寅さんへの誘い その2:人間味あふれる登場人物


柴又のレギュラーメンバー

『男はつらいよ』には、個性豊かな登場人物が登場します。今回は、レギュラーメンバーをご紹介します。登場人物の設定や性格のあとに、その人物の活躍する作品を挙げていますので、気になる方はチェックしてみてください。


車 寅次郎 

<渥美清>

東京都葛飾区柴又出身、テキヤで一年中旅暮らしをしている独身者。愛称は「寅さん」。陽気な性格と絶妙な話術で、人を楽しませることが得意です。勉強はほとんどできませんが大学教授や画家の巨匠など大きな肩書きの人物や知識人となぜか意気投合する性質を持っています。好意を持っている相手にはとても優しく、それ以外の人物を蔑ろにしてしまうという、都合の良い面も。よく恋愛していますが失恋してしまうことがほとんどです。ベージュのジャケットとズボンと帽子、水色のダボシャツ、腹巻き、雪駄がトレードマークで、その見た目から怪しまれることもあります。

第1作『男はつらいよ』は、父と大げんかし15歳の時家出した寅次郎が、約20年ぶりに帰郷する場面から始まります。家族は、両親と兄と妹でしたが、寅次郎が家出している間に、父・母・兄が亡くなったため、実家の団子屋※とらやは叔父、叔母、妹・さくらが経営しています。寅次郎は父と芸者の間にできた子であり、兄妹とは母が違います。父の弟である叔父・竜造と叔母・つね、さくらは寅次郎が20年ぶりに帰郷した際、彼を家族として歓迎します。20年ぶりに帰郷した後は、年に数回、実家に帰るようになります。

寅次郎の活躍を観たい方へのおすすめはもちろん全作品です。あえて1つ挙げるなら、第2作『続男はつらいよ』です。驚くべきことに、この作品で初めて登場する寅の母<ミヤコ蝶々>は大阪弁で、寅さんが江戸っ子ではないことが判明します。母の話術も一流で、寅次郎の口上の上手さは母譲りだと思われます。寅次郎と母の掛け合いはクオリティも面白さも最高です。

※ 第40作より団子屋の屋号が「とらや」から「くるまや」に変わります

車 櫻(さくら) 

<倍賞千恵子>

主人公・車寅次郎の妹で、両親亡き後は、叔父と叔母に育てられました。叔父・竜造たちの経営するとらやをよく手伝っています。兄想いの優しい心の持ち主で、しっかりしていて、落ち着いた常識人です。兄の行動で涙したり、旅先で宿賃を払えなくなった兄を迎えに行ったりと振り回されることもしばしば。しかし、家族が寅次郎を叱るとき1番効き目があるのはさくらです。本名は漢字表記の櫻ですが、本編の役名や書籍等でもさくらと平仮名で書かれていることが多いので、このnoteでも平仮名で表記しています。第1作で、とらやの裏の印刷工場で働く諏訪博と結婚し、諏訪櫻となります。結婚後は、キーパンチャーの仕事を辞め専業主婦としてとらやの近くに住んでいます。博との間に満男という一人息子がいます。

さくらの活躍が観たい方へおすすめするのは、何といっても第1作『男はつらいよ』です。初々しいさくらのお見合い、恋愛、結婚が描かれています。

諏訪 博

<前田吟>

さくらの夫で、とらや裏の朝日印刷で働いています。真面目で、仕事ぶりを印刷工場の社長に評価されています。とらやを訪ねてきた寅次郎の知り合いなど、人の相談に乗ることが多いです。大学教授の父<志村喬>に勘当されぐれていたところを朝日印刷の社長に拾ってもらったという過去があります。

博の活躍が観たい方へおすすめするのは、第8作『男はつらいよ 寅次郎恋歌』です。博の母が亡くなり、久しぶりに父や兄弟やその家族が集まった席で、「母は本当に幸せだったのか」と博が泣きながら本音をぶつけます。

諏訪 満男 

<中村はやと 吉岡秀隆>

さくらと博の一人息子。気が弱く優しい性格です。顔はなぜか伯父の寅次郎似と言われています。幼い頃から、寅次郎に振り回されており、無理やりデートの付き添いに誘われに鎌倉まで行ったこともあります(第29作『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋)。思春期以降は、寅次郎に恋愛や人生について教えてもらうようになり、寅次郎を尊敬しているようですが、恋愛面で意気地のない寅次郎を馬鹿にする場面も。42作『男はつらいよ ぼくの伯父さん』以降は、満男がメインのストーリーとなります。

満男の活躍が観たい方へおすすめのするのは、第48作『男はつらいよ 寅次郎紅の花』です。長年恋心を抱いていた及川泉<後藤久美子>が結婚すると聞いた満男は、結婚式を邪魔しに行きますが、厄介者扱いされ、何もかも放り出して奄美黄島へ。泉への気持ちはどこへ向かうのでしょうか。

おいちゃん (車 竜造)

<森川信 松村達雄 下條正巳>

団子屋の主人であり、寅次郎とさくらの親代わりで、二人からは「おいちゃん」と呼ばれています。寅次郎に対して叱ったりあきれたり、本気でけんかをしたりする場面も。1作目から8作目までを森川信、9作目から13作目を松村達雄、14作目から最終作までを下條正巳が演じています。それぞれの役者さんによっておいちゃんの魅力は少し異なりますが、お三方ともそれぞれの良さがあり、シリーズの途中で役者が変わっても違和感がありません。森川おいちゃんは、寅次郎と対等に威勢よくけんかをする場面、松村おいちゃんは満面の笑顔と調子よく冗談を言う場面、下條おいちゃんは威厳を持って寅次郎を叱る場面が印象的です。

おいちゃんの活躍が観たい方におすすめするのは、第8作『男はつらいよ 寅次郎恋歌』です。寅次郎がおいちゃんのことを「不幸せな一生だった」と馬鹿にしたように言うとおいちゃんは激怒。「俺たちが不幸せなのは、皆てめえのせいだ」と言い返し、寅さんの名言「それをいっちゃあ、おしまいよ」が登場します。

 

おばちゃん (車 つね)

<三崎千恵子>

車竜造の妻で、団子屋を営んでいます。子どもがいないこともあり、寅次郎やさくらを実の子どものように世話してくれます。旅先から電話をかけている寅次郎が「もう10円玉が無い」と言うと、とっさに10円玉を探し始めるなど少し抜けたところがチャームポイントです。団子屋・とらやには寅次郎と旅先で知り合った人など、十人十色の人物が訪ねてきますが、おいちゃんと共に彼らを優しく迎え、もてなす姿が印象的です。寅次郎が好きな献立、おいもの煮っころがしをよく作ってくれます。

おばちゃんの活躍を観たい方におすすめするのは、第32作『男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎』です。この作品では、おいちゃんとおばちゃんの馴れ初めが寅次郎によって語られます。また若いカップルを見て、おばちゃんはおいちゃんとのロマンスを思い出すシーンも。

タコ社長 

<太宰久雄>

とらやの裏にある朝日印刷の社長で、本名は桂梅太郎。見た目から「タコ」というあだ名で呼ばれています。寅さんとは、とにかくよくけんかをし、すぐに仲直りをします。けんかのきっかけはタコ社長が口をすべらせて寅次郎の逆鱗に触れることがほとんどです。仕事中や晩御飯時によくとらやに顔を出し、親戚のような付き合いをしています。あっけらかんとしていますが、経営者の苦労を漏らすことも。

タコ社長の活躍が観たい方におすすめするのは、第17作『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』です。この作品のマドンナ・ぼたん<太地喜和子>がお金をだまし取られたと知ったとらやの面々は、だまし取った相手の店に行って話し合うことにします。ぼたんの付き添いには何とタコ社長が。ずる賢い相手に、お金を返させることはできるのでしょうか。珍しく真剣な表情で挑む社長が見られます。

 

御前様 

<笠智衆>

とらやのすぐ近くにある柴又帝釈天のお坊さん。幼い頃から寅次郎を叱っていますが、大人になった今でも同じようです。とらやをはじめ帝釈天参道に住む人々のことをよく気にかけてくれています。トラブルが起こった際、さくらが御前様に相談することもあります。

御前様の活躍が観たい方におすすめするのは、第1作『男はつらいよ』です。この作品のマドンナ・冬子<光本幸子>は御前様のお嬢さんであり、寅次郎に冬子には婚約者がいることを告げるのは御前様です。娘とともに奈良を旅するシーンもあり、様々な場面で登場します。

 

源公

<佐藤蛾次郎>

帝釈天で手伝いをしている関西弁の男性で「源ちゃん」とも呼ばれています。もともとは寅次郎の舎弟で、とらやで働いていました。たまに鐘をつくのを忘れるなど、ドジを踏む場面が多いです。


源公が活躍する作品を観たい方へおすすめするのは、第10作『男はつらいよ 寅次郎夢枕』です。この作品にはとらやの近所の花嫁さんが登場しますが、実はそれは源公役の佐藤蛾次郎さんの本当の奥様です。まだ結婚式を挙げていなかった夫婦に山田監督が粋な計らいをして、シーン撮影後には結婚写真を撮られたそうです。

 

陰で映画を支える多様な人物の絡まり


『男はつらいよ』は、寅次郎の無茶な言動が印象に残りがちですが、その周りにいるさくらや博の落ち着いた常識ある態度、おいちゃんの叱る役目、おばちゃんの優しい目線、そして、御前様、タコ社長、源公などの家族とは違う立場の人々が、その人らしく関わることによってバランスを保っています。それこそが、この作品の隠れた土台といっても過言ではありません。平成、令和の時代は、このように多様な人間が日常から関わり合うことが減っていますが、性格が違う人、意見が違う人、立場や年齢が違う人たちとも話したり、ご飯を食べたり、教え合ったりすることで、新しい発見があり、人間は成長するのではないでしょうか。


たくさんの方に『男はつらいよ』楽しんでもらうため、寅さんコンシェルジュを行っています。「寅さんへの誘い」では、寅さんってよく聞くけど、どんな映画か知らないという方にいろいろな角度から寅さんをご紹介します。


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