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「自由への手紙」(オードリー・タン[語り])を読むー「誰かが決めた『正しさ』はいらない」

若干35歳で台湾のデジタル担当大臣に就任し、今回のパンデミック対策でマスクの在庫確認ができるアプリを導入した人として名を馳せた。さらには、高いIQ指数(測定可能な測定値160)を持ち、学校教育は14歳で自主退学。そして自身はトランスジェンダーであることを公表している。

何から何まで我々とは違ったバックグラウンドを持つタン氏の自由論。でも読み終わって思ったことは、普段自分が感じていたこととおんなじだということである。ずっと自分が変だと感じたり不快に思っていたこと、もやもやしてきた事柄を明確に言語化してくれた、ということだ。

タン氏は、この本で17項目の事柄から自由になろうと語っているが、「〜から自由になる」ことを「ネガティブ・フリーダム」と言って、「既存のルールや常識、これまでとらわれていたことから解放され、自由になること」「個人として何かから自由になること」と定義している。それは、消極的な自由であると。私の場合は、この「〜から自由になる」ためにもがいてきたようなものだ。


*17項目とはー不平等、不安、年齢、競争、国家、対立、(誰かが決めた)正しさ、男と女、ジェンダー、家族、強制、ヒエラルキー、支配、言葉の壁、スキルセット、一枚岩、お金ーどの項目も、日々我々が直面し葛藤し続けているものだ。

そのネガティヴ・フリーダムをさらに進めると「ポジティブ・フリーダム」になり、自分だけでなく他の人も解放し自由にしてあげることができる、と。タン氏にとっての自由な人とは、このポジティブ・フリーダムを体現している人のことである。そして自由をシェアしようと呼びかけている。

「自由とは受け取るものではなく、惜しみなく与えるものである」から。


この本で、私の日頃の思いとピッタリと一致するタン氏の考えに出会った。それは、

「人生を通して学びなさい。学び続けなさい」ということである。
「生涯にわたって大切なのは、『学び続けよう』という思いを学ぶこと。

「以前はスタンダードな回答があったかも知れないが、今は新しい考え方が刻々と生まれており、生まれるごとにスタンダードな回答では間に合わなくなりました。それでも人は、それぞれに異なる現実に対峙していかねばなりません」

「次々に立ちあらわれる問題については、その人の頭脳と心をもって解決していくしかありません。なぜなら、現実は常に更新されるものです。人間の歴史が始まった瞬間から、現実はずっとアップデートされ続けてきました」

またタン氏の主張が、今まで読んできた著書や人物の発言と共通しているとも感じた。例えば、

「支配から自由になる」の項目では、

民主主義を意味あるものにするために必要なのは透明性と説明責任であり、選挙の時だけ国民に向き合うような現状を憂いている点は、著書「民主主義とは何か」(宇野重規 著)でもルソーの言葉「自由なのは選挙の時だけで、選挙が終われば奴隷に戻る」を引用して述べられていたことだ。

「仕事から自由になる」の項目では、

「これからの新しい働き方には知識ではなく英知が必要になる」というタン氏の言葉は、今福龍太氏の「『知』は、我々の社会を創造していく真の力であるが、その時の『知』とは『知識』(knowledge)ではなく、『知性』(intelligence)であるはずだ」と述べていることと酷似している。さらに、

「正しさから自由になる」の項目では、

「誰かが決めた正しさに合わせなくていい」は、スティーブ・ジョブズの「Think different」「誰かの教えにとらわれるな。それは他人に従って生きることだ。あなた自身の内なる声を周囲の意見に埋もれさせるな。最も大事なのは、あなたの心と直感を信じる勇気を持つことだ」という主張を想起させる。


将来が見通せないこの時代、自分で学び、考え、判断することが求められている。だから学び続けることが必要なのだ。日常の中で「不快だ。変だ」と感じたその感覚こそが大切なのだ。


ジョブズの言うように直感を大切にしよう。そこから改革が始まる。その際、「教育の改革はあらゆる改革の支えになる」とタン氏は言っている。

「改革が進んでいけば、今見えている『思想の風景(ideascape)』を変えることができる」と。

私的には「生物学的年齢からの自由」に自分の意識が解き放たれるのを感じた。年齢を否が応でも意識させられる日本社会で、自分がどれほどその「生物学的年齢」に縛られて生きてきたかを実感した。それよりも「心の年齢」にこそ着目すべきであるとの言葉に、大いに励まされた。

#読書の秋2022


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