ケース19.情緒的コミットメント〜愛着を高めるコミュニケーションデザイン〜
▶︎愛着はどのように醸成されていくのか?
「〇〇が好きだから」との感情が、損得勘定や多少の嫌なことを乗り越える原動力になった経験をしたことはないでしょうか?
人は「好きだ」とのポジティブな感情が紐付いた行動選択には、後悔が生じづらくなるため、踏ん切りがつきます。
経営の視点:
・組織への愛着を持てるようにしたい
・現場の感情を把握することが難しい
現場の視点:
・好きな職場や人と働きたい
・好き嫌いがある
人生100年時代で自律したキャリアの重要度が増していく中、転職の選択肢が常に傍らにあることで、会社や職場の人に愛着が持てなくなっている人が増えている傾向があります。
また、リモートワークの弊害としても愛着が持ちづらくなっているが挙げられます。
愛着の大きさは「何のために」との目的意識に紐付き、個人のやりがい、組織の生産性に影響するものです。
そこで、情緒的コミットメントという概念に用いて、仕事に愛着を持てるコミュニケーションデザインを考察します。
▶︎情緒的コミットメント
※規範的コミットメントに関する記事
※功利的コミットメントに関する記事
好きだから組織に居続けたいと思う気持ちを示す個人の組織に対する感情を示し、組織が持つ目標や価値観と個人が持つ価値観と近ければ近いほど強まります。
情緒的コミットメントが高いと、組織や周囲の人のために自発的にがんばろうとの意欲が高まるため、目の前の壁を乗り越える力にもなり得ます。
それでは、情緒的コミットメントを醸成していくためには、何ができるのでしょうか?
▶︎お互いのことに関心を示したコミュニケーションを図る
人は程度の差があれども承認欲求があり、誰しも自己を理解してくれる存在が安心感や動機づけに影響します。
誰かにも見られていないと感じると孤独感を生じて、組織や周囲の人に対する愛着が低下していきます。
善意によって行われる行動は特に見られていないと感じると不平不満に繋がることがあります。
※組織市民行動に関する記事
マッキンゼーの調査によると、週次でチェックインを実施するチームは、していないチームよりも高水準と明らかにされています。
ハーバード大学の研究においても、リーダーの重要な素質として”共感”が挙げられ、行動として”メンタリング”が挙げられています。
カーネギーの『人を動かす』の人に好かれる原則にあるように、相手の成功/失敗経験や目標、悩み事に耳を傾け、共通認識を図るために記録していくことで情緒的コミットメントを高めることができると考えられます。
GEの名経営者ジャックウェルチ氏は、リーダーに必要な行動の一つとして下記の自信を持たせるを述べており、「〇〇さんだからこそ〜」と相手にフォーカスをしたコミュニケーションは重要なのです。
また、人は好意に対して応えたくなる性質を持っているため、相手のことを考えたコミュニケーションは文化としても伝播していきます。逆に相手に関心を示さないドライなコミュニケーションも文化として根付いてしまいます。
※返報性の原理に関する記事
▶︎ポジティブなコミュニケーションの活性化
人は周囲への自己顕示欲による批判的な視点や、自尊心による不満を持ちやすい気質がありネガティブオピニオンリーダーの意見が蔓延してしまうことがあるため、ポジティブオピニオンリーダーを見出してフューチャーしていくことが組織コンディションを健全に維持向上するために重要です。
シリコンバレーの名コーチのビルキャンベル氏は、楽しい職場環境が高いパフォーマンスと相関していると考えて、家族や楽しい話題について話す情動的コミュニケーションを重要性を説いています。
また、サイバーエージェントのCHOを担う曽山哲人さんは、著書『サイバーエージェント流成長するしかけ』の中で、飲みニケーションにおいて、ちょっとよいお店でおいしい食事を食ベ、飲み会でしか聞けない話題を聞くことで現場を把握しながら、経営の考えを伝える工夫をしていると述べています。
職場内でポジティブなコミュニケーションが活性化していくことで職場への愛着が高まり、情緒的コミットメントが醸成されていきます。
その瞬間を楽しむセイバリングはポジティブな感情を高めるとされているため、レクリエーションや社内部活動など非公式な場での交流も情緒的コミットメントを高める要因になると考えられます。
※セイバリングに関する記事
例えば、「社員をサーフィンに行かせよう」と自律性を重じる経営思想で、定着率の高いパタゴニアのチームビルディングでは、メンバーが互いの全人格と個性を知ることができるように、本社を離れて、ハイキングやキャンプファイヤーといったレクリエーションを通じて、相互理解を深めるコミュニケーション機会を設けています。
▶︎組織の愛着が持続的な競争優位性となる
経営コンサルタントの山口周さんは著書『経営における「アート」と「サイエンス」』の中で下記を述べています。
退職者は、退職後も会社の代弁者となり、会社のことを良い評判も広めることもあれば、悪い評判を広めることもあります。
従業員体験の悪化が競合に対する情報漏洩にリスクにもなり得ます。
だからこそ、ジャック・ウェルチ氏のような名経営者は会社と従業員の関係を重視されています。
事業の原動力は人です。人材獲得/育成競争のウォーフォータレントの時代において、組織を構成する人々のコンディションをモニタリングして、組織に愛着を持たせる工夫を凝らすことが持続的な競争優位性に繋がるのではないでしょうか。
※本noteでは、人の可能性を拓く組織づくりのための新しい気付きを届けることを目的に、組織論とケースを考察していきます。 他記事はぜひマガジンからご覧ください!