寅さんシネマコンシェルジュ 第9回:男性の憧れ?寅さんの男の美学


寅さんを観続けてもうすぐ20年。たくさんの人に『男はつらいよ』を観てほしいという思いから、依頼いただいた内容をもとに好みや性格をお聞きし、おすすめの3本をご紹介します。
 


依頼者からコンシェルジュへの希望


 
依頼者プロフィール
アルさん 会社員 20代男性 寅さん鑑賞経験あり(全作鑑賞し、その後何本か鑑賞)
 
高校生で『男はつらいよ』を初めて観たとき、好きだった漫画の『こち亀』と似ていて好きになりました。そこから1年半かけて全作を鑑賞しました。私にとって、車寅次郎は憧れです。「男は去り際が肝心」「目で告白する」など、男の美学についての考えがとてもかっこいいからです。現実に寅さんがいたら、第21作『男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく』の留吉(武田鉄也)のように寅さんのかっこ悪い面を知らずに、先生と慕ってついて行ってしまうと思います。寅さんは感情的ですが、人のことを真剣に考えられる所や、人との距離の詰め方は理想的でかっこよく、そんな人になってみたいという気持ちもあります。印象に残っている作品は、第7作『男はつらいよ 奮闘篇』です。花子の世話をする寅さんに憧れています。その他では、男性キャラクターに共感しています。寅さんと若者のやりとりが観れる作品を希望します。
 

人生の教科書としての寅さん


 
アルさんは、高校生の頃に『男はつらいよ』の魅力に取り憑かれた珍しい方です。お話した時、映画に登場する「寅さんを支持する若者」のような印象を受けました。寅さんに指南を受ける若者は、寅さんの格好悪い面に気づいてないことが多いですが、アルさんも、もし自分が映画に登場するなら、そういうタイプだとおっしゃっていました。寅さんが語る男の美学は、女性から見ると、賛否両論で、特に第11、15、25、48作のマドンナ・リリー(浅丘ルリ子)からすると、「意気地なし」ですが、男性目線では格好よくて支持者も多いのかもしれません。それ以外の寅さんの生き方、特に人との関わり方にも憧れを抱かれているようで、人生の教科書としても『男はつらいよ』を鑑賞されているのかな、と思いました。寅さんと若者のやりとりが見られる作品がご希望でしたので、若い男性に寅さんが恋愛指南する作品を2作、アルさんが最も好きなシリーズ『男はつらいよ 奮闘篇』に描かれる「寅次郎の恋心と親心が混じり合った感情」がみられる1作をおすすめしました。
 

寅さんを師と仰ぐ若者


※以下、作品の内容を記述します。
 

①  第20作 「男はつらいよ 寅次郎頑張れ!」


公開:1977年 
マドンナ:藤村志保
ロケ地:長崎県平戸
 
あらすじ: 柴又に帰郷した寅次郎は、とらやに下宿するワット君(中村雅俊)と初対面でひと悶着。ワット君と仲直りした寅次郎は、彼が近所の食堂で働く幸子(大竹しのぶ)に恋していることを見抜きます。恋を応援する寅次郎はワット君に、デートの一日のプランや見てはいけない映画、公園での会話など事細かに恋愛指南して、さあデート本番、上手くいくのでしょうか。
 
この作品では、寅次郎と不器用な若者ワット君のペアに注目です。ワット君は寅次郎の教えた通りにデートをしようとしますが、上手くいかない所もあり、寅さんの男の美学の実践は難しいのでは、と思われます。前半では、ワット君に偉そうに恋愛指南する寅次郎ですが、後半では一目ぼれした藤子(藤村志保)に舞い上がり、ワット君があきれる場面も。両者の立場が逆転するのも見どころです。
 

②  第30作 「男はつらいよ 花も嵐も寅次郎」

 
公開:1982年 
マドンナ:田中裕子
ロケ地:大分県湯平
 
あらすじ: 寅次郎は旅先の旅館で二枚目の青年・三郎(沢田研二)と仲良くなります。また同じ旅館に宿泊していた女性二人組とも知り合い、その4人で観光することに。三郎は1人の女性・蛍子(田中裕子)へその日のうちに愛の告白をして振られ、寅次郎にダメ出しをされます。寅次郎は、恋愛にうとい三郎に恋愛指南をし、不器用ながらも三郎は蛍子にアプローチします。蛍子は、「三郎がチンパンジーの話しかしない」と悩んでいるようですが、二人の恋路はどうなるのでしょうか。
 
この作品では、寅次郎と若いカップルとの関係に注目です。寅次郎は三郎に恋愛について教えるのはもちろん、蛍子の恋愛相談にも応じます。恋に悩む女性に男性目線の意見を言いながらアドバイスする寅さんは珍しく、人生の先輩らしさが出ています。男前で親孝行だけど女性と上手く話せない三郎と、三枚目だけど女性を笑わせるのが得意な寅次郎のコンビが見どころです。
 

③  第26作 「男はつらいよ 寅次郎かもめ歌」


公開:1980年
マドンナ:伊藤蘭
ロケ地:北海道江差
 
あらすじ: テキヤの同業者が亡くなったと聞いた寅次郎は、北海道の奥尻島へ墓参りに行き、そこで娘のすみれ(伊藤蘭)に出会います。すみれには母がおらず、学校に行かず働いていました。「学校に行きたい」というすみれに同情した寅さんは、実家のとらやに下宿させ、面倒をみることに。定時制高校に入学するため、すみれは苦手な勉強に取り組みます。とらやの面々も総出ですみれをサポート。すみれの努力は実るのでしょうか。
 
この作品では、寅次郎がすみれへ抱く気持ちに注目です。親がわりに面倒を見ているようですが本当にそれだけでしょうか。『男はつらいよ 奮闘篇』にも通ずるこの感情をぜひアルさんに味わってもらい、さらに分析してほしいと思います。すみれに感化され、学校に付き添い、入学しようとする寅次郎にも注目です。
 

アルさんより感想をいただきました


 
ワット君も三朗青年も人に思いを伝えるのが不器用でまさに自分をみているようでした。
出会いの始まりはめちゃくちゃだけど最終的には2人ともきちんと上手く事を運んで寅さんはしれっと去っていく。寂しいけれどいつもどおりの展開で最後には正月縁日での寅さんの口上で幕を閉めるシーンはやっぱり清々しくて最高ですね!
すみれの話では花子編と同じく親目線で寅さんが過保護並に面倒を見るシーンが印象的でした。僕も歳の離れた妹がいるんで余計に感情移入しやすい話でした。

コンシェルジュを終えて


アルさんは、20代にしてシリーズを全作観られており、私と同世代ということもあって、寅さん談議に花が咲きました。ご本人が寅さんを先生と尊敬する若者のようで、特に、第30作『男はつらいよ 花も嵐も寅次郎』の三郎に似ていると思いました。真面目で落ち着いていて、仕事面などで悩みながらも働いている印象だったためです。もし寅さんがいたら、気に入られて叱咤激励されていそうな若者でした。実際に感想には、ワット君と三郎に親近感を抱かれたとのことでした。今回のコンシェルジュでは、男性から見た寅さんの「男の美学」への憧れについて貴重な意見を聴くこともできました。女性から見ると格好をつけすぎているようで、リリーからもこてんぱんに言われていますが、それが男性目線のカッコ良さなのでしょうか。ワット君のように、実践は難しいのではないでしょうか。疑問は尽きません。
アルさん、ありがとうございました。


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