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Anizine

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。
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2022年11月の記事一覧

なぜ、つながりたいのか。:Anizine

ハッシュタグに、「サッカー好きな人とつながりたい」「アウトドア好きな人とつながりたい」「角刈り好きな人とつながりたい」などという表現をよく見かける。人々はなぜそんなに、つながりたいのか。 つながりの確認、というのは知的レベルで言えば最下位にあると思っている。集団への帰属意識は世界を広げているように見えて、実は排他的なゲートを作り出す結果になるほうが多い。集団を形成する願望は数的優位を維持したいという意識下の戦略に他ならない。あるグループの存在意義が共通の趣味だったとき、その

ゴリタメ:Anizine

今日の夕方に乗ったタクシー。乗った瞬間にドライバーが口にした言葉が驚くべきことに、「あー、今日は儲からねえな」だった。「え?」と聞くと「今日は儲からないよ」と、聞こえなかったのだと思ったようでそう繰り返した。俺が「どうしてですか」と(もちろん丁寧に)聞くと「だって、今日は日本戦あるからさ」とゴリゴリのタメグチ。 「ああ。今日はコスタリカ戦ですね」と言うと、「何時からだったかなあ」と言う。「7時からだと思います」「じゃあ、早く終わらせて帰ってサッカー見るかな」終始タメグチで、

サウス・ブロンクスと欧州の棒:Anizine

若い頃、確か友人の正明さんとNYに行ったときだと思う。タクシードライバーが道を間違えて、当時はかなり危険だったサウス・ブロンクスの裏道に入り込んでしまったことがある。ドライバーは「赤信号でも止まらないから座席で身をかがめておけ」みたいなことを言う。昼間だったし、外国の経験がそれほどなかった俺たちは、そこがどれほど危険なのかがあまりピンとこない。ほとんどクルマが走っていないストリートを進んでいくと、数人のホームをレスった雰囲気の人々が道路に出てきた。 ドライバーは赤信号を突っ

なんですけどみたいな:Anizine

親愛なる定期購読メンバーの中にこういう人がいたら申し訳ないんだけど、たぶんいないと思っている。昨日の夜、食事をしていたら隣の席に8人くらいの団体がいた。30代くらいの男女半々のグループ。この始まり方で古くからの定期購読メンバーはどんな話になるのかは想像できると思う。こういう話だけで小冊子ができそうなくらい、お察しの通りだ。

停滞を切り拓く:Anizine

尊敬する仕事ぶりの人がいる。世の中の評価とは別だ。世の中で評価されるには、多くの場合「世の中で評価される」という目盛りのところに意識のダイヤルを合わせないといけないので、その行為がちょっとマイナスに見えることもある。基準は自分の中だけにあって、痩せ我慢ではなく世間の評価とは関係がない。そもそも俺は太っているので「痩せるのを我慢している」という意味なら正しい。 尊敬する友人を観察していると共通することがいくつかある。みんな埼京線だ。つねに既成概念を超えた新しいことをして停滞を

警察と:Anizine

この話は定期購読マガジンのメンバーだけに。

私は彼に贈り物をあげた:Anizine

「日本語には助詞があり、英語にはありません」これが意味するところがどうしても腑に落ちなかったので、この歳になっても英語ができなかった。

ひもで結んだナイフ:Anizine

ソーシャルメディアに不平や不満、悪口や愚痴を書くのは己の幼稚さを晒すだけだと思っているのでしないようにしているんだけど、自分の知り合いにもそういうことを書く人がほとんどいないので耐性がない。早朝からこう書いていることさえ気が引ける。ネガティブなことなど読まされたくないだろうから。 「自分の正しさや繊細さに注目して欲しい」という理由だけで他人を傷つけるのが平気な人がいる。その手の矛盾に満ちた人は第一印象でだいたいわかるからあまり近づかないようにしている。その弱さから生まれる気

全部を賭けていた:Anizine

昨夜は下北沢のB&Bで行われた、稲田万里『全部を賭けない恋がはじまれば』の出版記念トークイベントに参加してきた。 会場に着くと、人が到達できる最高レベルの緊張で吐きそうな稲田さんが控え室にいた。いつもはフラットな田中泰延さんもどことなく緊張気味だ。ひとりの作家が生まれる夜だから仕方ない。 稲田さんを知ったのはnoteに書かれていた文章だった。誰かがシェアしていたのを偶然読んで、「この人はすごい才能だな」と思っていたら、できたばかりの出版社、ひろのぶと株式会社から初の著書が

スコアレスドローの人生はつまらない:Anizine

野球は雨天コールドゲームもあるんだけど、ほとんどの場合は9回で決着がつくようになっている。これを東十条のスナックで飲んでいるジジイのように人生に当てはめてみる。北区あたりではどんなことでも野球に喩えておけばなんとかなるのだと聞いた。 「プレイボール」と産婦人科の先生が高らかに宣言して選手が生まれ、0歳から9歳までの1回が始まる。人の寿命を都合よく90年にしておくと計算がしやすい。20代の人は3回、今俺は6回あたりを闘っている。闘っていると言えば格好はいいがバッターボックスで

不思議な人々:Anizine

さっき、連続殺人鬼をテーマにした映画を観た。なかなか面白い筋立てで地味だけど悪くなかった。いつも見終わってからレビューを読む。自分が見逃していた細かい部分を書いてくれる人がいるからだ。「ああ、あそこはそういう意味があったのか」と気づかせてくれる。それは映画の表面的な部分ではなく、ふとした行動が、「実は民族的にこういう対立があったからだ」といったような深い洞察にも出会えるので感謝している。 映画は観た人の知識によるから、たとえばフランス革命を知らない人と詳しい人がマリー・アン

スライムを握る:Anizine

自分が35歳くらいになるまでに考えていたことはまったく世間知らずでアホの濃縮果汁還元100%だったと気づく。それは経験則原理主義で老害だと言われてもいいんだけど、事実だし自分の問題だから仕方がない。 今でも初めて仕事でニューヨークに行ったときのことを思い出す。そこで何もできなかったことや、他のスタッフは慣れているのに自分ひとりが何も知らなかったことに恥ずかしさしかなかった。もちろんその瞬間にも恥ずかしさはあったんだけど、今思い出すと二日目どころか30年目のカレーのように味わ

一事が万事:Anizine

カウンターの客席で食事をしていた。席がアクリル板で仕切られているのだが、固定された椅子とそのスペースのセンターが合っていない。雑だなあ。隣に座った20代の男性が動くたびに俺の肘に当たる。彼は貧乏揺すりをし、長い髪をずっといじり、音を立ててガムを噛みながらスマホでゲームをしている。人を狭いところに押し込むと、こういった小さなストレスが場を殺伐とさせるのだ。 ある若い人が集まる場所で、何人かがちゃんとしたフレンチの店で食べてみたいと盛り上がっていた。するとひとりの男が「ああいう