世界は小さくてもよかったんだ。『猫を抱いて象と泳ぐ』の静けさと鋭いまなざしに見抜かれた本当の気持ち
澄み渡るような静かな心地と、ゾロゾロうごめく羨ましさ。
読後ひと月が経ったいま、この本のことを思うとまったく正反対の感情が湧いてくる。
『猫を抱いて象と泳ぐ』。
類まれなチェスの才能をもちながら、身を隠してしかその力を発揮できなかった青年の、ひそやかでいじらしい人生を描いた物語だ。
物語は常に静けさに包まれていた。胸が裂かれるような怒りや、許容量を超える悲しみを感じても、不思議と辺りには静かな気配があるように感じた。
それは、文章の落ち着きや流麗さ、言葉選びの上品さ、登