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第13回「インタビューの心得」 【前編】

「文章の書き方」編集&ライティング歴40年ほどのフリーライター。120冊以上の書籍化でライティングを担当。このnoteでは、誰でも文章が上手になるコツを伝えようと思います。特に順序立てて書くわけではありませんので、どの回から読んでいただいてもかまいません。また何回のコーナーになるかも決めておりませんので。暇な時に拾い読みして、参考になる部分だけを実践してみてください。


インタビューのコツ


 私はこれまでの編集者時代とライター時代とを合わせると、おそらくは千人を超える人たちへのインタビューをしてきました。十分程度の短いものもあれば、五時間を超えるようなロング・インタビューもあります。さらにそのテーマは多岐にわたっています。
そんな経験から、私自身が掴んだコツを紹介していきたいと思っています。
今回は前後編があります。


メディア・テーマで変わる役割

 まずはインタビューといっても、そのテーマによって方法は大きく変わってきます。単純な事実を聞くインタビューであれば、聞くことは決まっているのですから、少しの経験を積めば大抵の人はできるでしょう。
事実を聞きだすインタビューの代表格は新聞です。新聞記者というのは、正確な事実を読者に伝えることが第一の目的です。

 たとえば何らかの事件や事故が起これば、その日時や原因などを正確に取材しなくてはなりません。その事実の中に、記者の感情などは基本的には必要がないのです。
私は高校生の頃から新聞を丁寧に読むのが日課でした。五十年ほど昔の話です。その当時の新聞を思い返してみると、それはそっけないほどに簡潔に書かれた記事が基本だったように記憶しています。余計な脚色や記者の感情などはいっさなく、ともかく事実を知らせることだけに特化していたように覚えています。

 ところが近年の新聞記事には、ときに不要なほどの書き手の感情が記されたりしていることがあります。被害者の心の痛みを必要以上に取り上げています。いかにも読者の涙を誘おうと。もちろん事故や事件で被害を受けた人の気持ちには心を向けなければなりません。傷ついた心に寄り添っていくこともメディアとしての責務でもあるでしょう。しかしそれは、事実を記すことが目的の新聞がやるべきことではないと私自身は感じています。事実だけを記した記事は、いかにも冷たく思えるものですが、それこそが新聞というメディアのもつ役割なのです。


インタビュー前後での心得


完璧な事前準備で、焦りを寄せ付けない

 新聞に対する思いはさておいて、こうした事実のみをインタビューするときに大切なことは、事前の準備です。
このインタビューの目的は何か。もっとも聞きたい事実とは何なのか。その質問項目を一つ一つ書きだしておくことです。それも、思いつくがままに書きだすのではなく、優先順位をしっかりとつけながら質問をつくっていくことが重要です。
インタビュー時間には制限があります。「15分以内でお願いします」と言われれば、その制限時間内で終わらせなくてはなりません。少しくらい伸びても許される場合もありますが、次のインタビューアーが待っていたりすると、「では時間です」と強制的に終了させられることもあります。何とか必死に次の質問をしようとする記者もいますが、そんな記者は三流だと周りから思われてしまいます。
なぜならば、一流のインタビューアーというのは、制限時間が15分だとしたら、始めの10分間で必要最低限のことは聞きだしているからです。あとの5分間は「おまけ」だと考えています。「まあ、聞けたら聞けばいいし、聞けなくても十分に記事は書くことができる」とそう思っているのです。

要するに完璧な準備さえ整っていれば、時間制限などは気にする必要はないということです。準備不足のままでインタビューに臨むと、どこかに焦りが出てきます。そしてその焦りは相手にも伝わりますから、結果として良いインタビューにはならないのです。


心地よいインタビュアーになる

 では次に、単に事実だけを聞くのではなく、その人の考え方や思いを聞くインタビューについての心得を紹介します。

 「あなたにとって幸せとは何ですか?」。たとえばこのような抽象的なテーマのインタビューというのが、いちばん難しいものです。
幸せとは人それぞれです。つまりは、どのようなことをインタビューで言ったとしても、こちらはそれを受け止めなくてはなりません。たとえその答えがありふれたつまらないものであったとしても、「私にとっての幸せとはこれです」と言われたらそれ以上は聞くことはありません。
しかし、そんなありふれた答えでは読者の人は満足してくれません。何とかして「興味を惹かれるような回答」を引き出さなくてはならないのです。

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 そのためのテクニックをいくつか紹介します。まずは、相手の話すスビードと声の大きさを自然に合わせることが大事です。インタビューする相手が、ゆっくりと話す人であれば、そのスビードに合わせることです。相手がゆっくりと話しているのに、聞く方が早口で話したりすれば、何となくインタビュー自体がぎくしゃくとしてきます。反対に相手の人がハキハキと話す人なのに、こちらがのんびりとした話し方をすれば、途端に相手の人はイライラとしてくるでしょう。イライラした状態で良い答えは引きだせません。

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 また声の大きさも同じことが言えます。相手が静かに小さな声で話しているのに、こちらが大きな声で話せば、これもまた相手の人がストレスを感じてしまいます。声の大きさもまた人それぞれです。聞き取れないような声で話す人もいれば、不必要なくらいに大きな声で話す人もいます。普段の自分の話し方を変える必要はありませんが、インタビューのときには自分の話し方を変えて、相手に合わせることが大事なのです。要するに、いかにして相手が話しやすい空気をつくるかがポイントになってくるのです。


待つこと=聞くこと

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 もう一つは、相手が考える時間を待ってあげるということ。先のテーマのような「幸せとは何ですか」といった質問には、一言で表せるような明確な回答などありません。きっと聞かれた人は、自分の心の中でじっくりと考えながら答えを見つけようとするものです。

 心の中で考えて、すぐに言葉にできる人もいれば、なかなか自分の思いを言葉にできない人もいます。簡単に言うとお喋りな人もいるし、寡黙な人もいるものです。もしもインタビューの相手が寡黙な人であれば、できるだけ言葉が出てくるのを待ってあげることです。こちらが質問をしたのに、なかなか相手が言葉を発してくれない。そんな状況になったときに、つい焦って質問を重ねようとする人がいます。
 「抽象的な質問ですが、普段から思っていることでかまいません」とか「幸せって意外と日常のなかに潜んでいるものですよね」などと言葉を重ねてしまう。そんな言葉で追いかけられると、寡黙で言葉の少ない人は「いま考えているのだから、もう少し待ってほしい」と心の中で思うものです。

 寡黙な人というのは、けっして言葉をもっていないということではありません。自分の発言に責任を持ちたい。いい加減な答えを言いたくない。言葉にする前に自分自身の心に問いかけたい。そんな気持ちをもっている人なのです。
 質問を投げかけてから、十分も黙っているのは不自然ですが、1分や2分くらいの沈黙は大したことではありません。じっくりと相手に考えさせる時間をあげること。その時間があることで、読者の心を打つような言葉を引き出すことができるのです。


前編でのコツ

・事実のみをインタビューするときに大切なことは、事前の準備
・相手の話すスビードと声の大きさを自然に合わせる
・相手が考える時間を待ってあげる

このような内容をお伝えしました。
それでは、後編に続きます。

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