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夜中に歌う男:Anizine

黒い靴を履いた男がいて、

赤い服を着た女がいて、

白い杖をついた老婆がいて、

黄色い帽子の子供がいて

夜中、仕事場を出てコンビニに向かうとマンションの駐車場の真ん中に中年の男が立っていた。小雨が降っていたが傘もささずに濡れている。何か歌っているような声が聞こえたのだが、近づいていくにつれて、この単調な歌詞の繰り返しが聞こえた。帽子を被ってマスクをしているので顔はほとんどわからない。

薄気味悪い男だと思いながら横を通り過ぎる。ビールを買って仕事場に戻ると、もう男の姿はなかった。それが数日前の出来事。

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昨日の夜中、また深夜の作業をしているときコンビニに出かけようと部屋の鍵をつかんだ。あの男がいたら嫌だなあとふと思った。この前と同じような小雨が降っている。

マンションの外に出ると駐車場には誰もいなかった。ほっとしたが、まだ帰ってくるときにいるかもしれないという不安がある。しかし帰りにも男はいなかった。たまたまあの日だけ通りかかった人なんだろうと自分に言い聞かせる。仕事場に戻ってメールをチェックしていると、急ぎの連絡が来ていた。深夜2時にこんなメールを送ってくるとは。みんな仕事をしすぎだ。

メールにはテキストファイルとふたつの音声ファイルが添付されていた。先月雑誌にインタビューされたときの原稿と当日録音された音声データだろう。テキストを読んでみると、まとまっていたので「これでオッケー」と編集者に返信を書こうとした。音声ファイルは1時間くらいあるし、自分の声を聞くのが嫌いなので無視することにする。でも「インタビュー音声」はわかるとして「564.mp3」という、もうひとつのファイルはなんだろう。

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Anizine

¥500 / 月

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。