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はじめまして、もしくはお久しぶりです。 「あにぃ」と申します。 イイ歳をした小説家志望です。 ★2024年1月1日より、超掌編小説の毎日18時投稿を開始致します。 どうぞ末永くよろしくお願い致します。 ------------------------------------------------------------ 以下、私の略歴と自己紹介です。 中学生で小説家に憧れ 高校生でがっつり反抗期に入り 短大生で不器用に遊び 社会人になって大人になることを知り
【140字小説】 イヤホンであなたの声を聞きながらタクアンを食べた「君にね」ポリポリ「会いたいな」ポリポリ「けれど」ポリ「ごめん」ポリ「ポリポリ」僕と別れて「ポリ」くれないか。いつしかタクアンの咀嚼音があなたの声になり、あなたの声がタクアンのそれになりました。タクアンを食べることが好きになったよ。
【140字小説】 真四角の角と角を向こう側の角と角に合わせる。真四角は長方形になる。短辺の角と角を向こう側の角と角に合わせる。こうして私はいつも整えて形を変える。真四角は長方形に、三角に。いつでも変わる。でもいつも角が残るので、まあるくまあるく、何度も折っては確かめる。いつか丸い四角に成るように。
【140字小説】 下りの階段が思うよりも長い。今日の仕事を頭の中で浮かべていると段数が増える。前を行くあの子が「こっちだよ、早く行こうよ」と言うのだが、そちらに進もうにもいっこうに階段が終わらないのだ。アレしてコレしてソレもして。タンタンタンと増えていく。私はいっそ飛び越えて何もしないことにした。
【140字小説】 「あんたは大丈夫」私が何かを相談すると母は決まってそう言って笑っていた。その大丈夫には、もしも上手くいかなかったとして私が受け止めるという母の強さが見える。「あなたは大丈夫よ」同じことを私も子に伝える。そこには、生まれて初めて目があったあの時のような、柔らかく崩れた笑顔があった。
【140字小説】 左の空から光が差し込む。その眩しさに私は瞼を閉じた。瞼の裏には、それでも今見た空と同じ景色が広がっていて、見えるものと見えないものは本当は同じなのではないかと錯覚する。「いつでも会いに行くよ」あなたは言って私を抱きしめる。会いたいと思って目を瞑り、開くとそこにあなたがいるように。
【140字小説】 「悲しい」と、子どもが下を向いた。友人とケンカをしたらしい。大人の私には何も言えることがなかった。ただ寄り添って、彼女の肩を抱いて、時々、胸に引き寄せ、また抱きしめる。彼女はいつも通り温かく、私は悲しくもないのに少し泣く。「嬉しい」子どもの熱が高まり、見ると顔をあげて笑っていた。
【140字小説】 いつもそこにいるカマキリが今日はいなかった。いないなぁ、と思って仕事に向かう。散歩にでも出ているのだろうか、それとも食事だろうか。電車の中で車窓を見つめていた。少しだけソワソワする。いつもあるものがないことで私の日常がしれっと崩れる。気づかぬ間に額に汗をかいていた。まだ夏が残る。
【140字小説】 とにかく休憩がしたいと、彼女は言った。頭の中が一杯になって他になにも考えられなくなってしまうと私は壊れる、だからその前にとも言っていた。休憩をしたところで変わるだろうかと思ったけれど、目の前でとてつもなく穏やかな彼女の顔を見るとそれが正解なのだと思う。私も温かいカフェラテを飲む。
【140字小説】 私を見る目がとても優しかったことを覚えている。その日は雨で空は暗かった。夏の終わりの生ぬるい風が吹き、けれどもあの人の大きな手のひらは私の頭の上で大きく優しく温かかった。私は安心した。安心して、さようならを言った。生ぬるい風はいつしか冷たい雨に変わり、私はやっぱり泣いたのだった。
【140字小説】 ノースリーブの腕にクーラーの風が冷たく痛い。風を睨み付けてみるが風には目もなければ実体もない。私の睨み付けた視線は宙をいく。この豊かな二の腕を両手で抱き締めるようにしてぎゅっと力を込めた。冷たい肌がじんわりと温められていく。私でも人を暖めることができるのだと思ってくしゃみをした。
【140字小説】 空が赤かった。紅ではなく朱の赤で、私は妙にそわそわと気恥ずかしいような気持ちになった。空が赤いことが私になにかをもたらすわけではないのに。それでも、どうにも気持ちがそわそわうずうずとして空を見上げていた。やがて私は泣いた。やりたいこととできないこととわからないことが交差している。
【140字小説】 この世界は言葉を発さない。言語は存在し、言葉を書いたり打つことはしても、それを口にすることはない。ニュアンスや温度感は全く存在しない。道理で、この世界のほとんどの日とは表情が薄くどこか全てが他人事のような態度である。私は思いきって母国同様に言葉を発してみた。冷たい視線に汗が出る。
【140字小説】 読み聞かせ会に来ていた。目の前に座る子どもが私を見る。「ママ、いる?」私はここにいる、見えるでしょ。それでもソワソワと子どもは何度も振り返り私を見る。次に振り返るなら、私は彼女を抱きしめよう。開けた窓から過ぎた夏の匂いがする。見えない不安なら見えるようにしてあげたい。まだ子ども。
【140字小説】 人間は不完全なままで生まれ、不完全なまま死に向かう。誰かがそんなことを言っていた。そもそも不完全だしそのまま死ぬのだから、渦中で完全になれるわけがないのだ。そう考えれば日々の自分のいたらなさにも道理がある。そして不完全の内容は人によるのだろう。私は今日も彼からの連絡を待っている。
【140字小説】 夕暮れ時、私は車窓の外を見る。揺れる車内と人々の熱気が肌に触れては離れていた。窓の外の風景も揺れては流れていく。その揺れる景色で、私は誰かと目があった。一瞬ではあるが、私の見ている窓枠の端から端までに流れて写るその間、確かに目があった。そして揺れて彼は消えた。車内と頬が蒸気する。