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「燃えよ」は神楽?太陽の化身となった藤井風

MVが公開になった「燃えよ」

「ちょっとダサいぐらいストレート」

藤井風本人が、そう言っていた通りだった。

でも、ダサくてもええよ。

いま、すっかり疲弊しきった社会に必要とされているのは、キラッキラの美辞麗句を重ねたフレーズではない。彼の歌のように直球ストレート、無骨でもごまかしのない言葉なのではないだろうか。

「燃えよ」

と聞くと青春ドラマや闘魂スポーツ、泥臭く熱い人間模様を思い浮かべる人もいるだろう。燃えよドラゴン、燃えよ鉄拳etc…。まるで「太陽にほえろ」とでも言わんばかりのアツいタイトル。そしてMVに現れた藤井風は太陽神の化身か巫女、呪術師かと見まがうようないでたちだった。


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伊勢海老、ザリガニ、鹿、ライオンキング、マツケンサンバ、大御所演歌歌手のかぶりモノ、映画テルマエ・ロマエ、踊るマハラジャ、バリ島のダンサー…王や神など、さまざまなものを想起させる。色彩豊かでユニーク、かつ風格あるデザインの衣装

クールなフリ もうええよ
強がりも もうええよ
汗かいてもええよ
恥かいてもええよ

太陽のように光と慈愛に満ちあふれる藤井風。彼の魅力は底が見えない。ややもするとコント調かと思うような泥臭い演出や、原始人の祭囃子のようなダンスでさえも、スタイリッシュで洗練された映像に磨き上げてしまうのだから。


「燃えよ」は魂や肉体をメラメラと「燃やす」だけではない。「もうええよ」と韻を踏んでいる。

「燃えよ」=「もうええよ」=「これでいいのだ」

諦観することで、ダサくてかっこわるい自分でも肯定しよう
と歌っている。

見栄も映えも、もうええよ。一番でなくても、もうええよ。本質さえ見誤らなければ、もうええよ。あなたはいるだけで、もうええよと。


「燃えよ」は神楽?

ハッキリ言って洗練された、いわゆるおしゃれシティポップではない。これまでもしゃれた歌詞の楽曲だったかというと、必ずしもそうではないけれど。
ただ、1st.アルバム「HEHN」に収録されている「もうええわ」と呼応するかのような美しい転調は、この曲にも健在だった。

♭系の調(A:Dur イ長調)で始まり、途中何度も近親調の#系へ転調、キーを1度ずつ上げることで、上昇気流に乗ったような高揚感を醸し出す。

半音、または全音上へ移調することでサウンドの色合いを変えていく。これは「丸の内サディスティック」はじめ、彼のたくさんあるカバー動画の中でもよく見られる手法。

「もーえーよ」と、同じ音型のフレーズを少しずつ変化させながら繰り返し(ループ)するパターンは「きらり」でもおなじみ。藤井風の得意なモチーフ展開だともいえるだろう。
単調になりがちなサウンドを、転調することで最後まで新鮮で飽きさせないのはさすがだ。

ローファイでラテンの香りもするリズムトラックに、ハモンドオルガンやシンセリードの上物がスパイシーなYaffleアレンジ。

これは実際に大阪でライブを見て感じたことだが、「燃えよ」は神楽であり賛美歌。神楽=ダンスミユージックだ。観客は徐々にビートに乗り、音楽と一体になって体を揺らして踊っていた。

声は出せないが、そこにいる人たちの身体には「もーえーよ!」のフレーズが共鳴していたはずだ。古くは江戸時代に民衆が「ええじゃないか」と唱え踊り狂った騒動もあったというが、ふと、そのことを思い出した。

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サビの「もーえーよ」から、ラテンのパーカッションが細かくリズムを刻む。
4つ打ちのバスドラと、ベースラインのドライブ感を強調するたび熱量は増し、体感速度が加速
する。
そこにレスリースピーカーでワウワウとうねるハモンドオルガンの音色を乗せることで、さらにスピード感を増強していくのだ。

2番の後半にもなるともう、ライブで上体をのけぞらせ、ショルダーキーボードをギュンギュンいわせていた藤井風がまぶたに浮かんで仕方がない(笑)


「燃えよ」で受け取ったもの

未知のウィルスにより社会は分断された。
肉体を通して触れあうこともかなわず、誰もが生身の感覚に飢えている。ひょっとしたら、自分だって明日はどうなるのか全くわからない。

なら、どうすればいいのか。

明日なんて来ると思わずに

「燃えよ」


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もう、薄っぺらい上っ面だけの言葉なんて要らない。
ダサくてもカッコ悪くても、不完全燃焼でも。ありのままで、もーえーよ。

大切なのは頭で考えるのではなく、肌で感じること。
そう、最も大切なのは太古の昔から人間が大切にしてきたプリミティヴ(原始的)な五つの感覚(見る、聞く、かぐ、味わう、触れる)なのだ。


全ての生き物に、等しく光と恵みをもたらす太陽。
お天道様は日本の天照大神(あまてらすおおみかみ)をはじめ、エジプトのラー、ギリシャのアポロンなど、どの国においても尊ばれる信仰対象だ。そして呪術師や巫女は神の化身となって踊り、歌う。



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土の匂いを、水の香りを

炎の熱を感じて「燃えよ」

風の歌を聴け!


MVラストでは真っ白な衣装で現実界に戻り、すっきりした様子で立ち去っていく。まるで異界で余分なものを、そぎ落としてきたかのようだ。

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藤井風は自分の身体を使い、音楽を通して民衆に語り掛ける”太陽の化身”…なのかも知れない。





藤井風さんのこと、いろいろ書いてます


画像引用:藤井風公式YouTube

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