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同窓会

高校を卒業して10年あまり。同窓会開催の通知が届いた。今までも何度か開かれていたようだが、今回初めて出席してみようと思った。彼には会いたい人がいた。同じクラスだったその彼女とは、まともに話したことはなかったが、何故か気になる人だった。

他の女生徒達と群れるわけでもなく、一人でいる姿に何故かひかれた。彼女の周りだけは違った空気が流れているようで。思いを打ち明ける勇気もなく、三年生の時間は過ぎていった。そんな時は、自分一人の時間を過ごしたくて、学校に隣接する公園に行った。お決まりのベンチに座って、彼女を思った。トランペットの練習をしたり、スクワットをしたりもした。

思っていた通り、彼女は同窓会には出席していなかった。昔の友人達の何人かに会ったけど、なんだか自分だけが浮いているように思えた。場違いな感じがして落ち着かなかった。クラスメイトとは言え、十年間全く音信のなかった人間に会っても特段の感慨は無かった。それだけ過去の自分と友達は希薄な関係だったのだろうと思った。

会がひけて、中途半端な気分のまま帰る気にもならず、ブラブラと歩いてあのベンチまで来た。ベンチには先客が座っていた。よちよち歩きの幼児を連れた女性だった。幼児はカーリーヘアで、振り向いた時の顔は明らかに日本人の目鼻立ちではなかった。その女性は、英語で幼児の名前を呼んで何やら話しかけていた。

立ち去りがたく、その場にたたずんでしばらく二人をながめていた。澄み切った青空に、黄色に染まったイチョウの木々が突き刺すように立っていた。穏やかな秋の陽ざしを受けて戯れる二人の姿を目で追っていた。

女性が幼児を抱えて近づいて来た。「お久しぶりです。同窓会に出席なさったのでしょう?」見ると、その女性は高校時代のあの彼女だった。化粧っ気のないその顔には、当時の面影が残っていた。あの頃のぎこちない自分がよみがえった。

「同窓会では、あなたにだけお会いしたくて、ここで待っていました」

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