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4月11日 しっかりいい朝食の日

(いつもより少し長いです。※約2400字)

 喧嘩するほど仲が良いなんて良く聞くけれど、そんなことはない。と、言うところまで良く聞くけれど、その実どうかなんてことはその人たちによるところなので、結局のところ分からないのだ。

 仲がいいのか悪いのか、私と夫はよく喧嘩をしている。

 そして昨日もそうだった。

 私の仕事が長引いてしまい、19時をすぎての帰宅となった。その為お弁当屋さんの総菜をいくつか購入し、タイマーセットしておいた炊飯ジャーの中のご飯、昨日のお味噌汁で夕飯を出したのだ。

 それに対して夫は、また簡単なものと出来合いかとため息をついたのだった。


 ちょっと待て、と言いたい。


 私の仕事柄、この3月と4月のこの時期は1年の中でも特に忙しい。単なる事務員である契約社員の私さえ忙しく成らざるを得ないのだ。だから帰宅が遅くなることも、そのために夕飯に手が回らなくなることも仕方のないことだと考えている。もちろん、世の中のすてきな兼業主婦さんの中には、朝にばっちり下拵えや、何だったらほとんど作り上げてから出社している人も多くいることだろう。それにはとても感服しています。

 でも、私はそう出来ないし、しないのだった。

 無理だ、嫌だと思ったら、私はよほどのことでなければもう手を出したくない。そして夕飯づくりやこの時期に何とか定時で帰るための日中の強い努力などは私にとって『よほどのこと』ではないのだった。

 その上で、ちょっと待て、と言いたい。

 あなたは在宅勤務でしょう。仕事が終わっていたのなら、作っておいてくれても良かったのに、そう思わずにいらいでか。


 このように、夕飯時の喧嘩(のようなもの)でムカムカしたり、もやもやしたりと自分の中で長引かせておきたくないと思っているので、その場で夫に言い返したり、話し合ってしこりを残さないようにしている。

 言うのであればこれが唯一のルールかもしれない。

 もちろん昨日も、おかしいでしょう!!と断固意見してみたのだが、夫はどこ吹く風でそれを聞いていた。分かったと言ったきり寝室に入ってしまってそのままだ。

 そうされるともやもやが残ってしまうのだが、最近はもう仕方がないかと思って私はそこで気持ちを終えるようにしている。それこそよほど納得の出来ないような喧嘩であれば終わらせないが、そうでもなければ言いたいことを言って、それで終わることもある。

 いずれにしても朝には残さない。それを破らない為の抑止として、朝食は必ず2人揃ってたべることにしていると言うところまでが我が家のルール。


「おはよう」

 階段を下り、そのままリビングに入ってきた夫に私は声を掛けた。夫は私を一瞥するとつぶやくような声で、おはようと返事をした。

 正直、もやもやは収まっていない。だって、今日も私はきっと総菜や簡単な1品を出すことになるだろう。それでまた同じようなことを言われたら・・・・・・。そう思い、久しぶりにルールを破ろうかと口を開き掛けたそのとき、待っていた電話がなった。

「はい、相馬です」

「あ、おかあさんですか?おはようございます。理子さんが分娩室に入りました」

 電話は娘の旦那さんからだった。

「ありがとう、少ししたら向かうわ」

 私はそう言って電話を切った。背後でそわそわし始めただろう夫の気配がしている。

「理子、もう分娩室に入ったって」

「もう産まれるのか!」

「まだ時間はかかるわよ、きっと。でも念のため近くまで出て行こうかな」

 昨夜のうちに陣痛が始まっていることは聞いていたが、いよいよかと私の気持ちは上擦っている。けれど、初めての出産であることを加味してもおそらくまだ数時間はかかるのではないか。ゆっくり行こう。私は深呼吸をする。

「なにしてるんだ!早く行くぞ」

 そわそわからバタバタに変わった夫を見て私は思わず吹き出した。

「そんなに急いでもまだですよ。それに、産まれたからと言って赤ちゃんが見られるのはまだまだ先です。さあ、朝食を食べましょう」

「でも」

 座った私に対し、まだぶつぶつと言う夫に私は続けて言った。

「バタバタ騒がしいよりも、穏やかなおじいちゃんの方が好まれますよ」

 私がそう言うと、ようやっと一息呼吸をつく。そしてゆっくりと食卓についた。

「はい、少しさめてしまったけれどそのままでいいですね。食べてください」

 低脂肪乳を入れたグラノーラ、ベーコンと目玉焼き、焼きブロッコリーにヨーグルト。いつもと大体同じ朝食をとる。

「・・・・・・ありがとう」

 視線をはずして夫が言った。

 それがもう、思春期の男子高校生のごとく照れた様子であって、私はやっぱり笑ってしまうのだった。

「笑うことはないだろう」

「何のお礼ですか」

 夫は少し考えるように見せ、食卓カウンターに目をやり、そこに置いてあるグラノーラの袋を見つけて再び口を開いた。

「プロテイン入りのグラノーラだろう。け、健康を考えてくれてありがとう」

 照れ隠しまで学生のようである。けれど、可愛いわねなどと笑える私ではなく、今だとばかりに追撃しておく。

「父親たるもの、男たるものと言う威厳のあるおじいちゃんよりも、優しい思いやりのあるおじいちゃんの方が孫には好かれると思いますよ」

 そう言うと、夫はまた顔を上げたので、私はそこでようやく胸の中のもやもやがとれたように思えた。

「あなたが後者であって良かった。これからはおじいちゃんとおばあちゃんとしてもよろしくお願いしますね」

 夫は、うなずいていた。ああ、とも、うんとも分からない返事をしてグラノーラを食べている。

 これからまた新しい私たちの生活が始まるのだ。もやもやなんて残していられない。

 朝食は明るくしっかりとる。

 それが、毎朝のスタートの合図なのだから。

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【今日の記念日】

4月11日 しっかりいい朝食の日

グラノーラの日本トップシェアブランド「フルグラ®」を国内で展開するカルビー株式会社が制定。新学期のスタートや入園、入学といった新しい生活が始まる忙しい4月にしっかりといい朝食をとってもらうのが目的。日付は「し(4)っかりいい(11)朝食」の語呂合わせから。4月11日は「ガッツポーズの日」でもあり、しっかりいい朝食で元気にガッツポーズをという意味も込められている


記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。



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