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ヴァーティゴ

六花は眼前にあるほど大きなまま
睫毛に乗っても心残りのように
そのままで堕ちてゆく
意図して瞬きを繰り返して
視界を創り出した時
泣いているみたいに流れ落ちた

『今は休むべきだ』
木々は枯れたふりをして
畑は重くのしかかられるまま
ずっしりと白を蓄える

根絶やしにされたであろう
村はまだ燃えている
意図せず瞬きを忘れてしまう
眼前は考えるよりも早く報せる
『魔女狩りだ』と

何者にもなれずに旅に出る者がいる
何者かを恐れて村を焼く者たちがいる
何者でもないものだけが残るから
土は痩せ、魚は川に棲むことをやめてしまう

恐れ慄きに
無理矢理作り出した
正しさを被わせて
自己憐憫を品性と嘯き
金品を奪い、女を嬲る
『強さとは何か』
目に見えぬものを魔法と言うならば
愚かさは何者にもなることはない

燃え殻の下から無数の手足が見える
失ってしまった分だけ
白を蓄える
羽根が焼け爛れた小鳥が一羽
今まさに失われようとしている

『正しさとは何だ』
歯痒さで下唇を噛んだ
求めて旅に出たはずが
煤けたものは濃くなるばかりだった

堕ちゆく無数の六花の間隙縫って
黒い糸のような煙が
空に繋がってゆく
それこそが六花の起源である
かのように入れ替わってゆく
決して浄化されることのない
血を宿している
時折、こうして流しながら

ノマドシリーズ


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