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ケース15. グループシンク〜リスクに強い多様性のあるチーム〜

▶︎チームの一体感の裏にある危険を察知するには?

一体感が強い時ほど、意見の対立は起きずに、新しい意見には排他的になってしまっていると感じることはあるではないでしょうか?

経営の視点:
・一体感のある文化をつくりたい
・斬新な意見を取り入れたいが実現することは難しい

現場の視点:
・一体感が強いと反対意見を出しづらい
・価値観の異なる人をチームに迎え入れることが難しい

一体感はチームの帰属意識や目標達成意欲を高めるメリットがある一方で、不祥事などのリスクに気付かないとのデメリットもあります。

CIAでは、1947年から2001年まで多くが白人、キリスト教の中流階級出身で構成されており、金銭的な苦境も、迫害も、過激思想に触れることもなく、画一化されたチームとなっていました。
その結果、職員が同じような見方をする傾向があり、同時多発テロ9.11のオサマ・ビンラディン氏の危険の前兆を軽視してしまっていたとされています。
マシュー・サイド氏の『多様性の科学』で警鐘される多様性の欠如がもたらすリスクの例の一つですが、優秀な人が集まる国家最高機関の一つでも、このような一体感の裏に危険が潜んでいます。

そこで、今回はグループシンクという概念に用いて組織の裏に潜むリスクの心理的なメカニズムを考察します。

▶︎グループシンク(集団浅慮)

集団の意思決定において合意形成を図ろうとするあまり、適切に判断・評価する能力が著しく欠如してしまい、かえって不合理な結論や行動を引き出してしまう現象のこと。
集団的意思決定の研究で著名なイェール大学の社会心理学者アーヴィング・ジャニスにより、1972年に提唱された概念。


集団で意思決定する時、集団としての能力に過度の自信を持ってしまうことで、根拠のない楽観主義が芽生えて、悪い兆候を見逃して、ひとりで決断するよりも、大失敗する危険性が高まることを示しています。

グループシンクは下記のような要因から生じます。

①集団凝集性(メンバーの帰属意識)が高い
②組織外との接続が弱く、閉鎖的な環境
③トップダウンが強い
④目標や期限のプレッシャーが高い
⑤利害への忖度が大きい
⑥専門家の知見に対する依存度が高い

アーヴィング・ジャニス氏は、米海陸軍首脳が真珠湾攻撃のリスクを過小評価したことなどを事例にグループシンクの危険性を警鐘し、アメリカ元大統領のバラク・オバマ氏はグループシンクを回避するチームを作りたいと述べられていたそうです。

グループシンクが発生しやすい組織では、少数派の意見は受け入れられず、都合の悪い情報は軽視されてしまうことから、組織としての自浄能力も弱くなってしまいます。

それでは、グループシンクを回避するには何ができるのでしょうか?

▶︎狙って反論を取り入れるようにチームを構成する

意思決定におけるバイアスは無意識の防衛本能から都合の良い解釈しよいとすることによって起きます。
それ故に「我々は、〇〇だ」と伝統的な文化を大事にしていたり、失敗への恐れが生じやすい文化では、多様な意見が取り入れられずに、グループシンクが生じやすいと考えられます。

多様性のあるチームづくりができれば、集合知の幅も深みも増す、一方で多様性に欠け同質性が高すぎるチームでは物事の捉え方が似通っていることで盲点を強化してしまいます。
しかし、多様性を担保した方がメリットがあると理解していたとしても実現することには壁が立ちはだかっています。
人は自分の意見を肯定されると、脳内の快楽中枢が刺激されるという研究結果もあり、人は同じような考え方の仲間に囲まれていると安心するという心理が存在することです。

そのため、多面的に現実の情報に向き合うリスクに強いチームを作っていくためには、現状の盲点や弱点を補うことを目的に自チームの実力を見定めて、反論をもたらす新参者を取り入れていく意図した対策が必要です。

人的資本の重要度が高まって世情に合わせて、ダイバーシティ&インクルージョンが提唱されていますが、このキーワードの意味は人材の多様性(=ダイバーシティ)を認め、受け入れて活かすこと(=インクルージョン)であり、ただ多様性のあるチーム構成にしていくことがゴールではなく、活かしていくことが重要なのです。

活かすことを目的とすると、多様性のあるチームづくりには明確に狙った反論を取り入れていくために、受け入れる側の覚悟はもちろん、受け入れられる側の動機づけとケアがなければ、同調圧力に打ち消されてしまい、グループシンクを防ぐ真の意味での多様性のあるチームを築くことはできないでしょう。

正解のない思想を追求する西洋哲学が、哲学者同士の反論によって発展してきた歴史を参考にすると、多様性のあるチームをつくることは集合知が強いチームをつくることに繋がると考えられます。

▶︎リーダーの器を広げる

目的達成のために、信頼関係構築を土台として部下の意見に耳を傾けるサーバント型リーダーシップが注目され、ファーストリテイリングの柳生正氏も自社の管理職のリーダーシップに求めていた型とされています。

組織はリーダーの器が決めるとされていますが、グループシンクを防ぐためにはリーダーシップの在り方が重要と考えられます。

1,300年前からリーダーシップの型として参考にされ続けている中国唐の太宗李世民の『貞観政要』では、リーダーに必要な3つの鏡のうちの一つに、部下の厳しい直言や諫言を受け入れる”人の鏡”があります。

李世民は、皇帝として相応しい器になることを目指して、側近の房玄齢と杜如晦に加えて、敵方であった魏徴を登用して、諫議大夫という皇帝を諌める役職につけています。
皇帝であっても、決して全能ではないことをわきまえ、自ら欠点や過失を指摘されることを望み、臣下の諫言を積極的に受け入れ、彼らの批判に耐えることで、自らを鍛え上げていったとされています。
また、臣下に権限移譲すると、口出しをしないとことを徹底されています。
それは、権力の強いトップが介入して朝令暮改になることが現場を疲弊させ、よりトップの一言一句に組織が振り回されるようになり、同質化が深くなることを危惧していたからとされています。

リーダーの役割の一つは、正解がわからない中で右か左かの判断を迫られることにあるため、その判断材料として多面的な意見が集まる状態を築くことが重要なのです。
それがなければ、メンバーや顧客、ステークホルダーの現場の心の機微に気付かずに、グループシンクに陥って誤った方向に舵を切ってしまう可能性があります。

特に、自己効力感が高いエース社員が、チーム効力感が低いと、組織への帰属意識が下がり、
プロスペクト理論が作用して、損をしないように、自分の仕事の範囲に閉じるか、退職するかとネガティブな方向に進みやすくなってしまうため、トップの器を広げてチーム効力感を高めることは重要と言えるのではないでしょうか。
プロスペクト理論自己効力感チーム効力感に関する記事

▶︎組織の衰退は気付かぬうちに始まる

ジム・コリンズ氏の『ビジョナリーカンパニー3 衰退の五段階』では、どんなに偉大な組織であっても没落する可能性はあり、下記の五段階から生じるとされています

第一段階:成功から生まれる傲慢
第ニ段階:規律なき拡大路線
第三段階:リスクと問題の否認
第四段階:一発逆転策の追求
第五段階:屈服と凡庸な企業ヘの転落か消滅


第一段階か、第二段階、第三段階のうちに対応ができれば持ち返すことが可能とされていますが、そのためには、常に緊迫感を持って、グループシンクを乗り越えた最適な意思決定が必要と考えられます。

共和政ローマのカエサルは、「人は現実のすべてが見えるわけではなく、多くの人は見たいと思う現実しか見ない」と指摘しています。
一体感が強い時ほど、チームの勢いが生まれていきますが、中長期的に成長し続けるチームを創るためには、狙いを持って多様性のあるチームにして現実に立ち向かう強さをつけていくことが有効なのです。

※本noteでは、人の可能性を拓く組織づくりのための新しい気付きを届けることを目的に、組織論とケースを考察していきます。
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