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スコアレスドローの人生はつまらない:Anizine

野球は雨天コールドゲームもあるんだけど、ほとんどの場合は9回で決着がつくようになっている。これを東十条のスナックで飲んでいるジジイのように人生に当てはめてみる。北区あたりではどんなことでも野球に喩えておけばなんとかなるのだと聞いた。

「プレイボール」と産婦人科の先生が高らかに宣言して選手が生まれ、0歳から9歳までの1回が始まる。人の寿命を都合よく90年にしておくと計算がしやすい。20代の人は3回、今俺は6回あたりを闘っている。闘っていると言えば格好はいいがバッターボックスでは、「いま、肘に当たりました!」と広島の達川ばりに審判にアピールして無視されるような日々だ。

最後にベッドの上で「ゲームセット」と言われてマイナーリーグの一生を終えるんだけど、この90年の中には浮き沈みがある。「4回の裏、6対1で勝っている」とか。ここで勘の鈍い皆さんなら「試合には経過と結果」というふたつのファクターがあることにお気づきだろう。

写真、間違えた

東海大山形のようにゴリゴリに負けていても、試合が終わったときに勝ってさえいればいい。それが結果になる。まあ東海大山形はPLに7対29で負けたけれども。ただ最後に負けてもギャンブルのように途中で大きなリードを取っていればミスチル的に派手なシーソーゲームを演じたわけだから、それには意味があるのかもしれない。いまだに「5回裏、バブルのときはホームランを打ったもんだよ」と言いたがる、現在は赤羽に住む六本木ジジイがいるよねと、勘の鈍いあなたは気づくはずだ。

となると寂しいのは『スコアレス・ドロー』ということになる。最終回まで0対0。日没引き分け。投手戦と言えば聞こえはいいが、途中に何の見せ場もなく県営球場の観客も少ない。そうならないようにとにかく思い切りバットを振ろう、点を取っていこう。点は取り返せばいいんだからいくら取られてもいいんだ。敬遠はやめよう。申告敬遠なんてもってのほか。

しかし俺には人生の残りの3回を締めくくる中継ぎと抑えのピッチャーがいない。このままヘボヘボストレートとションベンカーブを投げ続けるのだろうが、それしかない。自分の命を生きるとは先発完投のことで、誰かにリリーフなどしてはもらえないからボロボロになってもマウンドに立ち、投げるのだ。

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Anizine

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。