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Anizine

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。
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2022年3月の記事一覧

DJ TAXI:Anizine

東横線沿線の静かな住宅街から個人タクシーに乗った。しばらく仕事のメールをスマートフォンでチェックしてから窓の外を見る。時折、満開の桜が目に入ってくる。車内に懐かしい曲が流れているのにそのとき初めて気づいた。目には「まぶた」という自発的な遮断装置があるが鼻と耳には蓋がない。だから、においと騒音は暴力になる。 鼻と耳は性質が違う。悪臭はどうやっても瞬間的には遮断できないが、受容器の物理的な機能とは別に、耳には音を「意識しない」という脳の働きが補う。渋谷の仕事場もすぐそばに線路が

SNSをやめる人々:Anizine

ここ数日、同じような話ばかり聞く。昨日、今日の昼と複数の友人と話して、ついさっきも別の友人と話した。共通するテーマは「俺たちはこれからどう生きるか」だ。仕事が途切れず、内容や予算もダイナミックだった時代が終わり、今はそこまで忙しくはないし予算は緊縮の一途を辿っている。スタートから緊縮財政を強いられた今の若者と違って、我々の世代は無駄と思えるほど潤沢な予算で仕事をしてきた経験があるからこそ、その変化が気になるのかもしれない。 ある友人は先月からソーシャルメディアを一切やめてし

水が流れる場所:Anizine

住んでいる場所の近くには水が流れていて欲しい、と思う。流れる水を眺めていると時間を忘れる。水には塩分が含まれていてもいなくてもいい。海でも川でもいいのだ。 生まれたのは横浜で、それが自分の幼少期に大きな影響を与えたと思っている。日本に初めて入ってきた多くのモノはこの港を経由しているという物語を聞くのが好きだった。よくスケッチに行った山下公園の向かいにはホテルニューグランドがあり、プリンアラモードやドリア、ナポリタンなどのメニューはこのホテルで生まれたと聞いた。自分が住んでい

楽しい話:Anizine(無料記事)

気軽に外国に行けない昨今。もうそのフレーズに飽き飽きしている人も多いはず。というわけで、あまりネガティブにならず、状況がよくなったらどこに行こうというポジティブな話をしたい。 今まで、一度も外国に行ったことがない人に向けて書き始めようと思う。ちょっと寒い夏の日にいきなりプールに飛び込んではいけないことくらい皆知っているだろう。まず胸に水をかけて準備をしてから。慣れていない人はいきなりアゼルバイジャンとかに行かない方がいい。無謀すぎる。日本から外国に行くとき、この「胸に水かけ

SNSのNG集:Anizine(無料記事)

Facebookでは「友達」でない人がコメントを書けないように設定している。Twitterのように友人との話に突然知らない人が割り込んでおかしなことにならないようにするため。俺のところは友達を増やしすぎないようにしているからいいんだけど、毎回他の人のところで気づくのは皆あまり「コメントの物語進行を気にしていないんだな」ということ。 たとえば、誰かがロンドンに行っている投稿があったとする。位置表示はLondonになっていて「久しぶりに来たら街が変わったな」などと書かれている。

嘘つき村で死んだ男:Anizine

ある国に「正直村」と「嘘つき村」というのがあった。私は正直村に住む友人女性の結婚式に出るために来た。彼女が昔話していた、憧れのジューン・ブライドなのだ。しばらく進むと道が二叉に分かれていた。どちらに行けば正直村なのかがわからない。道には村の入口の門番のような男がひとりずつ立っていたから、ふたつの村の関所のような場所なのかもしれない。私は正直村に行く道を聞きたいが立て札があって、「ひとつだけ質問ができる」と書かれていた。 どちらが正直村の門番なのか。もし正直村の男に、「この先