見出し画像

ケース7.返報性の原理〜助け合いのコミュニケーション〜

▶︎職場内の助け合いを促進するために必要なことは何か?

いつの間に職場の空気がどんよりしていたり、不満を抱えている人が出てしまっていることを感じる場面はありませんでしょうか?

経営の視点:
・活き活きとした職場をつくり業績を良くしたい
・組織が大きくなるにつれて一人一人の状態を把握しづらくなる

現場の視点:
・楽しく前向きに働きたい
・職場の雰囲気は自分ではどうにもできない

ワンキャリア取締役CSOの北野唯我さんの著書『OPENNESS職場の空気が結果を決める』では、下記の要因から組織には、何もしなければ重力が生じて組織の崩壊に繋がっていくとの示唆があります。

・人数が多くなるほど社内政治や管理プロセスの冗長化といった組織的課題が発生してくる
・事業が成熟し始めると組織の中に飽きが発生してくる

著書では、その打破としてオープネスという情報の透明性が業績に関連することを重要視し、①経営開放性、②情報開放性、③自己開示性の3つに注目しています。

今回は、個人の自己開示性に注目して、助け合いのコミュニケーションを促進する返報性の原理という理論について考察します。

▶︎返報性の原理

相手から何かを受け取ったときに「こちらも同じようにお返しをしないと申し訳ない」という気持ちになる心理効果 のこと


返報性は4つに分類することができます。

①好意の返報性
:相手から何らかの好意や親切を受けたときなどに、そのお返しやお礼をしたくなる心理
②敵意の返報性
:相手から敵意を向けられた際に、無意識のうちに同じように敵意を返したくなる感情
③譲歩の返報性
:相手が譲歩に対して今度は自分が譲ろうとする心理
④自己開示の返報性
:相手がオープンな態度で接してくれると、自分も相手に心を開きやすくなる心理


『影響力の武器』でも取り上げられ、セールスやマーケティングの領域で注目されることが多い理論です。
主体的に相手の心理を変化させる手法と言えます。

相手から好意を寄せられれば自分を好意を抱き、相手から敵意を寄せられれば自分も敵意を抱く。
職場内の人間関係は、日々のコミュニケーションにおいて、無意識のこれらの返報性の原理が作用して、その瞬間の雰囲気に影響を与えると考えられます。

それでは、個人がポジティブな感情を持ち、職場の雰囲気を良くする返報性の原理を作用させるには、どのような工夫ができるのでしょうか?

▶︎感謝の気持ちの連鎖を引き起こす

職場の人間関係が悪化するケースの多くは、案外、日々のコミュニケーションの些細な尊重や気遣いの不足が火種となりやすいものです。
仕事が忙しいほど、ついつい感謝の言葉を伝えられずに日常に流れてしまう。

そのような文脈でHRTechでは、サンクスカードのデジタル化が進んでいます。
サンクスカードとは、従業員同士で日頃の感謝をお互いに送り合う制度です。
デジタル化によって、より手軽に送り合う仕組みが作られています。

ANAやJAL、オリエンタルランド、ザ・リッツ・カールトンなど、顧客体験の高さが秀でている企業では、その土壌となる従業員体験を高めるために重宝されている機能です。

メルカリでは、mertip (メルチップ)という制度で、見落とされやすい日常の出来事に対して、気軽に感謝の気持ちを表せる仕組みを運用しています。

相互に感謝の気持ちを伝え合ったり、称賛し合ったりすることで、仕事に対するモチベーションや組織へのエンゲージメントの向上が期待できます。
また、目立たない貢献や挑戦をフィーチャーすることで、心理的安全性を担保できるようになります。

返報性の原理で考えると、感謝や称賛の行動を促進することは、職場内の関係性を良好にする連鎖を生むことに繋がると考えられます。
善意で行われる役割外の組織市民行動に対しては、特に有効です。
組織市民行動に関する記事

そして、イギリスの文学者のサミュエル・ジョンソン氏の下記の言葉を参考にすると、感謝の気持ちは大事でありながらも、誰でも自然と出てくるものではなく、磨いていくべき尊い素養なのです。
ーーーーー
感謝の心はたゆまぬ教養から得られる果実である。それを粗野な人々の中に発見することはない。
ーーーーー

▶︎コミュニケーション機会が生産性に影響する

コロナ禍をきっかけにリモート文化が浸透した弊害として、コミュニケーション不足による孤独感やパフォーマンスの低迷、メンタル不調などが徐々に問題視されています。

『データの見えざる手~ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』の著者で、ソーシャルグラフ(※)を研究する矢野和男氏は、
コミュニケーションの重要性を説いています。
※互いに影響を与えあう複数の人間の結びつきや、かかわり合いを示した概念

誰と誰がコミュニケーションしているのかというデータを分析していくと、コミュニケーションの構造と幸福感には相関関係があるとされているのです。

例えば、コールセンターでの実証実験では、休憩中に従業員同士の雑談が弾むと、職場全体の幸福度が上昇し、受注率が30%も増加したとの調査結果があります。
面白いことに、雑談の多い個人のみが生産性が高まったのではなく、職場全体の受注率が向上しています。
コールセンターは、個人業務が多いにも関わらず、職場の雰囲気が生産性を高めていることを示しています。

コミュニケーションの不足がマイナスな雰囲気に漂いやすいものですが、上記の研究では、仕事の上の会話ではなく、休憩時間に雑談することによって、好意の返報性や自己開示の返報性が作用しやすくなると考えられます。
また、リモート文化においては、業務指示や依頼、指摘がテキスト上で行われることが多く、意図が伝わらずにミスコミュニケーションが発生しやすいものですが、思わぬ敵意の返報性が作用することもあるのではないでしょうか。

業務外のコミュニケーション機会を作ることは、職場の雰囲気づくりに良い影響をもたらすと言えるでしょう。

▶︎根気強い好意が組織風土をつくる

アダム・グラント氏の『GIVE&TAKE』では、与えるよリ多くを受けとろうとするテイカーと、受けとる以上に与えようとするギバーがいるとされています。
ギバーは短期的には見返りがなく報われないと感じやすいものですが、長期的には人の信頼や繋がりを通じて実っていくとの示唆があります。

返報性の原理のポイントは、相手の心理を変化させるために自らが起点となって行動を起こすことです。
冒頭で組織は拡大に応じて何もしなければ重力が生じていくと述べましたが、返報性の原理を考えると、一人一人の相手への思い遣りが連鎖していくことで職場の雰囲気を良好にして、業績に繋がっていくと考えられます。
個人と組織のコミュニケーションの工夫が、組織力を高めていくのです。

好意は返されないと悲しいものですが、根気強く工夫し続けて、返報性の原理を作用させることが、助け合いを促進して、良い組織風土をつくる一助となることでしょう。

※本noteでは、人の可能性を拓く組織づくりのための新しい気付きを届けることを目的に、組織論とケースを考察していきます。
他記事はぜひマガジンからご覧ください!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?