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Anizine

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。
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2023年11月の記事一覧

コミュニケーション収支:Anizine

質問されるのが苦手です。初対面の人と話すとき、矢継ぎ早に質問をされると疲れてしまいます。お互いを知り合うために相手のことを聞くのは大事だと思いますが、バランスが極端に「知りたい側」に偏ってしまうとインタビューのようになってしまいます。その不均衡は、持っている情報力の差にあります。 たとえばオリンピックの金メダリストに会ったとき、優勝したあの瞬間はどんな気持ちでしたか、とか、毎日何時間練習するんですか、など、知りたいことは多いでしょう。でもそこはグッと我慢しなければなりません

人間のマニュアル:Anizine(無料記事)

パリから戻り、羽田空港からそのまま打ち合わせの場所へ。本のゲラを確認して、翌日は不在の間に進行していた仕事の撮影をしました。普通ならそんなきわどい進め方はしないのですが、パリに行くことが決まってから来た仕事なのと、普通ではないことが起きるのが仕事なので、特に何とも思いません。出演者のスケジュールを数人合わせるというのは至難の業ですから向こうも大変です。結局二日に分けて撮影することになり、今日、無事に終わりました。ホッと一息です。 こういう日常を何十年も過ごしていると、効率と

6桁万円の袋とじ:Azinine

昔、袋とじの推理小説がありました。結末で犯人がわかる謎解き部分はページを切らないと読めない作りになっていて、「もし結末を知りたくなければ返品して返金されるが、あなたはどうする」という自信満々なシステムでした。このような試みは今のnoteなどの仕組みに似ています。途中まで誰でも読むことができるコンテンツの結末が知りたければ、読者はコンテンツメーカーに対して誠意を見せないといけません。誠意とは何かね。お金ですかね。 『お金』というのは万人に対して等価値を持った数字の記号ですが、

鏡を見てね:Anizine

フリーランサーとしての仕事は「振る舞い」にかかっていると言えます。大げさに言うとセルフ・ブランディングなのですが、仕事の技術や能力とは別に、その人と仕事をすると楽しいだろうか、という部分も半分あります。半分ですよ。ただ愛想がいいとか、打ち上げの飲み会を盛り上げるとかだけでは仕事が破綻しますから。 依頼される仕事は他人から見たそのひとの振る舞いで決まっている、という事実をあまり理解していない人がいます。特に今はソーシャルメディアで自分のことを発信していますから、そこで「この人

アジア人は若い:Anizine(無料記事)

仕事場近くのある場所で外国人と二人きりになった。目が合うと「ボンジュール」と言われた気がしたので、しばらくの間、互いにカタコトの英語で話をした。数日後に俺もフランスに行くんだよ、と言うと「なぜ僕がフランス人だとわかったんだ」と聞くので、最初にボンジュールって言ったからだよと答える。無意識に出たようだ。 彼はブルターニュのレストランで働いていて、和食とキリンビールが好きで、日本には今までに7、8回来たことがあると言う。スマホの計算機を使って飛行機のチケットの値段の話をしたり、

マレ地区の2文字:Anizine

「あのさ、子どもの頃から気になってることがあるんだよ」  「何?」 「日本人は2文字が苦手って話」  「どういうこと?」 「意外と気がつきにくいと思うんだけどさ」  「うん」 「長嶋って巨人で人気があったよね」  「あ!わかった」 「そうなんだよ。長嶋はナガシマと言っていたんだけど、王は『王選手』と呼んでたじゃん。監督になったら王監督になって」  「確かにそうだな。言いにくいのかも」 「なんか、2文字の言葉が持つ落ち着きのなさ、みたいなものがあるんじゃないかと思うんだ」  

くだらない韻:Anizine

「昨日は午前中から夜まで、デスクを離れないで本の原稿を書いていたよ。まだ目がチカチカする」  「おお、おつかれ」 「流れがあるからさ、途中でやめられないんだよ。一気に読んだときに違和感がないかを検証するために毎回最初から最後まで読むことになる」  「そうかそうか、おつかれ」 「おつかれが軽いよね」  「他人の疲れで飲む栄養ドリンクなし、っていう諺があるよね」 「ないよ、そんな諺」  「なかったか、おつかれ」 「不思議なことに、何度書き直してもいつも直すところが見つかるんだよね

王と飛車の無駄:Anizine(無料記事)

あらゆる面において「無駄」であることの意味を考えています。一見意味がなかったり、効率が悪いと思われることの中に大事な何かが隠されていないかと思うのです。コスパやタイパなどという英語の音節分割からして薄気味悪い略語を、さも賢いかのように使うのは語彙が貧しいと感じます。 人が生まれて死んでいくことは究極の無駄で、もし私が生まれていなかったとしても世界は今と何も変化していないでしょう。これが私が生まれたことの無駄です。私が生きていることでたくさんのものを食べ、たくさんのゴミを出し

医療費:Anizine

先日、平林監督が飛行機のビジネスクラスにかかるお金のことを「医療費」と表現していたのが素晴らしいと思いました。仕事であれば現地に着いたときのパフォーマンスに関わってくるからです。美味しい料理やいいシャンパンが出てくるとかはどうでもよくて、フルフラットなシートで寝ている間にストレスなく到着できる、というのがすべてです。14時間近い欧州便、アメリカ東海岸などでは疲れ方が1/5くらいに感じますから、まさにそれは健康を維持するための医療費と呼べましょう。 ここからは生々しいお金の話

ニヤニヤして:Anizine

ドモホルンリンクルじみた言い方をすれば、noteを有料の定期購読マガジンにしているのには、理由があります。 それは攻撃的な人に対して「重要な手がかりを与えないため」です。どんなことでも何かについて意見を表明すると「そうではない」「勉強不足だ」「ハゲのくせに」などと、純粋な批判マニア軍団や、知識披露したがり軍団が群がってくるのです。私はその、たまたま見かけた投稿に意見したい見知らぬ猿の軍団のために書いているのではありません。ですから話の核心は有料部分に書くようにしています。

台北でビクビクする:Anizine

去年の年末以来、久しぶりの台北へほんの数日だけ日頃のストレスを解消しに行ってきました。羽田空港に着いたとき「日頃のストレス」など何もないことに気づいたのですが、まったく気づかないふりをしました。やはり何も心配せずに外国に行けるようになったことで、平和であることの有り難さを感じます。 「よく行ってますけど、台北は何が面白いんですか」と聞かれることがあるんですが、説明はとても難しいです。私の場合、千葉県我孫子市に住んでいる友人に会いに行くような感覚、としか言えません。向こうでは