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ケース2.自己効力感〜小さな成功体験を掴む職務設計〜

▶︎ 一事成れば万事成る。どのような組織で人は目標に立ち向かえる?


困難な目標に相対する時、達成できるのか不安が脳裏を過ぎることは誰しも経験があるのではないでしょうか?

経営の視点:
・目標設計を通じて、必要な成果を出すための成長をさせたい
・任せた目標を達成させたいがスキルや意欲が十分か不安
現場の視点:
・目標達成を通じて、達成感や成長実感を得たい
・目標を達成したいが成果を出せるか不安


目標設定は難易度と運用方法が肝要です。
人には感情があるため、自分がどんなにがんばっても成果に結びつかないと感じ続けると諦めが生じる学習性無気力に陥ってしまうことに注意しなければなりません。

そこで、今回は自己効力感という概念について考察します。

▶︎自己効力感

自己効力感とは、「自分ならできる」と目標を達成するために必要な行動をうまく遂行できると、自分の可能性を認知していることを指します。
スタンフォード大学の心理学者のアルバート・バンデューラ博士によって1977年に提唱され、さまざまな人事施策でも援用されている心理学の概念です。


自己効力感は、主に下記の4つから形成されるとされています。

①成功体験:ある行動を最後までやり遂げ、達成することができた経験を持つこと
②代理体験:自分と近しい他人の成功体験から気付きを得ること
③言語的説得:周囲から励まされること
④生理的情緒的状態:心身の健康がプラスであること


自己効力感が高い人は「自分ならできる」と挑戦心が湧きやすく、失敗しても立ち直りやすい。
一方で、自己効力感が低い人は「自分には無理だろう」「失敗したらどうしよう」という不安が大きくなり、諦めやすくなります。

自己効力感を高めていくためには、どのような工夫ができるのでしょうか?

▶︎人の心理に影響を及ぼす職務設計

ハックマンとオルダムの職務特性モデルでは、人の心理は下記の職務特性によって左右されるとされています。

①技能多様性:単純作業ではなく、多様なスキルや才能を活せる仕事であること
②タスク完結性:始めから終わりまで一貫して携われる仕事であること
③タスク重要性:周囲や社会に良い影響を届ける仕事であること
④自律性:裁量度の高い仕事であること
⑤フィードバック:結果の成果を認識できる仕事であること


例えば、
分業が進みすぎると仕事に一貫して携われず仕事に対する有意義感を見失う。
裁量度が低く決められた通りにしかできない仕事だと責任感が芽生えない。
自らの活動から成果認識までリードタイムが遠すぎると経験が積み重ならず「次はもっと」と向上心が芽生えづらい。
といったように、職務設計次第で仕事を通じた心理が変わるとの理論です。

セールスフォース発SaaS業界の代表的な組織設計のTHE MODELにおいても、機能ごとの分業においては、各部門がコントロールできる中間指標の設定や、ヒューマニティーを加味した設計が重要とされています。

また、JALの企業再生など注目を浴びた京セラのアメーバ経営では、全社員が収益を意識してPDCAを回せるように、5〜10名単位のチームに独立採算を持たせる細分化を図りますが、ここでも、チーム単位で成果管理に納得感とコントロール可能性を持てるような役割責任が前提として設計されます。

このように、職務特性が人の心理に及ぼす影響を鑑みると、目標達成に向き合う自己効力感を醸成するには、成功体験を実感できるような職務設計を吟味することが大事と考えられます。

▶︎改善を促進するパフォーマンスマネジメント

組織目標の達成に向けて、プロセスが多数ある中で、最も重要なプロセスをKPIとして定めることで、組織のベクトルを合わせながら、最大限の成果を出すことができます。

KPIの設定における重要なポイントは下記などが挙げられます。

・定数と変数を分け、努力でコントロールできる指標を定める
・原則シンプルに理解でき、覚えやすいことが前提
・指標は多すぎてはならない
・遅行指標ではなく先行指標
・データが即時で手に入ること

このような観点があるため、KPIの指標設定は安易に行ってはならず、念入りに検討して行われければなりません。

マッキンゼーの著者『勝ち続ける組織の10の法則 』では、ある調査によると89%の社員がパフォーマンスマネジメントのアプローチ次第で、自分のパフォーマンスが改善すると考えており、指標の乱立が非生産的な時間を増やしていると感じている傾向があると述べられています。

自己効力感の先行要因となる成功体験や代理体験、言語的説得を起こすには、大前提、指標に対する「〇〇をすれば成果を出すことに繋がる」と、納得感が必要であり、そのためには、対話を通じて、期待値と現状を認識できるようにした上で、的確なフィードバックが行われる運用が重要と言えるでしょう。
納得感のある指標でこそ、自身の達成経験が成功体験となり、他メンバーの達成経験から代理体験を得られ、周囲からの声掛けが言語的説得となる。
行動から成果認識までのリードタイムを短期化して、小さな成功体験を得られるようにKPIが設計されていることが望ましいのではないでしょうか。

▶︎ポジティブな経験の連続が目標達成意欲を高める

人は実践を通して体験したことから、経験則を得て、それらをパターン化することによって、「〇〇の場合は、△△すれば良い」と困難な場面にも挑戦できる胆力が身に付いていきます。

仕事ができる人も、バッググラウンドが単に高学歴であるとか、素養でIQが高いということはなく、未知の仕事や避けたがるような修羅場に、他の誰よりも数多く挑戦した経験を持っているものです。
そして、困難な目標に対しても、過去の経験から知恵を絞って対処をし、周囲から認めれる成果を残しています。

そのため、目標に挑む文化を作っていくには、科学的管理法的に事業目標からブレイクダウンした目標をただ提示するのではなく、一人一人が自己効力感を高めるために、「〇〇すれば達成できる」と個々人が考えられるような設計が重要であり、小さな成功体験でポジティブな感情が積み重なっていくことで、より大きな目標に挑めるチームを創っていけるでしょう。

また、個人の視点に立つと、受動的に留まらず、主体的に創意工夫ができるように自らの役割をデザインしていきながら、自身や周囲の経験から「何をしたらどうなるのか」と言語化して学んでいくことで、自信に繋がる成功体験を掴んでいけるのではないでしょうか?
世界レベルのプロスポーツ選手も、アファメーションというポジティブな自己肯定ための暗示を習慣化している方が多いとされていますが、どんな困難なシチュエーションに対しても、自分の整理次第では希望は見えてくるものです。

※本noteでは、人の可能性を拓く組織づくりのための新しい気付きを届けることを目的に、組織論とケースを考察していきます。
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