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失恋墓地 #毎週ショートショートnote

壊れたオルゴール、びりびりに破られた手紙、色褪せたドライフラワー。
今日もたくさんの物がここに捨てられていく。散々悪態を吐いて投げ捨てる者。静かに涙を流して土に埋める者。それぞれに少しだけすっきりした顔になって帰っていく。

捨てられた物はやがて自身に宿った思い出を語り始める。
話し終えた順にきらきら光る塵となり、風に吹かれて消えてゆく。

「捨てられるってことは忘れられるってことだからね。
 失恋でついた心の傷もいずれ小さくなるってことさ。
 それに思い出話は亡くなった恋のおとむらいでもあるんだ。
 きっちり成仏できりゃ早々に次の恋にも巡り合えるしね。」

セピア色の写真がそう言って笑う。
軍服の若者と着物姿の娘が並ぶその写真は、許嫁いいなずけを戦で失った娘がこの地に埋めたという。だが自分が思い出を語り終える前に娘は流行はやり病で死んでしまった。
以来、塵にも光にもなれなくなった彼は、恋の亡骸でもある捨てられた物の思い出話を聞いて見送る墓守となった。

(410字)

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たらはかにさんの毎週ショートショート企画に参加しています。
今週のお題は「失恋墓地」。


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