フィクトセクシャルとサピオセクシャル
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代表の橋本なずなです。
これは私と友人の話。
古くから仲の良い彼女の性はジェンダーフルイドのフィクトセクシャル。
「ジェンダーフルイド」はこころの性が男性にも、女性にも、時と場合によって変わること。
「フィクトセクシャル」とは、アニメや漫画などの二次元のキャラクターに恋愛感情や性的な感情を持つことを指す。
彼女の趣味といえば、それこそアニメや漫画、ゲームに読書だ。
私の性はシスジェンダー、そしてサピオセクシャル。
「シスジェンダー」とは異性愛、女性に生まれて男性が好き。
「サピオセクシャル」とは相手の知性に性的魅力を感じる人のことを表す。
人を愛し、愛されたい私は、恋も多いほうだと思う。
彼女と知り合った当時は「二人って、なんで友達なの?」と周りの人によく言われた。
物静かでサブカル系な彼女と、社交的でギャル(?)っぽい私。
外見も中身も正反対な私たちは、私たち自身もなぜ仲良くなれたのかと長年疑問だった。
——— 『 これ、やってみてよ 』
そう言って私が彼女にシェアしたリンクをきっかけに、私たちはまた互いの理解を深めることになった。
冒頭で話したセクシュアリティの話は、セクシュアリティ診断という自分の性を診断できるサイトで、私と彼女が実際に出た結果のこと。
私は熱燗を、彼女はカルピスチューハイを片手に、互いのスマホ画面に映る診断結果を眺めていた。
『えっ…てことは、人間に対しては 好き! とか したい! とか思わへんってこと?』
『うん、そうやね。・・・今思うと私の初恋って孫悟飯やったかもしれん』
『ソ?ソン、何?孫悟空?かめはめ波の人?』
『 “孫悟飯” 、かめはめ波の悟空の長男だよ』
ふーん。と、熱々のだし巻き卵を口にふくみ、彼女の言っていることがまだ掴めずにいた。
『私のは・・・見て、 “知性が大事” って2回も言われてんだけどw』
『大事なことなので2回言いました、だね』
あ!そうだ、そうだそうだ!と、私は彼女の肩を叩いて言った。
『そういえば私、羊たちの沈黙のレクター博士のことをセクシーやと感じてしまう自分がおってな!今それが繋がった!』
不朽の名作 羊たちの沈黙 に登場する 天才殺人鬼レクター博士。
私がこの作品をはじめて観たのは中学生のときで、まだ性の知識も乏しく、だけど興味や好奇心はあったその当時、私の目にはレクター博士がセクシーに映っていた。
それがなぜなのか、明解なものは掴めないまま、取り急ぎ出していた答えは “人間らしさ ” だった。
羊たちの沈黙は凄惨な場面も多く、特にカニバリズム(人肉嗜食)や人の皮を剥ぐシーンなど、あの時の衝撃は未だ鮮明に記憶している。
しかし人を食したいから、人の皮が欲しいから、そんな私利私欲が原動力となり、人を殺めるレクター博士がとても人間らしいと感じた。
人間らしく道徳心があったら殺人なんてしない、という考えもあるだろうが、私の指す人間らしさとは動物的な衝動性の話。
中学生の頃、私は今より一層真面目で、正義感の強い性格だったから、私利私欲で衝動的に動くことができる対照的なレクター博士に惹かれていた。
そして、レクター博士が天才殺人鬼と呼ばれるには訳がある。
滾る己の衝動のスピードより頭を速く回転させて、最も最適な殺め方を導き出す。
最適な、とは必ずしも完全犯罪に繋がることではなく、それもまたその時々の求める快楽によって異なっている。
少し前であれば、レクター博士の “人間らしさ” が好きだとしか言えなかったが、セクシュアリティ診断で2回も念を押された “知性が大事” ということが点と点を線にした。
私はレクター博士のレベチな知性に興奮していたのだ。
『うっっっっっわぁ、繋がったわぁ。だから賢い人好きなんやわ私!』
ずっとモヤモヤしていた気持ちに、知恵の輪が外れた時のような達成感にも似た思いを感じられた。
なるほどねぇ、と言いながら彼女はポテトフライをつまむ。
『うーん、私は人間らしさとかより完璧さを求めてるんよな、きっと。
フィクトセクシャルの人って多分 “最上級の面食い” なんだよ』
最上級の面食い?どういうこと?と彼女の目を見つめて尋ねた。
アニメや漫画に出てくるキャラクターは、
男性なら身長180㎝、体重65㎏、加えて整った顔立ちをしているだろうし、女性なら胸とお尻が大きくてウエストが締まって足がスラっと長い、そしてもちろん可愛い顔をしている。
そのような人間離れしたものが、フィクトセクシャルの彼女の恋愛対象で、性的対象なのだ。
『許せないんだよ、欠点があると。だって完璧がそこにあるから』
『架空の世界にね?』
遠い目をする彼女を差し置いて私は間髪入れずマジレスしてしまったが、 “最上級の面食い” という言葉にとても納得した。
『えー、でも私はその欠点が好きやなぁ、人間らしくてさ』
AIやロボットと違って、矛盾が生まれるのは人間だけなのだ。
ダイエットしているのに夜中にお菓子を食べてしまうとか、嫌っていたはずなのにいつしか好きになってしまったとか。
そういう人間のダメな部分、不完全な部分が、たまらなくだらしなくて好きなのだ。
『いやぁ・・・ないわぁw』
『いや、そっちこそ!分かってないわーw』
私たちは笑いながら、一杯、もう一杯とお酒を飲む。
ふとこれまでを思い返すと、彼女の性はフィクトセクシャル以前に、男性が好きか女性が好きか分からない「クエスチョニング」だった。
だから昔から、私が好きな人の話をしてもセックスの話をしても、何もピンときていないようだった。
一度は彼女を心配し、『私と試してみる…?』なんて(本気で)言ったこともあったが丁重に断られた。
だけどそれも、今思うと失礼な話だった。
人を好きになって当然という “普通” の押し付けを、私もしてしまっていたのだから。彼女には悪いことをしちゃっていたなと反省した。
異性愛が、人を好きになることが、自分の性を知っていることが、必ずしも正義ではない。
LGBTQ+ みんな違ってみんな良い。
———『この前知り合った男の人がさー、めちゃくちゃイケメンで賢くて。好きんなっちゃったらどうしようーー』
———『このキャラは身体の曲線美と顔、それでいて性格が良くて最高なんだよ…!』
私と彼女の会話はいつも平行線、対極に居て交わらない。
だからヘタに干渉し合わないで、分からない世界だからこそ尊重できる。
私と彼女、この塩梅は私たちにしか出せない味なのだ。
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