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第6回:『忘れえぬ魔女の物語』は、タイムリープものが苦手な人にも試してほしい百合ラノベ

こんにちは!あみのです。今回は、宇佐楢春さんのライトノベル作品『忘れえぬ魔女の物語』(GA文庫)を紹介します。新人賞作品のひとつで、レーベルの推し作品なのかいつものGA文庫とカバーの触り心地やイラストの使い方が圧倒的に違い、なんだか特別な1冊感が凄いです笑。

この物語は、女の子同士の友情、あるいはその先の関係を描いたいわゆる「百合」というジャンルにカテゴライズされる作品です。また「時間」にまつわる不思議な要素も多く、軽めのSF作品としても楽しむことができます。

百合のジャンルが好きな人はもちろん、ちょっと独特な時間の描き方をした作品でもあるので、タイムリープを描いた作品に抵抗のある人にもぜひ試してほしいと思った1冊です。(ちなみに私も正直、タイムリープ系は苦手だったりします)

あらすじ(カバーからの引用)

 今年進学した高校の入学式が三回あったことを、選ばれなかった一日があることをわたしだけが憶えている。そんな壊れたレコードみたいに『今日』を繰り返す世界で……。
「相沢綾香さんっていうんだ。私、稲葉未散。よろしくね」
 そう言って彼女は次の日も友達でいてくれた。生まれて初めての関係と、少しづつ縮まっていく距離に戸惑いつつも、静かに変化していく気持ち……。
「ねえ、今どんな気持ち?」
「ドキドキしてる」
 抑えきれない感情に気づいてしまった頃、とある出来事が起きて―――。
 恋も友情も知らなかった、そんなわたしと彼女の不器用な想いにまつわる、すこしフシギな物語。

感想

主人公の綾香は、「同じ日を複数回繰り返し、その中の1日が採用される」という奇妙なタイムリープに巻き込まれています。繰り返す1日は決して同じ内容ではなく、同じ日付だとしても綾香にとって都合の良い日もあれば、悪い日もあります。「今日はどのパターンが採用されるのだろう?」という綾香の期待と不安の描き方が私はとても好きでした。

綾香は他人から見ればどこにでもいる女子高校生です。だけど、彼女は同じ日を何度も繰り返す→そのいずれかが採用されるという変わった時間を過ごしているので、本人としては75年生きているのと同じ感覚でいます。そのようなこともあってか、綾香はややネガティブに時間を費やしているように見える部分がありました。

しかし未散と出会い、親友(もしかするとそれ以上の関係かもしれない)になったことは、綾香にとって時間がいかに大切なものなのかを学ぶことでもあったと思います。それを象徴するのは、物語の佳境で訪れる未散との仲に関わる「ある試練」なのではないのでしょうか。私は第4章冒頭の言葉に驚愕しました。この物語、残りのページで何が起きるのだろうかと。

綾香は未散との仲を引き裂く危機から脱出するため、唯一タイムリープのことを知る優花の力も借りながら何度も「10月5日」という1日を繰り返すことを選びます。私がもし綾香の立場だとしたら、未散を救うことを諦めてしまうと思います。途中優花に反対されながらも、初めて仲良くなった人である未散を助けてあげたいという綾香の強い気持ちと、「時間」に対する捉え方の変化が印象に残りました。

最後に今作は、ただ単に女の子同士の特別な友情を描いた作品なのではなく、タイムリープによって「好きな人と過ごす時間」というものがどれほど大切なものなのかを強く感じる物語でもあったと思います。こうしてみると同じラノベ作品でも作中の人間関係や切り口は全く違いますが、ちょっと前に読んだ『時間泥棒ちゃんはドキドキさせたい』と似たテーマがあるように感じました。

とりあえずひとつのエピソードとしてのまとまりはあったのですが、まだまだ今作だけでは謎の残る部分も多い作品だと思いました。綾香と未散の関係も含め、シリーズを通して「時間」という要素をどう描いていくのか関心がありますね。

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