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【事例でみる空間設計③】清澄白河TEO / ワインバーと物販店舗の二毛作の空間づくり

こんにちは。
株式会社and Supplyのプロデューサーの倉嶋です。

今までの事例のご紹介では、担当デザイナーの土堤内と山川がそれぞれ説明する形でお届けしていましたが、今回は本プロジェクトをプロデューサーとして担当した自分からの視点も含めて、ご紹介・ご説明します!

and Supplyとは
東京を拠点に活動するクリエイティブスタジオ。
インテリアデザイン、グラフィックデザイン、壁画製作など空間に纏わるあらゆるビジュアルを幅広く手掛けています。


プロジェクトの内容やコンセプト、テーマについては私から、後半のデザインに掛けた想いや意図はデザイナー土堤内から説明します。

左端が今回の内装デザインを担当した土堤内(どてうち)。その隣が倉嶋、その隣が代表・井澤。
と、メルボルン在住の友人のアーティスト、スティーブと。<2023年1月>


今回は、今年2023年春に清澄白河にオープンしたワインバー&物販店舗のTEOをご紹介します。



■プロジェクトの始まり

本プロジェクトのクライアントは、日本の音楽を再定義するエクスペリメンタル・ソウルバンド「WONK」を自ら率いつつ、インディペンデントレーベルを主宰するEPISTROPH

彼らは自らバンド、アーティストとして活動しながらレーベルも主宰し、他のアーティストのプロデュースやサポートも行っています。

また、音楽だけには留まらず、各メンバーのバックボーンや強みを活かして、飲食のプロデュースやアパレル、グッズといったオリジナルプロダクトの開発も行うなど、マルチな活動を行っています。

WONK

EPISTROPHがプロデュースする、DDD HOTEL内のバー・ラウンジ「phase」


弊社とEPISTROPHの出会いのキッカケは、私が所属するランニングクルー「ikism」の 加藤さんが、WONKのドラマーである荒田くんを弊社が経営するレストラン「Hone」に連れてきてくれたところから。


個人的にもWONKの楽曲は以前から聴いていたこともあり、紹介された際にとても驚いたのを覚えています。

(今回の依頼を受けてから観に行ったBlue Noteのライブでは大感動し、ライブ後の楽屋で「かっこよかったっす!!最高でした!」とハイテンションで伝えてしまいました。笑)

そこから何度か荒田くんが友人を連れてHoneに飲みにきてくれるようになり、次第にお喋りをする関係に。

そして、ある日荒田くんから急にLINEが。

何かやらかしちゃったかな・・・と焦りました。笑

Honeで食事をしていた荒田くんの元に合流すると、そこにはWONKメンバーが全員集合。
実はその日はメンバー4人が集まっての食事会でした。

各メンバーを紹介して頂き、一緒に飲みながらお喋り。

すると、荒田くんから
実は飲食店を自分たちでオープンするんですが、内装デザインをお願いできませんか。
との話が。

※and Supplyではこのように、知人・友人の紹介だったり、実際にお店(LOBBY,nephew、Hone)に来て頂いたお客さん(常連さん)からの相談のケースが多いです。
自分たちも店舗で時おり働いていますので、気軽に声を掛けてください!

そこから物件の場所や広さ、お店の事業内容や彼らの想いをヒアリング。
物件内見の日程を決め、その日は解散となりました。

(たまたまその夜の写真がありました)

■デザインの検討:ヒアリングとゾーニング


物件の場所は清澄白河。

ブルーボトルコーヒーの日本1号店ができるなど、近年はコーヒーの街として有名となり、その後、様々なレストランやビストロが誕生し、東東京の新しいスポットとして人気となっています。

隅田川が流れ、自然あふれる広大な木場公園があるなど、ファミリーも多く住む、ベッドタウンとしても有名。

個人的に清澄白河には好きなレストランがあり、よく行く場所なので、彼らが清澄白河に出店すると聞いて嬉しかったのを覚えています。

2フロアのメゾネット物件である本物件。
新築ビルの1Fと2F部分のテナントが今回のお店となります。

内見時の写真



EPISTROPHチームからのオリエン・希望としては以下。

1Fはワインバー、2Fを物販のショップにすること
②1Fは入りやすい雰囲気にし、ワインセラーをつくること
③2Fは1Fの雰囲気を残しつつ、NYのジャズハウスのような雰囲気に

もちろん予算は青天井でなく、決められた目標額があります。
上記を踏まえつつ、まずはゾーニング(レイアウトプラン)を検討しました。

弊社でまず両フロアでそれぞれ3案を製作し、ご提案。
そもそもの物件の図面はこちら。

1F

入口は下部。入ってすぐ右手に螺旋階段。
奥に勝手口がありますが、窓はあまりない。


螺旋階段を上がると右手に開けたスペース。左手はトイレスペース。
右手のスペースは隅田川を望む形で窓が多数。昼は明るい空間でした。


そして、ここからが実際の初回のゾーニングプランの提案内容となります。
ここからは今回の内装デザインを担当した土堤内にバトンタッチします!

■ゾーニングプラン


ここからは設計担当の私、ドテウチが引き継いでご説明します!

A案

◯1F:
螺旋階段の下にターンテーブル。奥にウォークインセラーを設置。
◯2F:
階段横にテーブル席を設置。西側(図上)は壁に沿った商品棚と窓際はハイカウンターに。試着室は設けず、トイレでの試着を想定。

限られた店舗の面積、また実際に働くオペレーション、スタッフの人数を加味してバックヤードも作らないレイアウトに。

2Fも客席にもなるハイカウンターと商品棚を最大限に広げるため、試着室は設けず、広めにレイアウトしたお手洗いでの着替えをイメージしました。


B案

◯1F:
中央の動線間にセラーを設置。その奥にカウンターを作り、既視感のないレイアウトに。
◯2F:
階段横、東窓面(図下)にもハイカウンターを設置。
試着室は変形した空間を整形するため、階段左の入隅にレイアウト。

ウォークインセラーを作るのであればいっそのこと、このセラーをお店の顔、キービジュアルにしようという発想から生まれた案。

セラーを奥に作れば勿論、空間効率は良いのですが、通りの方からは見えないため、来店されないと気付けないものに。

下図のイメージのように通りから店内を眺めた際に目に入るイメージで考案しました。

入口から店内を見た際に、まずセラーが目に入るレイアウト。
セラー内でワインを選ぶ人やその奥のカウンターが見え隠れする。
セラーを通り抜けることもでき、通らずにカウンター側に行くことも。
その動線にはベンチを設け、座席に。

C案

1F:
A案に近いレイアウト。セラーの位置が異なっている。
2F:
こちらもB案のセラーのように、設備/要素の1つとして「作らなくてはいけない」試着室を空間のキービジュアルにするアイデア。

あえて空間の中央に設置することでシンボリックで新鮮なレイアウトに。

1Fの中央がセラー。その横がキッチンスペース。
セラーにはガラスのサッシとすることで、ワンオペでのお客さんの来店確認と圧迫感を軽減。
2F中央付近、柱型の形状のものが試着室。
ジャズクラブのようなカーテンとし意匠的な機能も付加。
参考写真


■デザインの検討:詳細イメージの収集とプロット


上記のようなゾーニングプランの提案を繰り返し、まずはゾーニングが確定。
A案をベースにしつつ、B案をミックスしたようなレイアウトととなりました。


◯1F:
・ウォークインセラーは奥の位置に。
・螺旋階段まわりにハイカウンターを設置し、カウンターは手前からでも出られるようにし、ワンオペも可能に。

◯2F:
・試着室はデッドスペースに。曲線を用いて空間効率を考えたものに(後述)
・壁に沿って商品棚を設置し、窓際にはハイカウンター兼棚に


ゾーニングレイアウトが決定したため、具体的な仕上げを決めていきます。
内装イメージは、前述の通り「NYのジャズクラブ」

加えて彼らが展開するハイクオリティなオリジナル商品の陳列を考慮し、それらの商品イメージを崩さないようなブティック感

この2つをベースに物件条件と照らし合わせていきます。
物件の引き渡し条件は下記の通り。

  • 新築物件

  • ブラックのアルミサッシ

  • デッキプレートの露出天井

  • コンクリートの床下地

  • ボード壁

これらを元にイメージを最大化できるよう、物件との相性を考えながら具体的なレファレンスイメージを収集していきました。

同時に、空間全体の雰囲気やカラー、マテリアルバランスをスタディするため、展開図にプロットしていきます。

下記が1F、2Fの展開図です。

天井と壁は現状を活かし、露出と塗装の仕上げ。
造作になるべくコストを回します。

1,2Fで空間の役割が切り替わるよう、塗装壁による色の切り分け。
壁はブリックタイルと補色の関係であるグリーンをベースに選定。

2Fは赤いカーテンと1F壁色を考慮したグレイッシュなオレンジと赤の中間色に。

箇所ごとの意匠はレファンレンスを添え、
風合いや世界観が伝わりやすいよう説明していきます。

機能的なアイデアやバックカウンターの詳細などを織り交ぜ、
お客さんの隠れたご要望も引き出せるよう打ち合わせを重ねていきました。

1F奥にワインセラー。入って左の壁はハイカウンターが続き、
奥にアイコンとなるメインカウンター。

2Fは商品棚兼ハイカウンターとなる什器を河側の窓際に配置。
試着室とニッチの商品棚の壁は波打つ造作壁に。

■最終デザインと工事

今回は必要機能である設備をキービジュアルにする考え方に。
1Fではカウンターとワインセラー、2Fでは物販棚に注力し、それらを「どう見せるか」の検討を重ねました。

ワインスタンドの「顔」となるカウンター。
天井のデッキプレートがスチールの印象を多く与えるため、木工カウンターで素材のバランスをとります。

変形した間取りを最大限に活かすため、不均等なカウンター形状になっていますが、その形状を魅力的で上質に映えるよう、腰壁には細く割いた無垢のリブ材を採用。
上部の収納扉にも同様のリブ材を使用し一体感を出しました。

リブ材は素材と色味、リブ幅や高さなどカウンターに併せて細かく比率を指定したため、完全にオーダーメイド。

同じリブサイズでも空間やカウンターの寸法によって感じ方が違うため、モデリングと図面で検証を重ねました。

スペース効率を考え、物件に合わせた変形カウンター。
変形した腰壁が魅力的に見えるよう連続したリブ材で製作。
収納扉に腰壁と同じリブ材を採用し、一体感と上質感を演出。


天板は耐久性と意匠を考慮し磁気タイルに。

ここでは、エントランスのタイルとデザインを合わせ、2丁掛けサイズから選定。素材感は違うものでも形状を合わせることで空間に一体感を生んでいきます。

他にも、素材や色は一緒でも形状を変えるなどして統一感を出すのも有効かと思います。

このあたりはファッションにも似ていると思っていて、同じ素材や同じ色のアイテムといったように何か共通項や意図を持って選定することを心がけています。


木部の素材は、ラワン材にオイルステインの仕上げ。
往年の名店ジャズクラブのような風合いを目指しながら、何パターンものサンプルを作成して検証していきました。


耐久性が求められる箇所には無垢の同材を使用し、コストを抑えながら機能と意匠を両立させています。

カウンターから階段、入り口方面を臨む。
ラワンのマテリアルを階段のササラや什器にも使用。

カウンター背面は特徴的なアーチのデザイン。

3つ並んだ象徴的なアーチの一つは、その奥にある勝手口のアルミサッシを隠し、空間の世界観を邪魔しないよう馴染ませています。

そのため、アルミサッシの寸法を基準にアーチの割付を行い、
ただアルミサッシを隠すための意匠に留めないよう視覚的にも計算しています。
残り2つのアーチにはミラーを仕込み、入り口の採光をはじめ様々な風景が映り込むことで、窓の少ない箇所に空間の広がりを生んでいます。

またミラー面とアーチ枠の間に奥行きを取ることで、平面で表層的な意匠にならないようにしています。

さらにその隙間に家具コンセントを仕込むことで、正面からはコンセントが隠れ、すっきりとした印象でありながら、天板での作業時にはすぐに使うことができるレイアウトになっています。

奥のカウンターは暗く採光も取りにくいため、鏡の効果で空間に広がりを生んでいます。


空間の奥にあるウォークインセラーにはワインが250本以上収容できます。
ガラス扉のワインセラーは、お客様が自由に思い思いのワインを選ぶことができます。

セラー内は素材は同じラワン材にオイルステイン仕上げ。
色を絞りシンプルな仕上げのため、並ぶワインのエチケットたちが空間に彩りを加えます。

エントランスに敷き詰められたブリックタイルは、螺旋階段のステップにも使用。そのまま2Fへと連続した意匠は、空間のアクセントとなっています。

基本の床は既存コンクリート床仕上げのため、床の仕上がりは外部から200mmほど下がっていました。

そこでNYを連想させる赤レンガを使いステップにできないか、と生まれたアイデア。
結果的に赤レンガより木下地のボックスにブリックタイルを貼る方がコストが下げられたため、ブリックタイルの仕上げに。

ワインセラーやカウンターに注力するため、床や天井は既存活かしでコストは抑えた計画。


良くも悪くも全体がハードな印象の空間に寄ってしまっていましたが、ブリックタイルを一部採用したことで、ハード部分とのコントラストを生み、ブリックタイルが強調され空間の温かみと上質感を演出することができました。

ここの箇所も仕上げは徹底的に納まり良く綺麗に仕上げていただきました。
他の箇所がハードに仕上げている分、メリハリを強調することでハードな空間にきれいなエリアが混在しているといったイメージです。

コンクリートとのコントラストがブリックタイルを際立たせています。
2Fから階段を臨む。連続したブリックタイルが上質感を表現。


このタイルは2023年の年始に訪れたオーストラリア・メルボルンの飲食店からもインスピレーションを受け、防滑性や耐久性の検証を行いました。

2023年1月に訪れたオーストラリア・メルボルンのカフェ「Market Lane」の店舗にて。
耐久性をクライアントさまは気にしていましたが、
この写真を撮り「大丈夫です!いけます!」とLINEしました。(倉嶋)


2F試着室の入口部はアーチにし、棚の形状も曲線に。

1Fのフロアデザインと同じく、間取りに合わせスペース効率を最大限に活かした結果、「この曲線でないといけない」波打った造作壁となりました。


平面で波打つ壁にアーチの開口を開けることによる曲線は現場の職人さんを困らせてしまいました(笑)

そこはさすが、プロの職人さん。

「できないかも・・・」とボヤきつつ、1週間格闘の末、現場では見事なアーチの入り口ができていました。

カーブした試着室の入り口からジャジーなベロアなカーテンがイメージ通り上質でクラブの入り口のような雰囲気を醸し出しています。

フロア中央には深紅の絨毯を敷き、ジャズクラブをほのかに感じる空間のアクセントに。

ニッチの商品棚と間接照明によりシンプルな中にも上質さを感じられ、
壁自体が異国感のあるアイコニックな空間に仕上げました。

ベージュの壁にジャズクラブのようなカーテンがアクセント。
ミニマルな空間に棚や照明、オレンジの塗装壁が良いアクセントに。
階段は落下防止の機能をプラス。
空間のトンマナに合わせ、ミニマルなワイヤーによる意匠。


最後に

クライアントの荒田くんはじめ、EPISTROPHチームの皆さんとご紹介いただいた加藤さんが僕らを最後まで信じ、任せて下さったこと、そして大変な現場の中、奔走してくださった工務店のセットアップさんのご協力のおかげです。

皆様、本当にありがとうございました!



今回は、変形間取りの物件でしたが、逆にそれがこの物件にしかない味となり、お店独自のデザインを生み出せたように思います。

その他にも新築物件のため各設備機器のルートや防火壁の造作の規制も多く、当初の計画からの変更も多数ありましたが、それら規制があることでデザインの個性や味、深みが増していくのだと思います。
(例えば、狭い暗いから鏡を使い閉鎖感を軽減させるデザインにするなど)

もちろん生みの苦しみも増しますが、、、(笑)

しかし、むしろそれが腕の見せどころであり、我々の得意とするところかもしれません。

是非、クセ者物件でお悩みの方は、住宅、店舗、オフィス問わず、お気軽にご相談くださいませ。


今回はこのあたりで失礼します。
最後まで読み進めてくださり、ありがとうございました!

担当:倉嶋/土堤内


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