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6桁万円の袋とじ:Azinine

昔、袋とじの推理小説がありました。結末で犯人がわかる謎解き部分はページを切らないと読めない作りになっていて、「もし結末を知りたくなければ返品して返金されるが、あなたはどうする」という自信満々なシステムでした。このような試みは今のnoteなどの仕組みに似ています。途中まで誰でも読むことができるコンテンツの結末が知りたければ、読者はコンテンツメーカーに対して誠意を見せないといけません。誠意とは何かね。お金ですかね。

『お金』というのは万人に対して等価値を持った数字の記号ですが、その人がストックしている量で意味が違ってきます。この定期購読マガジンは月に500円ですが、そのワンコインがマンホールに転がって落ちてしまっても「仕方ないか」と思う人もいれば、それがあればパンと牛乳が買えたのに、明日も生きられたのに、という切実さがある人がいます。

つまり、知性の獲得にはお金が必要になっているのです。もろちん私が書いていることがあなたの知性の役に立つなどとは思っていません。むしろ反知性をエンジョイするためにマンホールにワンコインを落としたつもりになってくれる豊かな人の存在を確認することに喜びがあるのです。

もう20年以上前の話になりますが、私と平林監督は日々、ホームページ上でネットの実験に明け暮れていました。その中のひとつの企画でこんなものがありました。私がハワイに行ったときに買った土産物を渋谷の喫茶店に忘れてくるので、「私が落としました」と受け取りに行って欲しい、と告知しました。誰かに何かをプレゼントする渡し方のシステムを面白がりたかったのです。喫茶店のヒントをいくつか載せると、見事に受け取りに成功した人がいて、ソーシャルメディアの実験は楽しいなあと感じたのも束の間。

ある知らない人がそれについてコメントしました。そのときに感じた脱力感は今でも忘れることができません。さてここから先は袋とじです。

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Anizine

¥500 / 月

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。