅前本屋。そして、私は今日、50歳になった。なんの感慨もなく、むしろこんな風に絶望さえ感じているのには訳がある。 今から10年前、そのときもまた、私は激しく後悔をし
これさえあれば、私は生きていける。 この一冊があれば、私の生きる指針になるだろう。 この一冊があれば、私が涙するときにはその涙を乾かしてくれることだろう。 この一冊があれば、私が怒りに我を忘れそうなその時に、怒りを沈める術を示してくれるだろう。 この一冊さえあれば、私は生きていける。 この一つがあれば、私の生きるよすがとなるだろう。 この一つがあれば、例え雨の日も風の強い日も、私は懸命に仕事を全うすることだろう。 この一つがあれば、誰かがなにかに迷ったその
見上げると光が差し込んでいた。 色などついていないだろうが、白や黄色、時々薄い青や赤が見えた。多色が偏光しキラキラと光って見える。 いや、違う。光が差し込んでいたのではなく、光はただそこにあり、葉や枝の隙間もまたそこにあるだけで、それらが重なっていることで光がこちら側に飛び出て見える。それを『差し込んで』見えたと思っただけである。ただ、それだけである。 私が見上げたことで、まるで私に光が差し込んだなどと思うなんて、なんと傲慢な考えなのだろう。 そんな風に思ってはま
その頃の私は日々に絶望していたように思う。朝起きることに絶望し、洗顔するにも呼吸の仕方を忘れたように苦しみ、朝食をとっても味がせず、トイレに入れば下着を脱ぐことを忘れていたのだった。朝のひとときでさえこの有り様なので、会社に出勤しても、その一分一秒が苦しみの連続である。今、この場でいなくなってしまいたいと、何分にか一度思うばかりであった。 別に何かがあったわけでもないのに、私の防御は完璧だった。 そもそも、内とか外とか、私を知る人が、誰もいないのだった。 それと
私は、男の人がこんな風に綺麗に涙を流しているのを見たことがなかった。 彼のその体躯の割に小さく幼い顔立ちのせいなのか、それともこの春を終えたばかりの季節柄、暖かさと暑さの中間の風が私の頬を撫でるからなのか、晴れた日の美しい夕日が彼を照らしているからなのか。その人は、とても清潔で綺麗に見えた。 あまり流行らない町の通り、カフェのテラス席で一人、彼は姿勢正しく座ったままで泣いていた。 そこが、あまり人の通らないところで良かった。知ってか知らずか、テラス席にしたのはそ
「ああ、なるほど」 女が言った。 なるほどと言っているのに、言葉に反してどうにも納得などしていないようだ。目を凝らせば、下唇を噛んだりもしている。悔しいのだろうか。 「すまん、別れてくれ」 そう言って頭を下げたのも、これもまた女だった。なるほどと言った女とは別。両の手のひらをパチンと鳴らして合掌をしている。その隣には小ぶりの女がぽつんと立っている。左手の指で、頭を下げた女のシャツの裾を摘んでいた。 二股交際、だろうかな。 私は妙にソワソワとしながら少し距離
どんよりとした曇り空だった。今にも雨が降りそうな湿っぽい空気とその色に、亀岡もどんよりした。 ホームで電車を待つ間に空を見ながら考えている。ポケットの中から好物の黒飴を取り出し、口に放り込んで、もごもごと時々歯に当てながら舐め、考えている。 私はこれで正しかったのだろうか。 亀岡はアパートに妻と子の3人で暮らしている。世間一般の四十半ばの収入には相当するとは思えないが、妻のパート収入も手伝い、何とか暮らしていけている。時々、コンビニでアイスを買ったり、こうして黒飴
「さよおなら」 私は、今、何度目かの『さよおなら』をしている。目の前には目を丸くした男が一人。 この半年一緒にいた彼は電車で見かけた大学生だった。満員で身動きがとれない電車の中、彼の手がそわそわと動いていたのだ。その手をどこに持っていけば痴漢に間違われずにすむだろうかと思案していたのだと思う。私の肩に度々、彼の手の甲が触れるのだった。私はぐいっと彼の正面に向き直り、目線を合わせた。彼は大層困惑していたが、私は敢えてにこりと微笑んだ。 「手をつないでいましょう」
男は佇んでいた。 昼下がりの商店街のメイン通りから少し外れた細道にある、古びたベンチに座っている。5階建ての小さな建物が並ぶその間の通りは細く、人が2人並んでは通れない程。片方の壁に向けてベンチが置かれていた。そこに、男は座っている。 ぼーっと前を見て、ただの建物の、これもまた古びた壁を見る。その後で、首を90度上に傾け、真上の空を見た。 男は、自分が孤独であることを知る。 男の側には誰もいない、愛するものも、血を継ぐものも誰もいないのだ。パン屋で買ったミルクパ
後ろを振り向くと、誰もいなかった。 例えばそれは『後ろの正面だあれ』なのかもしれないし、『だるまさんがころんだ』なのかもしれない。 振り向けば、誰かはいるはずなのだ。それが一人なのか大勢なのかは分からないけれど、少なくとも誰かはいるはずだった。 でも、そこに誰もいなかった。 私は降り向いたまま、硬直し、けれど涙が落ちた。 私の歩んだ道に、誰もいないのか。そう思うと、もうどこにも歩けないし、悲しくなって泣いた。 私は一体何をしてきたのだろう。 四十年あまり
小さな赤いビーズがいくつも連なっている。 ところどころにハートやリボンのビーズやモチーフが飾られているが、そのどれも赤い。赤く、艶やかで、光が当たるとキラキラと輝くのだった。近所にできた手芸屋さんのワークショップで、今、その粒を手にのせている。小さくて可愛いそれらは一粒ずつが意思を持っているように見えて、私は思い出していた。 あの人のメガネに、それはつけられていた。 はじめてあの人を見たとき、首に下げていたそれを見て、私はネックレスかなにかなにだろうと思っていた。け
私の胸の中に、小さな赤子がいる。母親に聞けば生後3ヶ月らしい。 「ぃぎゃあぃぎゃあぃぎゃあ」 生後3ヶ月の彼は力強く、顔を真っ赤にして泣き叫んでいる。何を、そんなに、怒っているのだろうか。私は思わず頬が緩む。 「本当にすみません」 母親はこっちを見ては手元の書類を見て、ペンを持つ手を動かしたり止めたりしている。 「気にしないでください。ゆっくりどうぞ」 私は言い、それは本心であった。胸にいる小さな小さな赤子はとても熱い個体である。熱い塊を私は抱き、発する熱