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ケース18.自己決定理論〜成果に繋げる権限委譲〜

▶︎人に任せる上での注意点は?

仕事は1人ではできない前提の上、誰かに任せたり、任される中では、認識がズレて上手くいかない経験をしたことはないでしょうか?

経営の視点:
・組織が大きくになるつれて権限委譲が必要なっていく
・期待と異なる状態だと口出しせざるを得ない

現場の視点:
・任されたことでは期待に応えたい
・任されたことで口を出されるとやりづらい

任せる側と任される側それぞれの心情があるが故に、権限委譲は難しいものですが、目的は組織の成功にあることは共通しているはずです。
本来はその目的に任された側が自律的に向かっていくことで権限委譲は成功したと言えるはずが、任せる側が関与し続ける限りは、むしろコミュニケーションコストが高まる挙げ句、やらされ感に陥ってパフォーマンスも落ちてしまいます

そこで、今回は権限委譲をしていく上での注意点を自己決定理論を用いて考察します。

▶︎自己決定理論

アメリカの心理学者エドワード・デシ氏とリチャード・ライアン氏によって提唱された内発的動機づけと外発的動機づけは対立する概念ではなく、自己決定の度合いによって外発的動機づけから内発的動機づけへと変化するとの理論。


自己決定理論では、下記の自己決定の度合いによって動機づけの度合いが高まっていくとされています。

①外的調整:報酬や罰など周囲の指示によって行動する
②取り入れ的調整:羞恥心や義務感から行動する
③同一化的調整:見出している価値のために行動する
④統合的調整:価値観や欲求など自分らしさのために行動する
⑤内発的動機づけ:やりがいや楽しさから行動する


そして、⑤の内発的動議づけに近づけていくには、下記の3つの欲求を満たすことが必要となります。

A.自律性の欲求:自分の行動は自分で決めていると感じたい
B.有能感の欲求:自分には能力があると感じたい
C.関係性の欲求:他者と尊重し合う精神的な関係を築きたい


それでは、権限委譲で内発的動議づけに近づけていくには、何ができるのでしょうか?

▶︎ローコンテクスト文化で判断基準を揃える

権限委譲の前提として、背景説明のない指示は受け手にとってはただの思いつきの命令にしか聞こえず、外的調整や取り入れ的調整となり、目的に対して自律的に動機づけされ思考するための土台ができません。
また、どんなに具体的な指示をしても、人の解釈が入りコントロールすることは不可能なため、そもそもの目的を言語化することが自己決定感のために必要です。

Google社の組織開発を担われたピョートルさんの著書『心理的安全性 最強の教科書』では、「言わなくても分かるだろう」とハイコンテクストな文化にあぐらをかいていると相互理解が薄れて、心理的安全性が低下していくと、関係性が悪化し得ると示唆されています。

また、スマートニュース社などの成長IT企業のHRに携わられた冨田憲二さんの著書『企業文化をデザインする』においても、優れた企業カルチャーほど曖昧さを許さずに、組織の判断/行動の指針を明確にしなければ、現場において小回りが利いた判断や行動ができないと、自律性が高まらない可能性が述べられています。

指示を出す側が権威に頼ったトップダウンで介入していては、動機の弱い無思考の実行をさせてしまうため、意義を見出せるように目的を言語化して共通認識を図り、自己決定感の度合いを高めることが重要と言えます。

細かく指示して失敗すると、「Aさんに言われたから」と他責思考になり、失敗から学習することができず、グループシンクに陥って、組織力が低迷していきます。
グループシンクに関する記事

▶︎自己決定感を担保するフィードバックの工夫

シリコンバレーの名コーチのビルキャンベル氏は、批判的なフィードバックに伝える際には、人目のないところで与えることにも気を配っていました。

カーネギーの『人を動かす』の中では、批判や非難、苦情を伝えると、受け手は自己の正当化の防衛本能が働き、自尊を傷つけられると反抗心を起こすため、伝え方を工夫することが重要とされています。
人は敵意を感じると、敵意で返す返報性の原理が働きます。
返報性の原理に関する記事

一方、成果責任を持って任せることと、成果責任を度外視した放任は異なります。
任された側が誤った方向に進んでいる場合には、早期に軌道修正をしなければなりません。

そのため、軌道修正のために介入するタイミングと、フィードバックを伝える場の工夫が自己決定感を担保する上で肝要です。

介入する際には、罰を恐れる外的調整や羞恥心による取り入れ的調整が作用するよりも、内発的動機に近づけるために、「信頼するあなたのためのフィードバック」と自律性の欲求、有能感の欲求、関係性の欲求を配慮することが有効と考えられます。

▶︎自律的な動機づけのための自己決定感

1,300年前からリーダーシップの型として参考にされ続けている中国唐の太宗李世民の『貞観政要』では、下記の権限委譲の仕方を誤ることが組織の崩壊につながるとの警鐘があります。

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臣下にいったん権限を与えたら、その権限は臣下のものです。皇帝といえども口出しすることはできません。それが、仕事を任せるときのルールです。いやなら、その部下を更迭すればいい。それをせずに口出しすれば、「組織」が「個人商店」になってしまいます。
皇帝は絶対的な権力を持っています。ですが、「ここから、ここまでは、自分で決めていい」と権限を与えて部下に仕事を任せたのなら、たとえ皇帝であっても、部下の決定に従わなければなりません。
皇帝が自分勝手に権力を行使すれば、人民や臣下を疲弊させ、やがて裸の王様になってしまう。太宗には、そのことがよくわかっていました。高い地位についた人間が、裸の王様になれば、君主の一言一句に組織が振り回されるようになり、同質化します。そして同質化した組織は、やがて時代の変化から取り残されてしまいます。
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鶴の一声で安易に決定が覆る組織では、目的を考えるのではなくトップの顔色を伺うばかりで、リーダーシップが育つことはありません。

権限委譲では、任せる側の器が大切であり、任される側も自己決定感を持てるように、主体的に目的や判断基準を揃えることが、自律的に組織目標に向かう組織文化のために大切なのではないでしょうか。

※本noteでは、人の可能性を拓く組織づくりのための新しい気付きを届けることを目的に、組織論とケースを考察していきます。
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