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写真の部屋

人類全員が写真を撮るような時代。「写真を撮ること」「見ること」についての話をします。
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2021年11月の記事一覧

あったモノと、準備したモノ:写真の部屋

どうしたら写真がうまくなるでしょう、とは写真を始めた人から必ず聞かれる質問なんですが、まず「うまくなった結果」が理解できていない人には答えを提示されてもその意図がまったくわからないでしょう。 そもそもうまい写真なんていうものはなくて、自分が撮りたいと思った理想像に撮影の技術が追いついていれば、結果としていい写真が撮れたことになるでしょう。質問されたときは誰でも理解しやすい「準備」の話をすることにしています。 何かを撮るときにはいくつかのスタンスがあって、撮りたいモノをたま

三つの写真:写真の部屋

ソーシャルメディアで写真をアップすると、種類によって反応が違うのがわかると思います。それは「写真の質」とはあまり関係がなくて、写されているモチーフや表現のアプローチの差と言っていいでしょう。 1.ちょっと変わった風景。 これはどんな場合でも興味を引きます。写真を人に見せる行為の原点は、「私が見ていて、あなたが見ていない」ということですから、誰でも見慣れているものより外国の綺麗な風景とか、反対に極端に個人的なものなどのように、変わっているものがいい。つまり、「あなたが見せて

絵になる、の危険さ:写真の部屋

冬の木々は夏とは違うシルエットが綺麗なので、つい撮ってしまう。特に曇り空だといい。遠くに日比谷のビルが小雨で霞んでいたので一枚。ほぼモノクロームに見えるので水墨画のようだ。 カメラのモニタを見ながら、水墨画、という言葉が頭に浮かぶと「これじゃないな」と感じる。 こちらの方がいいと思って、ビルが入らない角度からもう一枚撮ってみる。左の柳だけでシンプルに撮る方法もあるが、右側に違う木を入れることでわざと落ち着きの悪い構図にしている。「絵になる」という表現は曲者なので気をつ

動くモノ:写真の部屋

先日、山の中へロケに行きました。自然派とはほど遠い生活で、俺にそういう撮影を依頼してくる人は皆無なんですが、今回は面白そうなので引き受けることにしました。しかし「森の奥まで3時間歩きます、みたいなのはお断りですよ」と前もって伝えました。写真家の常盤響さんから聞いて共感をもった、「風呂場より遠いところはタクシー」という生粋の横着スタイルを俺も実践しているからです。 というわけで、設定されていた目的のロケ地は駐車場から徒歩1分半の場所でした。ありがたい。最高のプロデューサーです

総入れ替えか:写真の部屋

デジタル一眼レフカメラを本格的に使い始めたのは2002年くらいか。NikonのD100というカメラを買ったのが最初だった。610万画素というのは今では安いコンパクトデジタル以下のスペックだけど、カメラの作りとしては本格的な「Nikonの一眼レフ」だったので、画素数だけでは計れない。 それ以前はF4、F5などのフィルムカメラを使っていて、デジタルになってからもNikonを買い続け、D5まで付き合った。D5はかなり完成されたデジタルカメラだと思ったんだけど、もう少し高画素機が欲

知らない情報量:写真の部屋(無料記事)

これは「世界中のベンツを写した写真展」をしたときの一枚です。 イタリアのホテルの中庭に停まっていたメルセデスが綺麗だったので撮ろうとしましたが、それではただのディスプレイカットになってしまいます。ホテルの中に入って、窓越しに撮ることにしました。これでクルマのスタイリングの情報量は減りましたが、どこに停められているのかという別の情報が増えました。 ホテルの雰囲気と停まっている車の情報を自分の好きな比率でミキシングする。クルマのオーナーが来るのを待ってもいいでしょう。このミキ

13時から16時のボツ写真:写真の部屋

毎日どんなときでも写真を撮っていますが、その中から皆さんにお目にかけるのは一日に数枚です。それ以外のモノは日の目を見ません。 撮る作業は筋肉を鍛える腹筋運動やジョギングと同じですから、スタジオでの撮影本番とは違います。ろくでもない写真ばかりがハードディスクに残っていきますが、今日はある一日の13時から16時までに撮った「ボツ写真」を恥を忍んでアップします。 13時、有楽町に行く用事があったのでカメラを持って仕事場を出ます。カメラは7R4で、レンズはSIGMAの85mm。た

見たいのは、その人:写真の部屋

ジジイになってうれしいのは「時効になった悪行」をバリバリ書けるところなんですが、会社員だった頃にアルバイトでアイドルの写真集をデザインしていたことがあります。 太陽がまぶしいハワイやバリ島などで撮られた水着のアイドルの写真を、会社の仕事が終わった夜中に黙々とレイアウトしていく。写真集のクレジットに自分の名前を載せるわけにはいかないので「ブルガリア・デザイン」という架空の社名を使っていました。なぜその名前にしたのかと言えば、ブルガリアにはヨーグルトの印象があり、健康によさそう

ロケハンの大切さ:写真の部屋

次の撮影はロケハン(撮影場所の下見)なしで行くので、かなり多めに機材を想定して持っていかなくてはいけない。仕事で撮影をするときは撮影の前にロケハンをしてから、ロケ前日に前乗りしてもう一度精密なロケハンをする。万全を期すためなんだけど、いざ本番でモデルが来たとき俺がその風景を見るのはもう3回目になってしまうから、新鮮さがなくなるなあと思うこともある。 数週間前に行くロケハンでは、現地の光の様子を調べたり、持って行く機材の選定をする。「これくらいの画角で撮るなら20ミリのレンズ

ママの運動会カメラ:写真の部屋

毎回言うけどカメラは自分の仕事にとって使いやすければ「どうでもいい」と思っている。今している仕事をすべてカメラメーカーのエントリー機種に入れ替えたとしても、見ている人は何も気づかないはずだ。それほどデジタルカメラは成熟してきているし、どれを使っても大差ない。大差はないけど微差はあるから、本当にその微妙な違いが必要な時のためだけにいつも新しい道具を買っている。プールで撮るなら防水のカメラが必要だろう、とか。 カメラが持つ「製品としての興味」というのは不思議なものだ。 「あな