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サウス・ブロンクスと欧州の棒:Anizine

若い頃、確か友人の正明さんとNYに行ったときだと思う。タクシードライバーが道を間違えて、当時はかなり危険だったサウス・ブロンクスの裏道に入り込んでしまったことがある。ドライバーは「赤信号でも止まらないから座席で身をかがめておけ」みたいなことを言う。昼間だったし、外国の経験がそれほどなかった俺たちは、そこがどれほど危険なのかがあまりピンとこない。ほとんどクルマが走っていないストリートを進んでいくと、数人のホームをレスった雰囲気の人々が道路に出てきた。

ドライバーは赤信号を突っ切ろうとしていたが、路上に人が出てきたのでやむなくクルマを停めた。近づいてくるひとりのオヤジ。右手が背中の後ろに隠されていて見えないのが怖い。ドライバーが少しだけ窓を開けた。

オヤジはおそらく「カネくれ」的なことを言ったのだろう。そこでドライバーがお金を渡したのか無視したのかは憶えていないが、その場を走り去るとき、オヤジが後ろ手に持っていた60センチくらいの細い鉄パイプを見た。その鉄パイプは持つところにビニールテープが巻かれていて、何十回も「何かをぶちのめしたムード満載の傷」がついていた。あれで頭をかち割られていた未来もあったのだろうか。

そんな古い記憶があるが、また別の場所ですごい棒を見たことがある。ヨーロッパのどこだったか、牧場のようなところで、木の棒が壁に掛かっているのを見た。先の方が三分の一くらい黒くなっている。それを写真に撮っていると、若者に声をかけられた。「何を撮っているんだ」という言葉に少し非難めいたニュアンスが感じられたので、「この棒がカッコいいから撮っていた」とホメを多めに答えるが、目がまったく笑っていない。

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Anizine

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。