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Anizine

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。
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2021年10月の記事一覧

友人からのLINE:Anizine(無料記事)

友人からLINEが来た。「あにさん」と一言だけ。 それを見て嫌な予感がした。彼はどうでもいいメッセージを頻繁に送ってくる人ではないのを知っているので、画面を見つめて次の言葉を緊張しながら待つ。やはりよくない知らせだった。 しかしそれに続いて、「悪いことがあったが後悔しないで済んだ」と書かれている。俺が以前、彼からあることを相談されたときにしたアドバイスについて感謝している、という。俺はその時には真剣に考えて助言をしたつもりだが、すっかりそのことを忘れていた。 自分が考え

闘牛士の失敗:Anizine

世界には70億以上の人がいて、それぞれに違う物語を持って生きている。誰一人同じ人はいないし、双子でさえ考えていることは違う。だから価値は「それぞれの違い」にある。知らない人の想像もつかない物語に触れることで、関わるはずのなかった世界を教えてもらえる。自分の物語を「取るに足りないモノ」と決めるのは自分自身ではない。他人にとって価値があるかどうかが重要だ。 ソーシャルメディアでは同時に「バルス」と言うんじゃなく、みんなが違う場所で、違う感情で見つけたことを書いて欲しい。その人が

くるぶしから下の部分:Anizine

世界を過小評価する。 あるときそんな言葉が頭に浮かびました。世界は様々な事実の集合であり、思考の集積です。そのほんの一部分しか知らない我々がまるで宇宙の真理を知ったように何か言うことに意味はあるのかと思ったとき、「世界を過小評価すべきではない」と感じました。 そういう姿勢でいれば人前で「わかりません」ということは何も恥ずかしくない。むしろすべてを知っているように振る舞うことの方が浅はかです。ネット社会になって膨大なデータベースを手に入れたように感じている人々は、わからない

『笑っていいとも』と、田舎っぽさ:Anizine

田舎っぽさとは何か。面倒な反応が多い話題なので、今回の記事は定期購読メンバーにだけお届けします。

美しい共感:Anizine(無料記事)

俺が病気や障害、貧困などについてのコンテンツを作らない理由は、とてもシンプルで、それについての専門的な知見を持っていませんし、自分が病気であるような当事者性もないからです。 特に病気に関するデマや非科学的な発言などは、その情報を二次的にシェアするだけで危険で罪深いものですから、医師でもない人が何かを発言することには慎重にならないといけません。知識を持たないから問題に目をつぶって関わらないようにすると言っているわけではなく、俺は自分の専門の仕事をして得た自分のお金だけを使って

夜中に歌う男:Anizine

黒い靴を履いた男がいて、 赤い服を着た女がいて、 白い杖をついた老婆がいて、 黄色い帽子の子供がいて 夜中、仕事場を出てコンビニに向かうとマンションの駐車場の真ん中に中年の男が立っていた。小雨が降っていたが傘もささずに濡れている。何か歌っているような声が聞こえたのだが、近づいていくにつれて、この単調な歌詞の繰り返しが聞こえた。帽子を被ってマスクをしているので顔はほとんどわからない。 薄気味悪い男だと思いながら横を通り過ぎる。ビールを買って仕事場に戻ると、もう男の姿は

浪費されるランチタイムの10分:Anizine

「生きている」という言葉が何をあらわしているかは人によって違う。闘病中の人、健康な人、何かを始めた人、誰もが物理的に同じ進み方の時間を過ごしていながら、1秒が持っている価値にはそれぞれ違いがある。 若い頃に言っていて今は絶対に使わない言葉が「時間をつぶす」だ。暇をもてあましていた証拠だが、よく「ヒマだなあ」と思っていた気がする。アスリートのように時間を惜しんで練習したり試合に出たりしていた同世代の人々には目的を持ったまったく別の時間の流れが合ったんだろうと思う。それを充実と