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ケース21.功利的コミットメント〜持続的な心理的インセンティブ〜

▶︎長くコミットし続けるためには?

ライフステージや考え方、職場環境が変わって
いく中で、同じ仕事を続けていくのかを都度悩むことは誰しもあるのではないでしょうか?

経営の視点:
・経験を積み重ねて長く貢献してほしい
・ハイパフォーマーほど転職リスクが怖い

現場の視点:
・メリットがある組織でがんばりたい
・ライフステージが変わるほどメリットの重要度が増していく

仕事は生活のために必要との前提がある以上、会社とメンバーが関係を続けていく上では、報酬とパフォーマンスの等価交換としての相互のメリットが重要です。

そこで、今回は功利的コミットメントという概念に用いて持続的なエンゲージメントに必要な条件を考察します。

▶︎功利的コミットメント

所属している組織に対する損得勘定に基づいて形成されるコミットメント。
組織心理学者のジョン・マイヤー氏とナタリー・アレン氏によって提唱された組織コミットメント3要素のうちの一つ。


情緖的コミットメントに関する記事
規範的コミットメントに関する記事

金銭報酬や働き方、仕事の面白み、人間関係、コーポレートブランドなど、手放すと損だと感じるほど強まります。
逆に、自分のパフォーマンスに対して報酬が見合わないと感じる大きく低下します。

功利的コミットメントが高いと、ライフプランとも合致した動議づけがなされ、すれ違いなく不意の退職が防がれ、安定的な事業運営ができます。

本来的には入社前に期待値がすり合わせがなされているため、そもそもの期待と実態のズレがあるミスマッチの場合を除き、組織内の環境変化もしくは仕事で大事にしたい軸の変化がなければ低下はしません。

それでは、功利的コミットメントを保つためには、どのような注意が必要なのでしょうか?

▶︎金銭報酬は諸刃の刃

高度経済成長期の終身雇用から、環境変化に伴う成果主義への移り変わりにおいて、業績貢献を引き出す手段として、業績評価に連動した金銭的なインセンティブ設計が導入されるようになりました。
特に営業要素の強い企業では重視をされていますが、努力している人が報われる設計とすることで強い推進力を生み出すことができますが、業績評価では下記のデメリットがあることに注意が必要です。

①効率重視で損しないように挑戦しなくなる
②努力やプロセスが公正に評価されず、運に左右されると感じると不満が生まれやすい
③営業の個人成果以外の全ての活動を直接的に業績連動させることが難しい

このような特定の方向性に意欲を制限する金銭的なインセンティブ設計が報酬の多くを占め、都度の行動選択において、「〇〇をしたら△△をもらえる」とインセンティブに対する外発的動機が原動力となっていると、外的調整によって自己決定感が薄まり、仕事に面白みを感じなくなっていきます。
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功利的コミットメントが等価交換の認識によって形成されることを踏まえると、金銭的なインセンティブは、釣り合わないと感じ始めると損得勘定によってモチベーションとエンゲージメントが一気に低下しやすく、長期的なコミットメントを維持にするには諸刃の剣と言えます。
そのため、金銭報酬以外の心理的インセンティブが重要となります。

ダニエル・ピンク氏の『モチベーション3.0』では、報酬設計は生計のために軽視してはならない動機づけ要因であるものとしつつも、下記のように満足の基準が高まっていくと警鐘しています。

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金銭的報酬やきらびやかなトロフィーは、最初は満足感をもたらす快い刺激を与えるが、その感覚はすぐに消え去る。その感覚を保ち続けるために、受け手は、もっと大量に、もっと頻繁に報酬を要求するようになるからだ
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▶︎人生の時間を投じたいと思える戦略ストーリーがあるか

名残惜しい組織であるかどうかは、個人の都度の人生選択の継続か離脱かの判断で効いてきます。
成長し続ける組織は、そのビジョン実現の景色を待望して、船に乗り続けたいとの意欲が生じて、途中で離脱することは損だと継続するメリットがあります。
人は一度決断して時間を投じたことは安易には諦めたくないとのコンコルド効果が生じるため、強いデメリットを感じない限りは、継続を選択しやすいものであるため、離脱の背景には原因があるのです。
コンコルド効果に関する記事

そのため、組織の描く未来に向かって共感を持ち続けるための、ストーリー共有が功利的コミットメントを引き出すために重要となります。

一橋大学の楠木建教授の著書『ストーリーとしての競争戦略』では、優れた戦略はシンプルかつ少なくとも10年、できれば20年ぐらいの賞味期間が期待できるストーリーであり、人を魅力するものであり、実行にコミットさせるものと述べています。

本書では、ストーリーの一貫性として下記の3つが重要とされており、未来にワクワクできる戦略は相当に考え込まれているものです。

①強さ:因果関係の蓋然性が高い方が良い
②太さ:構成要素間のつながりが多い方が良い
③長さ:時間軸で拡張性なり発展性が高い方が良い


人生の時間を投じたいと思える戦略ストーリーがあるかで、所属し続けることのメリットが変わり、功利的コミットメントが変わると言えます。

『孫正義300年王国への野望』によると、孫さんは、尊敬する坂本龍馬が倒幕した江戸幕府の270年の歴史や、松下幸之助さん水道哲学の250年計画を基準に、経営幹部となる方々には「300年続く企業を作るための条件は何か?」の問い続けたり、新30年ビジョンのブレーンストーミングを求めているそうです。
未来への熱狂を引き出していることがソフトバンクの優位性の根源となっていると考えられます。

▶︎合理的な組織戦略/人事施策が継続的な事業成長につながる


『ビジョナリーカンパニー3 衰退の五段階』には下記の一節があります。

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警戒信号として何よりも重要な現象を一つだけ選ぶとするなら、主要なポストのうち、適切な人材が配置されているものの比率の低下をわたしは選ぶ。
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人にはそれぞれの人生があり、ライフプランが考えられるものである以上、その組織に所属し続けるメリットは重大な要素です。
組織は人から始まり、事業は人が前に進めるあるからこそ、ハイパフォーマーの離脱は、事業成長のスピードに著しく影響を及ぼすため、合理的に組織戦略や人事施策を仕掛けていくことが持続的な事業成長につながるのではないでしょうか。

※本noteでは、人の可能性を拓く組織づくりのための新しい気付きを届けることを目的に、組織論とケースを考察していきます。
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