【広報話】 「新商品ができたからプレスリリースを出そう」の落とし穴。
こんにちは。編集者/タレント/企業広報の複業8年目の坪井安奈です。
現在、企業広報としては(株)BitStarや(株)キャスターなどで広報を担当しています。
最近はありがたいことに、新任広報の方や経営者の方から広報についてご相談をいただくことも増えてきました。
広報という仕事は、実はとても多岐に渡っていて一言で説明するのが難しい職種なのですが、そのことについてはまた別で書くとして…(笑)
今回は、最も相談を受けることが多い「プレスリリース」についてのお話です。
プレスリリースとは、
企業や組織が「経営に関わる出来事」や「新商品・新サービス」について知らせるために出す、公式な発表のこと。
会社によっては「ニュースリリース」や「お知らせ」などと呼ばれることもあります。
「広報」と聞いた時に、まず最初に「プレスリリースを出す仕事」という印象を抱く方も多いのではないでしょうか。
今回は、そんな広報の仕事の1つであるプレスリリースの“落とし穴”について書きたいと思います。
「プレスリリースを出したい」の先にある目的は?
どんな企業においても、
新商品が出来たので、プレスリリースを出そう
というのは、一般的な流れです。
プレスリリースを配信するPRサービスとして有名な「PR TIMES」では、2019年10月には1ヶ月で1万5000本以上のプレスリリースが配信されたと発表がありました。
単純計算で、PR TIMESだけでも毎日500本以上のプレスリリースが配信されていることになります。
そんな、日々当たり前に行なわれているプレスリリース配信。
…にも関わらず、配信に「成功した」と毎回言い切れる会社は少ないのではないかと感じます。
また「失敗」とは言わずとも、依頼者(現場や経営陣)と広報担当の間になんとなくモヤモヤが残ってしまうような場合も、そのプレスリリースは「成功」とは言えないと思います。
なぜ、プレスリリースに満足できないことが多いのでしょう?
それは、「プレスリリースを出す」という行為がとても広義に用いられていることが原因だと個人的には思っています。
たとえば、現場から「新商品が出来たので、プレスリリースを出したい」と広報担当に相談し、商品情報を共有するとします。
ここで「わかりました」と、すぐに文章の作成に取り掛かってしまうことがまさに“落とし穴”なのです。
というのも、多くの場合、依頼者の本当の目的は「プレスリリースを出すこと」ではありません。
正確に言うと、
「プレスリリースを出したい」=
①プレスリリースを出して、
②メディアなどで取り上げられて、
③新商品の認知を拡大させ、
④商品をたくさん売って、売上ノルマを達成したい
みたいなことが依頼者の根本にある思いなのです。
依頼者からすると当たり前のことで「言わずもがな」と思うかもしれませんが、残念ながらその思いは伝わっていない場合が多いです。
①〜④が「プレスリリースを出したい」という一言に集約されてしまっていては、広報担当は言葉通り
「プレスリリースを出したい」=
①(企業の公式発表として)プレスリリースを出す
と理解し、根本の認識が両者でズレてしまっている場合が少なくありません。そうなると成功の定義も違うわけで、お互いが満足する状況はまず生まれませんよね。
これはどちらか一方が悪いわけではありません。
今の例を見ると、広報担当の想像力が欠けているように感じたかもしれませんが、実はそう決めつけることもできません。
というのも、実際に①のプレスリリースを出すこと自体が目的な場合もなくはないんですよね。また、②のメディア露出や、③の認知やブランディングが目的だったり…一言にプレスリリースと言っても、いろいろです。
だから、「プレスリリースを出せば、メディアに取り上げられて話題になって商品が売れる」と思っている依頼者がいたとしたらそれは違いますし、「広報はプレスリリースを出すこと(だけ)が仕事」と思っている広報担当がいたとしたら、それも違います。
プレスリリースの内容によって目的は変わるので、リリースのたびに依頼者と広報担当で話し合って、目的(KPI)を決め、言語化しておくことをおすすめします。
メディアに取り上げられるプレスリリースとは
従来、プレスリリースはその名の通り、プレス(報道陣・メディア)に向けたリリース(お知らせ)という役割が大きいものでした。
なので、結局は②のメディア露出や③の認知拡大が目的(KPI)になることが多いです。
しかし、残念ながらプレスリリースを出すだけでメディアがその内容を取り上げてくれることはまずありません。
先ほども触れましたが、PR TIMESだけでも毎日各社から500本以上のプレスリリースが配信されている状況です。その中で目に留まることは容易ではありません。
さらに、もし目に留まったとしても、そのメディアにお金を払って広告を出しているわけではないので、メディア側としてはタダで取り上げる(宣伝をしてあげる)義理はありません。
では、具体的にはどうすればよいのか。
大前提として、メディアに取り上げてもらうためには、プレスリリースの内容が「ニュース」になる必要があります。
ところで、そもそもニュースとはなんでしょう?
ニュースというのは、「新しい出来事」や「珍しい出来事」というイメージがあるかもしれません。
たしかに、「世紀の大発明」や「有名企業の倒産」、「新型iPhoneの発売」などはそれだけでニュースと言えます。
ただ、実は「新しい」「珍しい」だけではニュースにはならないことの方が多いです。
私はもともと出版社で働いていて週刊誌の編集をしていた経験があるのですが、当時ニュースというのは
「誰もが知っている人(もしくは物事)」の「誰も知らない話」
だと教えられました。
後半の「誰も知らない話」というのは、まさに「新しさ」「珍しさ」です。
ただ、ここでミソになるのは前半。「誰もが知っている人(もしくは物事)」という点です。
「誰もが知っている人(もしくは物事)」
=「世の中で関心を持たれている領域」
と言い換えることができます。
いくら新しいことでも、自分に関係ないと思ったら人は興味を持ちません。
たとえば、「我が子が初めて立ち上がった」という事実はその家族の中ではビッグニュースだと思いますが、世の中のニュースにはなりませんよね。
極端な例ではありますが(笑)
それと同じように、「知らない企業が、何か新しい商品を出した」だけではニュースにはなりません。
「新しい」+「世の中が関心を持っている」内容である必要があるのです。
その商品の発売は、世の中のどんな関心に引っかかる出来事なのか。商品の詳細以上に、まずは興味のフックとなり得る開発の「経緯・背景」や「世の中が抱えている課題」を強調することが大切になります。
ここで言う「世の中」の規模感は、メディアによって変わります。専門誌であればその読者。新聞やテレビなどの大きな媒体になればなるほど、世の中全体へとターゲットの規模は変わっていきます。
改めて説明されれば当たり前に理解できることだと思うのですが…
自社で一生懸命作った商品です。つい、自分たちのこだわりや思い入れのある部分を強調したくなってしまうもの。
聞かされる側の興味を置いてけぼりにしないためにも、広報担当は片足を自社・もう片足をメディアという感じで、愛情を持ちつつも客観的な目線でいることが重要だと感じます。
以上が、メディアに取り上げられるプレスリリースの考え方です。
ただ、これを意識したとしても確実にメディアに取り上げられるわけではなく、確度を高めるためにはプレスリリースとは別に「メディアアプローチ」というものが欠かせないのですが、それについてはまたいつか書きます。
プレスリリースは「商品を売る」ツールではない
話を「プレスリリースの目的」に戻します。
「プレスリリースを出したい」という依頼の先には、以下のような思いが隠れていると最初に話しました。
「プレスリリースを出したい」=
①プレスリリースを出して、
②メディアなどで取り上げられて、
③新商品の認知を拡大させ、
④商品をたくさん売って、売上ノルマを達成したい
②、③については話したので、次は④。
「売りたい」という、企業としてある意味一番関心が高そうな部分ですね。
ただ、書いておいてなんですが…実は大前提として、プレスリリースというのは商品を売るためのツールではありません。
もちろん、メディアに取り上げられて認知が広がり、その結果商品が売れるということもあるでしょう。
ですが、それはあくまで顧客とのタッチポイントが1つ増え、そこがうまく回ったというだけで、売上をアップさせるために確実に有効な手段とは言えません。
よく、広報のPRを「プロモーション」と勘違いされることがあるのですが、正しくは
PR ≠ Promotion
PR= Public Relations
です。
広報は、「販促」や「広告・マーケティング」とは領域が異なります。
先ほど、メディアにプレスリリースをニュースとして取り上げてもらうという話をしました。広報経由で取り上げてもらう際、それはあくまで「ニュース」としてであって、「宣伝」としてではありません。
だから、テレビや新聞で取り上げられたけど「うちの社名や商品名は一瞬しか出てこなかった」というのはある意味で当たり前で、宣伝に繋がるような取り上げ方をされることは稀で、かなり不確定要素であります。
だからと言って、広報担当は宣伝に繋げることを諦めていいわけではありません。ただ、依頼者も宣伝になることを前提に考えてはいけないということです。
創業からまもないスタートアップ企業や、事業数の少ないベンチャー企業などでは、「販促」や「広告・マーケティング」など宣伝部の機能を広報部がまるっと担っているという会社も見かけます。
組織の編成は会社の自由ですが、たとえ同じ部署であっても「広報」と「宣伝」はそれぞれ切り分けて実行した方が誤解が生まれにくく、迷いもなくなるかと思います。
プレスリリースの「読みもの化」。広報は編集者であれ
さて、ここまで従来のプレスリリース(「プレス=報道陣・メディア」に向けた「リリース=お知らせ」)の考え方ついて書いてきました。
しかし昨今、プレスリリースの在り方は変化してきています。
今はSNSをはじめ個人が自由に情報を発信・受信できる時代。たとえプレスリリースの内容がメディアに取り上げられなくても、直接個人に届いて伝播するというケースが増えてきたのです。
それはつまり、どういうことかというと、プレスリリースを書く際に「toメディア」だけでなく「to C(個人)」を意識し、プレスリリース単体で読みものとして成立するように「面白く」書く必要が出てきたということです。
たとえば、私が広報をしている会社の1つであるBitStarでは、自社の分析ツールに基づいて定期的に「インフルエンサーパワーランキング」というYouTube上のランキングを発表しています。
つい先日も、「2020年に最も再生されたチャンネルや動画」のランキング総括を発表しました。
見ていただければ分かるのですが、
このプレスリリースの文章はとてつもなく長く、
事実だけでなく考察なども含まれていて、
もはやプレスリリースというより読みものです(笑)。
でも、このプレスリリースの形式で、毎回多くのメディアや個人の方に話題にしていただいているんです。複数のテレビ局から、番組内で取り上げたいと連絡をもらったことも何度もあります。
昔は、プレスリリースは忙しい報道陣やメディア向けに「簡潔に分かりやすく、A4 1枚に収めるのがベスト」と言われてきました。
しかし、これはFAXなど紙でメディアに向けてプレスリリースを配布していた時代だったからこその視点。今のような時代では、必ずしも短ければ良いとは言えなくなりました。
それに、to Cを意識して読みものとしてプレスリリースを書くことで、結果的にメディアに取り上げられる可能性も上がると個人的に感じています。
というのも、法人/個人に関わらず毎日大量の情報が発信され溢れている時代…。メディア側も、1つひとつ取材して、切り口を考えて、記事を作っていくのは大変ですし、正直追いつけません。
なので、最初からある程度切り口が散りばめられていたり、読みものとしてまとまっていた方が、スムーズに記事化することができるのでメディアとしても助かるというわけです。特にこういったプレスリリースは、即時性が求められるwebメディアで好まれる印象があります。
今の話からも言えるように、結局プレスリリースの在り方も、広報の仕事も正解は1つではありません。
私自身も時代の流れを見ながら、今後もいろいろと試していく日々。でも、それこそが広報という仕事の醍醐味であると感じています。
もし、「広報で困っている」という企業の方がいらっしゃいましたら、気軽にTwitterなどでDMをいただけますと幸いです。
漠然とした課題でも結構です。私個人で相談に乗れることもあれば、私が広報をしている(株)キャスターでは企業の広報やブランディングのサポートをするサービスなども展開しています。課題の整理から実行まで、解決の方法はいろいろとご提案できるかと思います。
一緒に広報をハックしていきましょう!
坪井安奈
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